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自転車。にしおりをはさみました!
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自転車。
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「あ、そう言えば新しい自転車来たわよ」
濡れた髪もそのままに首にタオルを巻いて準備されていた夕ご飯を食べていると母さんが機嫌良さげにそう言った。
幸い鈴花は俺が風呂に入ってる間に部屋に戻ったようでリビングに姿はなかった。
よかった、と胸を撫で下ろしたのは言うまでもなく。
「ほんと?ありがとう」
「お母さんじゃないわよ。お兄ちゃんが買ってきてくれたの」
「え!?兄ちゃんほんとに買ってくれたんだ」
忘れもしない数週間前。
兄ちゃんの運転する車に俺の自転車様が無惨に轢き潰されたことは記憶に新しい。
お年玉を叩いて買った自転車だけに俺の落胆ぶりはひどかった。
そんな俺に罪悪感を感じた兄ちゃんは弁償すると言っていたのだ。
だけど、常に金欠と明言している兄ちゃんのことだからと、ぶっちゃけあてにしてなかっただけに驚きは半端ではなかった。
たぶんバイト増やしたんだろうな。
兄の涙ぐましい努力が目に浮かんだ。
ありがとう、大事にするよ!
「ちゃんとお礼言っときなさいね」
「はーい」
返事をして残ったご飯を口の中へと掻き込んだ。
早々にご馳走様をして食器を流しに置いて水につける。
これでよし、とケータイを片手にリビングを後にした。
自室のベッドにダイブして、まずは壱也さんに今日のお礼とか楽しかったということをつらつらと綴ったメールをニヤニヤしながら送った。
それから兄ちゃんにお礼のメールを送ってみる。
それから、頭に浮かんだのが蓮。
毎日一緒に行ってるし、自転車が壊れてからは後ろに乗せてもらってるし。
ちゃんと言っておいた方がいいよなってLINEを開いたけどピタリと指が止まった。
『俺は反対だからな』
不意に、あの時言われた台詞が鮮明に蘇る。
それに蓮の表情も。
蓮に会った金曜日、今までにないくらい気まずい状態で別れてる。
何でもなかったようにLINEなんか出来ない。
蓮とこんなふうになるとか初めてで、本当に何て送ったらいいのかわからなかった。
ギュッとケータイを握りしめていると不意にケータイが振動した。
少し跳ね上がった心臓が疎ましい。
開けば、まさに今悩みの対象となっている蓮からのLINEだった。
恐る恐る開いてみると、これまたショックのでかい内容だった。
【しばらく朝は別で行く】
蓮はまだ怒ってる。
素っ気なさすぎる文面に少しだけやっぱりって思う自分がいた。
俺が壱也さんと関わるのをやめない限り、たぶん蓮は絶対引かない。
じんわりと目頭が熱くなる。
でも、唇を噛み締めてそれをやり過ごした。
何でこんなにも反対されるんだろう。
不良だからとか、そんなので人を判断するようなヤツじゃないって思ってたのに。
【わかった。】
返せる言葉なんてこれくらいしかなくて、いつだってヘタレな自分に少し腹が立った。
もしかしたら口も聞いてくれないかもしれない。
そう思ったらまた目元が熱くなるから堪えるようにジッと天井を睨みつけた。
翌朝、玄関の扉を開いてがっかりする自分がいた。
もしかしたらいつも通り蓮がいて、やっぱ一緒に行こうって言ってくれるかもって都合が良過ぎる期待をしてた。
でもやっぱり蓮はいなくて、ずっと一緒だったのに一人で登校しないといけないんだと思うと寂しいというか、悲しいというか。
だけど、そう思う反面、少しだけ安心してる自分もいる。
今の状態じゃ気まず過ぎて、逆に状況が悪化しそうだもん。
「はあ・・・」
大きく溜め息を吐きながら、買ってもらったばっかりの自転車に跨がった。
どうしたら蓮にわかってもらえるのか。
ペダルを漕ぎながら考えるのはそればかり。
ほとぼりが冷めるまで触れずにいようか。
一瞬そんなことを思ったけど、そんな逃げ腰じゃダメだって後ろ向きな考えを振り払った。
蓮とギクシャクしたままは嫌だし、何より俺のために逃げたくない。
とりあえず学校に着いたら声をかけてみよう。
できてしまった溝を埋めるべく奔走しようと心に決めた俺だった。
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