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塞がれていたにしおりをはさみました!
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塞がれていた
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「ここ、いいかな?」
そう、尋ねられるのは何回目だろう。
ビール一杯を飲み干さないうちに何度も隣に座ろうとする男の声かけに、少々うんざりする。
助けを求めるように、ママを見つめるが、ママも何度もオレを助けてうんざりしているのか、華麗に無視された。
なんとか断らなければ、そう考えながら男を見る。歳は先生よりも下だろうか、見た目だけで言えば、この男の方が落ち着いて見える。
職業柄、瞬時に観察をするくせがついてしまい、男の左手の指輪にも気づいてしまった。
なんだ、既婚者か。俺と同じように、この場に来てしまったはいいものの、居心地の悪さを感じているのかもしれないと、警戒心を少し緩めた。
俺が何も言わないまま、男はするりと隣の席に座ってくる。
許可した覚えはないけど、まあ、仕方ないか。と特に男に構うでもなく、そのまま飲み続ける。
「君はこの店は初めてなんだよね?」
俺の予想通り、目の前の男も俺と同じなのか、その問いかけだけでそう判断してしまった。この判断が俺のミスの第一歩だった。
「あなたも、居心地悪そうですね」
肯定の意味も込めて、男に問い返すと、苦笑いのような曖昧な笑みを浮かべる。
よく見れば、かなり身なりがよい。
腕時計は、俺でも知っているブランドのものだったし、身に付けているスーツも仕立てのよいものだということは見てとれる。
こんな人がなんで、こんな所にいるんだろう。
ママに対して失礼なことを考える。
その思考が読まれるはずもないのに、思わずママの方を窺ってしまう。ママはカウンターの端で、こちらを全く気にした様子もなく、他の客と談笑していた。
なんとなく、安心してしまう。
この時、店に着いた後のママとの会話を思い出せなかったのが、俺の二つ目のミスだ。
あの時ママは言っていたのに。
『勝手にアナタを口説きに来るお客さんは止められないわよー? 変な奴は寄らせないようにするけど』
と。
俺は、深く考えることもなく、男に問われることに答えたり、会話を続けていた。よっぽど話し相手が欲しかったんだなぁ、なんて間の抜けたことを考えながら。
男に、もう一軒違うところで飲み直そうと言われ、警戒心の欠片も残っていなかった俺は、ついつい頷いてしまう。これこそが俺の最後で最大のミスだ。
更にそのあと、別の店で酒が進んだ俺は、問われるまま、自分についてペラペラと話し、アキラとのことについても話してしまっていた。
そして、男の名前も聞かないまま、自分の連絡先まで教えてしまう。と言っても、その頃には酔っぱらった俺は、スマホの操作もできず、男が勝手に俺のスマホをいじっていたのだが。
「リョウ君、君はもう少し自分の魅力を自覚しなさいね。こんなに警戒心がないなんて・・・」
続く言葉はあまり、聞こえなかった。
ただ、以前誰かにも同じようなこと言われたよな、とぼんやりと考えていると、目の前がスッと暗くなる。
気がつけば、俺の唇は、男のそれに、
塞がれていた───
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