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お返しにしおりをはさみました!
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お返し
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台所には、洗って乾かされたタッパ。
昨日の夜に君が差し入れをしてくれたすっぱいレモンのはちみつ漬けを、俺は全部食べきった。夜のうちにタッパを洗っていたからか、朝には乾ききっていた。今日は月曜日。一限から五限全て授業を入れている日だ。対して、増村は月曜日は授業を入れていない。
「うーん、いつ返しにいこうか。」
朝食を食べ終わったお椀を洗いながら、考える。どうせなら、いつも一生懸命な君にお返しをしてあげたい。
いつもより早めに起きた月曜日。時間にも少し余裕があったから、料理を作ってタッパに入れて返すことにした。
……あれ? そう言えば、君の好きなものとか知らないや。
やばいやばいやばい!!
ずっと悩んでいたら、一限に間に合うか間に合わないかのスレスレの時間になってしまった。全力で走れば、間に合う電車に乗ることができた。ドアが締まろうとした瀬戸際に入ってきた俺への周囲の視線は冷たくて痛い。通勤ラッシュよりも少し遅い時間帯のため、座席はたくさん空いていた。ストンと座っると同時に、ため息が出た。
慣れないことをするもんじゃないな。
君は俺のことをどんどん知っていくのに、俺は君のことをあまり知らない。今まで君の素顔を何度か見てきた気がしたけれど、とんだ思い違いだったようだ。窓から指している光が、電車が動きに合わせて移っていく。
「お前、汗すげーな!」
大学の教室に着くと、俺を見ながらいつもの場所で爆笑をしている友人、竹本 雅(たけもと まさ)がいた。
「おう、ちょっと考え事してたらスレスレになって。」
途絶える息をなんとか落ち着かせてそう言うと、「ふーん。」と楽しそうにこちらを見てくる。
「田辺みたいな、流れるままに生きてそーな奴が悩み事?」
「悪かったな、流れるままに生きてて。」
ちなみに、竹本とは高校の時からの付き合いだ。
「別に? 流れに乗るのも簡単じゃないことだと思うし、否定したわけじゃないんだけどなー」
ニヤリとする顔。そして、話題が変わる。
「そういえばさ、今日お前バイトとか入ってんの?」
「何で?」
「合コン、柿園達に強引に誘われて行くハメになったんだけれどさ、お前もメンバーに入れられてたぞ?」
「は? アイツ、シバく!!」
柿園も、高校の時からの付き合い。アイツの合コン好きには呆れる。何よりも辞めて欲しいのは、俺を勝手にメンバーに入れてくる点だ。俺が苛立っていると、笑う竹本。
「何?今日予定とか入ってた?」
「入れようと思ってた。」
さらにニヤリとなる横の顔。
「何お前、いつの間にか彼女できたとか?」
彼女? いや、違うな。と一瞬だけ考えて答える。
「ばーか。違うよ。」
増村の顔がよぎる。
合コンか、君が知ったらどう思うかな。
なんだか少しだけチクリと胸が痛んだ。
そして、そんなことよりも早く君にあのタッパのお返しをしてあげたい気持ちに駆られる。きっと、喜んでくれるんだろうな。顔まで真っ赤に染まる君の反応を想像した。口元が緩む。そんな俺の表情を見て、竹本は一言「田辺、キモイ。」とだけ言った。
どうせ今日柿園に合うんだし、その時にメンバーから外して貰えばいいか。
その結論に至った俺は、タッパに詰める料理を何にするか考え始めることにした。
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