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黒尽くめの男。にしおりをはさみました!
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黒尽くめの男。
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ぴったりとくっつけた身体を離したのは、それから数分経った頃。
壱也さんのケータイが着信を知らせてきたからだ。
起き上がった壱也さんはケータイの画面を確認するとそれを耳に当てた。
その様子を目で追いながら離れた体温に少し名残惜しさを感じた。
「はい、…ああ、わかった」
短い返事をして壱也さんがケータイをポケットにしまった。
そろそろ帰る時間かな。
なんて思っていれば、ぽんぽんと壱也さんが俺の頭を撫でて立ち上がった。
「行くか」
「あ、ありがとうございます」
言葉と共に差し出される手に、やっぱり紳士だなとキュンと胸がときめいた。
その手を取って立ち上がれば再び頭を撫でられる。
壱也さんってほんと頭撫でるの好きみたい。
相変わらず優しい手つきに頬は緩むばかりだった。
「荷物は?」
「あ、寝室です。ちょっと取ってきますね」
「ん、」
壱也さんはそのまま玄関に向かって、俺は荷物を取りに寝室に立ち寄った。
荷物って言ってもケータイと財布と着替えくらいしかないけど。
ケータイはズボンのポケットに入れてるし、財布はバッグに入れっぱだし、着替えも全部バッグに突っ込んでたからそれを手に取ってすぐに俺も玄関に向かう。
俺を待ってくれてる壱也さんの姿に気持ち小走りで駆け寄った。
「お待たせしました」
「待つってほどでもねえだろ」
クスクスと笑う壱也さんに俺もつられて頬を綻ばせれば、ふっと影が降りてきた。
あっと思う間も無く抱き寄せられて優しく唇を塞がれる。
「…ん、」
ちゅっと音を立てて唇を啄むようなキスが何回も繰り返される。
くすぐったさに思わず緩んだ唇の隙間から舌が差し込まれて、予想外の動きにびくん、と肩が跳ねた。
「…っふ、ぁ…」
ぐるりと壱也さんの舌が口内をひと撫でしたかと思えば、すぐに舌は出て行った。
少しばかりやらしく笑う壱也さんと目が合うのと同時、盛大に頬が赤く染まったのは言うまでもなく。
「かわいい」
「………」
恥ずかしすぎて言葉にならなかった。
意外なほど不意打ちを仕掛けてくる壱也さんにいつか慣れる日は来るのだろうか。
俺の頬は常に熱にやられっぱなしで、いつか発火してしまうのではないかと本気で心配になってしまった。
「稜太」
「あっ、すいません!」
顔を赤くしてプルプルと震えていると壱也さんが玄関の扉を開けて待っていた。
その様子に慌てて靴を履いて俺も後に続けば壱也さんに手を握られて頬の熱が冷める暇はなかった。
エレベーターから降りる壱也さんに続いて俺もホールに出る。
誰もいないそこに俺はほっと胸を撫で下ろした。
何故なら壱也さんの部屋を出てから、今までずっと手を繋いだままだったからだ。
エレベーターの中でも誰もいないからって繋いでた手を指先でくすぐられたりして俺の心臓はずっとバクバクと音を立てっぱなし。
誰も乗って来なかったのはほんとに幸いだった。
しかも扉が開く寸前、壱也さんに唇を掠め取られてもうほんとに心臓が止まるかと思った。
プルプルと震えるしかない俺は最早引き摺られるようにしてエレベーターをあとにしたのだった。
エントランスを抜けてそのままバイク置場に行くんだと思ってたけど、なぜか壱也さんは立ち止まる。
どうしたんだろうと壱也さんの後ろから覗き見れば、降り注ぐ雨の中マンションの入り口に止まっている見慣れない一台の車が目に入った。
黒塗りの車体にこれまた真っ黒な窓。
少しばかり改造されてるけど高級車特有の上品さを損なわない、センスの良いイジり方だった。
何と無く極道映画に出てきそうな車だなって思った。
そしてその車から出てきた人物に思わず固まった。
だってその人は期待を裏切らない風貌をされていたからだ。
黒い傘を差した黒尽くめなその男。
ツンツンに立てられた黒い髪。
黒いサングラスに胸元まで肌けさせた黒いシャツ。
その胸元には金色に光るチェーンとちらっと入れ墨が見えていた。
見るからに普通の人じゃないよこの人。
「あ、あの、壱也さん…」
「ん、大丈夫」
震えそうになる声を絞り出せば、情けなくも怯えている俺を宥めるように壱也さんは頭を撫でてくれた。
だけどもそれで不安が消えるわけもなく。
だって、その男がこっちを真っ直ぐに見てるのがサングラス越しでもわかるからだ。
これって、あれかな、絡まれるとかそういうやつかな。
危ないことに巻き込まれるとか?
何見てんのじゃワレェ!!みたいな?
え、やだやだ、どうしよう。
アワアワと慌てふためいている間にその男は俺と壱也さんの正面に来て立ち止まった。
漏れそうになる悲鳴を飲み込んで壱也さんの背後に身を隠す。
が、
「すいません壱也さん、お待たせしました」
「いや、こっちこそいきなり悪いな」
「え?」
予想もしない黒尽くめの男の謝罪。
しかも壱也さんもそれに応えてる。
まさかだけど二人は顔見知りのようだった。
え、壱也さんの知り合い?
ていうか黒尽くめの人なんで敬語?
もしかして壱也さんのほうが年上なの?
え、なに、意味がわからないんですけど。
「何言ってんすか、いつでも呼んでくださいよ」
「ん、さんきゅ」
こっそりと顔をのぞかせると口調のとおり二人は穏やかな表情で。
何だかよくわかんないけど、とりあえず想像してたような不穏な展開にならなくてよかった。
いい意味での裏切りに盛大に胸を撫で下ろした。
「つか、タツそれ外しとけよ。稜太がビビってる」
「えっ」
「あ、そっすね。外しときます」
いきなり俺の名前を出されて焦ったけど、苦笑を浮かべた黒尽くめの男はあっさりとサングラスを外した。
あれ?何かどっかで見たような。
見覚えがあるようなその顔に思わずじっと視線を注げば、俺の視線に気付いたのかその人が俺のほうを向いた。
「こんにちは、稜太くん」
「こ、こんにちは。…って、あっ!」
「あ、もしかして俺のこと覚えてたりします?」
「あ、あの、昨日"Le Lien"にいた人ですか?」
おずおずとそう尋ねれば正解と言わんばかりにその人はにっこりと笑った。
柔らかく弧を描く目元の二つ連なった泣きぼくろ。
印象的だったその泣きぼくろに確かに昨日Le Lienにいた人だとわかった。
だけども昨日とは随分と雰囲気が違う。
昨日会った時は髪も下ろしてあったし、服も普通にお兄さん系でそんなに怖いとは思わなかったのに。
髪型のせいか服装のせいか、こんなにも印象が変わるのかと妙に感心してしまった。
「どうした?」
「あ、いえ、」
黙り込んだ俺に壱也さんが不思議そうに顔をのぞき込んでくる。
何でもないと答えればそうかって頭を撫でられた。
とりあえず、さっき勝手にその筋の人だと勘違いして変な妄想を膨らませたことを黒尽くめの人に心の中で謝ったのだった。
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