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"Le Lien"にしおりをはさみました!
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"Le Lien"
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一週間が過ぎるのはあっという間で。
蓮とのことは何も進展がないまま、気が付いたら週末になっていた。
今日は金曜日で、明日バイトが休みだからと再び壱也さん宅にお泊りに来ていたんだけど、今は何故かバーに来てる。
壱也さんに連れて行きたいところがあると言われて夕食後に連れ出されたのだ。
そこは先週の昼間に訪れたお店で、今日はちゃんと看板が出てた。
"Le Lien"って名前のお店らしい。
OPENの札がかかった扉を開けると店内のBGMが耳に届く。
照明が程よい間隔で設置されていて少し薄暗い店内はこの間よりも更に大人な雰囲気が漂っている。
自分が場違いすぎて無意識に身を縮めた。
更に言えば、テーブル席の一つにいる数人のお客さんが不良な風貌をしていてちょっと怖かったのもあり、情けなくも床を凝視するという状態。
だって視線が痛いんですもん。
でも、そんな状態だったせいで壱也さんがその人たちに手で挨拶していたことに気付かなかったり。
小さくなったまま壱也さんの後ろをついて行くと案の定カウンター席に座るように促されて更に小さくなった。
「こんばんは」
「こっこんばんはっ」
席に座った途端、カウンター内にいた20代後半くらいのバーテンダーと思われる物腰の柔らかそうな男の人に声をかけられた。
にっこりと俺に微笑んだあと、その柔らかい視線は壱也さんに移った。
「久しぶりだね、壱也」
「そうでもないだろ」
「二週間くらい顔見てないよ」
バーテンダーさんは見た目も口調も優しげでとても落ち着いてる感じがお店の雰囲気によく似合ってる。
親しげに話す二人に壱也さんがよくここに来ていたってことがわかった。
いわゆる行きつけのお店、そんなところに連れてきてもらえるのって何だか嬉しい。
二人の様子を見ていると、壱也さんに名前を呼ばれて思わず姿勢を正した。
「ここのマスターのリュウさん。リュウさん、こっちは、」
「知ってるよ。噂のリョウタくんだろう?」
ふふっと笑ったリュウさんに思わずポカンと口を開けてしまった。
噂の、って一体どんな噂ですか。
固まる俺に反して壱也さんは小さく溜め息を溢した。
「銀司か馨だろ」
「正解。どっちもだよ。二人ともすごく嬉しそうに話してたよ」
クスクスと笑うリュウさんに壱也さんは溜め息を吐くけど、でも嫌がってるようには見えなくて、ちょっと照れてるのかもと思った。
どうしよう。普段かっこいい壱也さんが可愛く見えてしまった。
じーっと壱也さんの横顔に視線を送り過ぎていたのか、不意に壱也さんと目が合った。
「どうした?」
「い、いえ、なんでもっ」
じっと見つめられて恥ずかしさから心臓が早鐘を打ち始める。
この際俺たちの様子を見てクスクスと笑っているリュウさんには気付かなかったことにしよう。
「稜太くん何飲む?」
「えっ、あ、お任せします」
「稜太のはアルコール無しな。俺はいつものやつ」
「はいはい」
リュウさんはにこやかに答えると早速道具と材料を出して作り始めた。
手際よく氷やら材料やらがシェイカーに入れられていく。
初めて間近で見るバーテンダーのあのシャカシャカするやつに感動してしまった。
キレイに磨かれたグラスにきれいな色の液体が注がれて、あっという間に出来上がった。
その一連の動作に惚れ惚れとしていると、そのグラスが俺の前にコトンと小さな音を立てて置かれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「ダミーデイジーって言うカクテルだよ」
「えっ、お酒ですか?」
「アルコールは入ってないよ。でもせっかくだから雰囲気も味わってもらおうと思ってね」
「いただきます」
ふふっと笑うリュウさんに小さく頭を下げてそのグラスを手にとった。
そのダミー何とかはとても美味しかった。
作ってもらったダミー何とかを啜りつつ、次の作業に入るリュウさんの動きを無意識に目で追った。
綺麗な所作で注がれたお酒が壱也さんの前に置かれる。
全部の動きが滑らかで、無駄もなくて何だかすごい人だなって思った。
「ん?どうしたの稜太くん」
俺の視線に気づいたリュウさんににっこりと笑みを向けられる。
「あっ、すいません。こういうところ初めてで、つい見入っちゃって…」
「ああ、そうだよね。普通は高校生でバーに来るとかないもんね」
相変わらずリュウさんは笑みを携えたままで、その視線を壱也さんへ移して意味あり気に溜め息をひとつ。
それに気付いた壱也さんはグラスに口を付けつつ、リュウさんを見た。
「何だよ」
「高校生の常連とか普通あり得ないからね」
「うっせ。今更だろ」
「そうだけど。・・・稜太くんはこういう風になっちゃダメだよ」
「えっ」
突然俺に振られて思わず声が漏れる。
二人を交互に見遣るとぷっと二人が同時に吹き出した。
「ごめんごめん。稜太くんそんな困った顔しないでよ。壱也たちは特別なんだよ」
「え、」
戸惑う俺に壱也さんが何故か慰めるように頭を撫でてくる。
そんなに困った顔をしてたのかな。
二人が落ち着いてからダミー何とかを口に含み、さっきの言葉を思い出す。
たち、っていうのはたぶん、銀司さんとか馨さんとかフジさんとかかな。
でも特別って何だろうと思ってリュウさんの顔を見るけど、二人は違う話題に移っていて何となく聞けなかった。
それはそうと、このお店はリュウさんが一人で切り盛りしているのか、他のスタッフさんの姿は見えない。
場所的にも広さ的にも隠れ家みたいなバーだし、そんなものなんだろうかと思っていると入店を知らせる音が店内に響いた。
「あれ、壱也来てたんだ。てか稜太もいんじゃん」
よく聞き知った声に顔を向けるとフジさんの姿が目に入った。
よ、って手を上げるフジさんに軽く会釈しつつも、見慣れない白シャツ姿に思わずガン見してしまう。
フジさんは店内にいる全員と挨拶を交わし、そのままカウンター内に入って行った。
あの不良っぽい人たちとも知り合いとかさすがフジさん……
なるべくテーブル席のほうを見ないように頑張っていた俺的には結構な衝撃だった。
まあ、フジさんも壱也さんも不良に分類されているのは知ってるけど。
でも、それより気になるのは、
「え、フジさんってここでバイトしてるとかですか?」
「んー、バイト兼趣味ってとこかな」
ははは、と爽やかに笑うフジさんはかっちりした服装のせいか普段の数倍眩しかった。
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