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惚れた腫れたと第三者にしおりをはさみました!
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惚れた腫れたと第三者
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その夜はちゃっかりまた先輩んちに泊まったりなんかして、
俺としては棚ぼたな感じだったんだけど、『恋人ごっこ』についてはなんの解決策も浮かばなかった。
寝る間際に、
「つーか俺、庄司の恋人…球技大会で見たけど、アレ女子だった気がすんだよな」
「じゃあそんな前からケンカして別れてたってこと?」
「わかんねえよ。俺の見間違いってのもあるし。
…ていうかなんで俺お前に腕枕されてんの」
「寝ます」
「寝んな」
謎は深まるばかりだ。
***
「ああ、それ僕なんだ」
いっそ清々しいくらいの微笑みで、七瀬くんはカップに口付けた。
…つられて俺も水っぽいココアを口に含む。
あれ、俺耳がヘンになった?
「ヘンじゃないよ。大丈夫」
「えっ声に出てた?」
「そうじゃないけど。
だいたい考えてることはわかるよ」
そう言ってまたニコリ。
聞けば、いわゆる『女装男子』というやつなんだとか……世間って狭い。
でも、七瀬くんなら似合っちゃうんだろうなって容易に想像がつくから、「はあ、そうですか」って納得してしまった。
自分の知らないところで、
やっぱり世界は回ってるんだな。
体育大会の約一週間前の今日、『デート』っていう名目で昼過ぎに駅で待ち合わせして、
とりあえず入ったカフェでまさかこんな話を聞かされるとは思わなかった。
や、まあ人それぞれだけどね。うん。
『恋人ごっこ』を始めて5日経つけど、庄司先輩からのアクションはまだ無いらしい。
それもそのはず、俺たち理数科と七瀬くんのいる普通科の接点って学校じゃ食堂ぐらいだし、
放課後は放課後で『やれ体育大会の委員会だー』『それ競技の練習だー』でいっぱいいっぱいで一緒に帰る暇もない。
これじゃ埒が明かないよね、ってコトで、
休日に時間合わせて、俺と七瀬くんがデートしてるとこを庄司先輩に見せつけよう!
題して『恋の仲直り ?キューピッドの矢で射抜いちゃうぞ大作戦?』(認めよう、ネーミングセンスが皆無だと)に至った次第なんだけど、
果たしてこれデートって言えるのかなー。
もっとベタベタした方がいいのかな、彼氏居たことないからわっかんない。
素朴な疑問をぶつけると、七瀬くんは一瞬頷きかけて…すぐに首を横に振った。
「いや、無理だよ、無理無理っ」
勢い良く首を振りすぎて頭取れそう。
「お、落ち着いて?
今から夏目先輩が庄司先輩を連れて来るし???」
「うまくいくかなあ!?」
今度はわたわたしながらギュッと手を握られた。
…一回一回のリアクションがオーバー過ぎてちょっと面白い。
握られた手を逆に握り返して、七瀬くんの手を包み込む。
彼は今にも泣き出しそうだった。
「大丈夫だよ、多分」
なんて言っても、気休めにもなんないだろうなあ。
自分の言葉が安っぽくてウンザリする。
優しい彼は瞳にめいっぱい涙を溜めて、消え入りそうな声で「うん…」とつぶやいた。
……限界だ、もう色々と。
先輩お願いはやく来てー。俺が泣きそう。
時間になってもなかなか現れない先輩たちを気にしながら、七瀬くんの気を紛らわすために庄司先輩の好きなところを聞いてみると、
途端に彼の顔は真っ赤になって言葉は洪水のように流れ出した。
「まず声でしょ、瞳でしょ、顔も好きだし、何より性格。
すっごい優しいし笑うとえくぼもできて、あっこれ性格じゃないよね、
照れると唇を噛んじゃうとことかもなんか抱きしめたくなるし、あっこれも性格じゃないけど、ゆきの仕草もすごく好きで、
ああそう優しいって言ってもただ優しいだけじゃなくて、僕の話いっつも真剣に受け止めてくれて、
冗談にも真面目に返してくれて、
いやそれ冗談なんだけどなって言うと『あ、そう』って、『あ、そう』ってスネてね、
そのスネかたもなんかこう胸にグッとくるっていうか、」
「へえそうなん「でそれをまた僕がからかうとハグとかしてくるの、
でもずーっと真顔でちょっと眉間にシワも寄ってて、多分悔しいんだろうなー、
紛らわすためにハグするんだろうけど、黙ったままギュッてされるから僕も緊張しちゃって、
だけどそうされるの好きだからどうしてもからかっちゃうんだよね、それと」
……食い気味に遮られちゃった。
それから呼吸が乱れるくらい延々続いたスピーチは、10分位経ってようやく疲れたのか「なんか僕ばっかり喋ってごめんね」のひと言で終わった。
すごい、なんか、途中から聞くの諦めたはずなのに体力と気力ごっそり持ってかれた。
氷も溶けてさらに水っぽくなったココアを一気に流し込んで吐き気もするし、
なんか嫌な予感がしてならない。
もしかして七瀬くんたちのケンカの理由って、
「篠原くんの大切な人の話も聞かせて」
弧を描いた薄い唇とその笑顔に見惚れて、質問の意味を理解するのが少し遅れた。
大切な人、そんなの決まってる。
夏目先輩しかいない。
でもなぜかその名前を口に出すことができなくて、心臓が鼓動するわずかな時間、
俺は声が出せなかった。
「篠原くん?」
「えっと、」
なんでためらってんの?
さっきの七瀬くんのマシンガントークに当てられちゃった?
俺だって夏目先輩のこと、大好きじゃんか。
七瀬くんのスピーチに負けないくらいのこと、言えるでしょ?
言えよほら、
話せよ、
動けよ、
頭のどっかで、誰かが『本当に?』って言う声がした。
「好きなトコあり過ぎて…言葉に、なんないな」
「わあ、それちょっとわかるかも」
「七瀬くんには言われたくないなー」
「そうかな」
満足したようにはにかむ彼を直視できなくて、水を取ってくるのを口実に席を立った。
あまりにも突然の出来事で自分でも自分がわかんない。
なんで詰まっちゃったんだろう。
痛くもないはずなのに、心臓が痛いなんて思ったのは初めてだ。
ふたり分の水を持って席に戻ると、背の高い男の人と七瀬くんが話してて…っていうかモメてる?
声のトーンは低いけど何かまくし立ててるのが聞こえる。
躊躇わずに「あの、」って水の入ったコップをわざと大きな音を立ててテーブルに置くと、瞬間胸ぐらを掴まれた。
え、なに、誰っ……!?
「お前?」
地の(血の)底を這うようなひっくい声。
俺より10センチは高い目線から見下ろされる目力はハンパなくて、思わず固まる。
短めの黒髪にクマみたいな風貌、ヤーさんっぽい面構え、間違いない、
庄司先輩……!
「ぅわ、」
「ゆき!?」
「来いよ」、問答無用な声音だ。
七瀬くんが引き止めるのも聞かずにズルズル引っ張られて店の外に放り出された。
瞬きする暇もなく今度は足を掴まれて、カフェの脇の路地に連れ込まれる。
わー、これってもしかしなくても修羅場?
俺誰かに殴られるのとか、胸ぐら掴まれたこととかも無かったんだけどな。
何気に初体験。言ってる場合じゃないけど。
「しょっ、庄司!?」
ぱし、って音と衝撃で誰かに両手を握られたのがわかった。
暗い路地裏で、引きずられてるから顔なんかも見えないけど???それが夏目先輩だって気づいたのは一瞬だった。
「おっまえ、いきなり篠を拉致るって何考えてんだよ!」
「え、先輩ちょっ引っ張んないで!?」
グイって引かれて体が浮いた。
「アア!? 柚木には関係ないんだからほっとけよ!」
「いっ、すいません痛いんですけど!?」
「関係はあんのっ! 俺がお前を連れて来たのは篠をボコらせるためじゃねえし!」
「じゃあなんだよ、レイが悪いって?」
「そんなこと言ってねえだろ!」
「とにかく俺はコイツ殴んないと気が…っすまないから手を離せ!」
「バカ言えそんなことするってわかってんのに離すわけ、ないっ」
「あのマジ肩とか脱臼、」
「「お前は黙ってろ!」」
「なんで!?」
綱引きの綱よろしくエイエイ引かれて黙ってろって泣きそうだ。
っていうか俺なんか鯉のぼりみたい。
このまま空に浮かんで泳いじゃいたいなあ、そういう歌あったよね?
違うか、あれたい焼きの歌だ。ってことは俺たい焼き?
なんて意味不明な現実逃避しかけたら、
ちょうどいいのか悪いのかやっと『待った』の声がかかった。
「レイ?」
息を切らせて走って来た七瀬くんに驚いて、庄司先輩の手から力が抜けて???必然俺の足も重力に従って墜落。
引っ張り合いしてた夏目先輩もつられて墜落、
「わっ!?」
「いって、」
一緒になって尻もちをついた。
「僕が悪いんだよ、僕がお願いしたの…篠原くんに」
「お前、」
「だってゆきが僕なんかどうでもいいって言うから」
「そうは言ってないだろ、俺は俺の気持ちを伝えただけで、」
転んだ夏目先輩を起こすのに手を貸しながら、俺の嫌な予感的中だなあって苦い気分を噛みしめる。
なんの前触れもなく始まった昼ドラ展開に先輩はポカンとして俺を見た。
わかるよ、わかる。そうなるよね。
でも多分これって????
「だからそれが間違いだって言ってるでしょ!?
何度言えばわかるの!?」
「それはこっちのセリフだ、
俺の方が絶対?????好きなのに」
わかってたことだけど、実際に聞くとやっぱ鈍器で殴られたような感覚だ。
「違うよ僕は愛してるって言ったの!」
「愛っ…」
「どうして照れるの!?
そういうところも好きだけど!」
「いや、だから俺の方が、」
「絶対僕の方が、」
「え、何これ」
泣きながら好きだ好きだって言葉を浴びせる七瀬くんと、赤面して顔から湯気が出そうな庄司先輩のやりとりに絶句。
先輩の細い手首を掴んで引っ張ると、面食らった様に顔を上げてこっちを見た。
「何、あれ?」
「見てわかるでしょ、茶番だよ」
「いや…えっ? あれなの?
ケンカの理由って、別れた理由ってあれ?
篠知ってた?」
「嫌な予感はありました」
「こんなことに一週間も使うとか……ていうか俺…こんなことで…?」
「先輩?」
「…ちょっと軽く庄司殴って財布借りてくる」
「あ、うん、えっダメだよ!?
それカツアゲでしょただの!?
目が据わってるけど!?」
「この後あいつの金で何する? 映画観る?」
「俺が出すよ!? 映画代くらい出すよ!?
だからちょっ、手をグーにするのやめてね!? そのチョキもダメだからね!?」
「何言ってんだよグーとチョキでほら…カタツムリだろ」
「目潰しパンチでしょ!?」
「堅いこと言うなよ」
「やわいよ!」
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