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君の好きな食べ物にしおりをはさみました!
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君の好きな食べ物
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「お邪魔します。」
そろりと俺の部屋に入ってくる君。
「そんなに身構えなくてもいいよ。あがって。すぐ飲み物くらいは出せるから。」
「あ、うん。ありがとう。」
そこには威勢の良さなどなく、大人しく正座をする君の姿があった。その姿に少し戸惑って苦笑いをしてしまう。
「増村、お茶どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
俺は、取り敢えず君と会話をしたくて向き合う位置に座る。じっと君を見てみれば、面白いほどに泳ぎまくる目。
「何でそんなに緊張してんの?」
からかう様に笑って見せると、ムッとした君。
「何でって。普通好きな奴の家に初めて来たら緊張くらいするだろう。」
「へー、そうなんだ。」
「何か、アンタ楽しそうでムカつく。」
「そう言われてもな。」
俺が笑えば、肩の力が抜けていくのが見て取れた。
「増村」
「何?」
「腹減ってない?」
「何で?」
「合コンで全然食べてないだろう?」
「まあ。誰かさんがいちゃいちゃしてんの見てたらそんな暇なかったし。」
どうやらまだ拗ねているらしい。
「ごめん。あー、俺も食べてないんだよね。昨日の差し入れの一件もあるし、今日は俺の手料理を君にプレゼントしようと思うんだけど、ダメ?」
「ダメ……じゃない。」
どうやら、君はこういうのには素直に応じてくれるらしい。
「そっか、良かった。今日一日何を作ろうか考えてた俺の時間もこれで無駄ではなくなったな。」
キッチンに向かって歩く。後ろにいる君はただ黙って俺を見ていただけだった。
「ごめん。具材買うの忘れて、チャーハンしか作れなかった。」
両手を顔の前で合わせて君に謝る。
そう、合コンなんて予定外のことが起こってしまったため、スーパーで食材を買うことを忘れていたのだ。うっかりしていた。
「いいよ。俺、チャーハン好きだし。それより、腹減った。早く食べたい。」
申し訳なさそうにする俺を気遣ってくれる。
「そうだな。」と言って、俺は君にスプーンを一つ渡す。
「「いただきます。」」
君がチャーハンを口に運ぶ姿をジッと見つめる。ぱくっと食べられるそれ。まずいと言われたらどうしようかな、と考えてしまう。
「うまい。」
目を輝かせる君。途端に沸き立つ何か。
「本当か?!」
「うん。うまい。」
俺をチラリと見てそう言った。気を遣っているというよりは、俺の反応を見て楽しんでいるようだ。
「アンタのそういう顔、初めて見た。」
「え?」
「いつも余裕ぶって笑ってるか、ニヤけてるかのどっちかしか見たことなかったから新鮮だ。」
目を細める君。
俺も、初めて見た。穏やかに笑う君の顔。
「俺さ、お返しに何かつくろうって決めたとき気づいたんだ。知ってると思っていたお前のことを何一つとして知らなかったことに。」
目の前でチャーハンを食べる手が止まる。
「増村って、すごいよな。」
なぜか、君は泣きそうな顔になる。
俺は、君を泣かせるまでに至った原因は何かと不安になり考える。
「アンタ、何でいつも俺の心をかき乱すことばかり言うんだよ。」
あ、そうか。
俺たちは友達なのか。
君の言い放った言葉によって、君の思いとの差や今の俺たちの関係を冷静に思い知らされた。現実を突きつけられて、ストンと俺の中で何かが落ちた。
君はいつまでも俺を好きでいてくれている。大して俺は……俺は?
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