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住めば都にしおりをはさみました!
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住めば都
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「どうしたの?」という問いにも答えず、ラヴィは僕を抱き上げると物凄い勢いで駆け出し、脇目も振らずに家の地下にあるシェルターへ駆け込んだ。
家族はみんな外出していたから、シェルターには僕とラヴィの二人きり。
僕はもう一度「どうしたの?」と尋ねたけれど、ラヴィは僕を強く抱きしめたまま何も言わなかった。
その直後、大地震かと思うほどの強い揺れと、シェルターの中にいてもなお鼓膜を引き裂くような轟音に襲われた。
何か良くないことが起きていると、情報は何一つ持ち合わせていなくても本能が悟り、怖くなった僕はラヴィにしがみつく。
「旦那様も奥様も別のシェルターに避難されたようです。きっとご無事ですよ。何も心配はいりません」
それが本当のことなのかラヴィの優しい嘘なのかは、今でもわからない。
何しろ僕はあの日以来、生きた人間とまだ出会えていないから。
嫌な思い出を振り切るように、僕は軽く頭を振った。
しばらく黙々と歩き続けると、砂がわずかに隆起している場所にたどり着く。
半分ほど埋没してしまっているが、それは地下街へ続く階段だった。人目に付きにくいこの場所は、ひっそり暮らす僕らにとって恰好の隠れ家だ。
いつものように僕は身をかがめ、狭くなった入口をくぐるようにして中に入る。
地上の息苦しさとは打って変わり、管理された空調の快適さに僕は深呼吸を繰り返した。
「住めば都っていうけどホントだね。こんな寂れた地下街でも、帰ってくるとホッとする」
「シェルターが使えなくなった後、水も電気も生きているこの場所を見つけられたのは、本当に幸運でした」
大きくうなずきながら、ラヴィがにっこり微笑んだ。
小さな商店が軒を連ねる狭い通路を、僕とラヴィは並んで歩く。
それぞれの店先に並ぶのは、埃をかぶっていてもまだ充分使える商品ばかりだった。これらを拝借すれば生活用品に困ることはないし、固形完全栄養食の在庫も豊富だ。何といっても蛇口をひねれば水が出るのがありがたい。
荒廃する前の便利な暮らしと比較さえしなければ、この地下街は天国と言っても過言ではなかった。
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