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甦る記憶にしおりをはさみました!
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甦る記憶
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食堂を後にした俺達は夕飯の約束をして、とりあえず自分達の部屋に戻った。
ソファに寝転びぼーっとしていると、ピンポンと部屋のインターホンが鳴る。
俺の部屋を尋ねてくるなんて今のところ純か亮平しかいない。
どっちかだろう、とドアを開けると、そこにいたのは昨日に挨拶を交わした寮の管理人、安達直樹(アダチナオキ)さんだった。
20歳半ばぐらいの、爽やかイケメンさん。
背も高く、眼鏡が知的な感じのお兄さんだ。
「白川くんにお届けものだよ。ハイ」
「あ、ありがとうございます。わざわざ持ってきてくれたんですか」
部屋にある内線に電話くれたら、取りに行ったのに。
そう告げると、お昼を食べに行くついでだったからと笑いエレベーターへと向かっていった。
渡された30センチぐらいの、四角い箱。
俺がここに通っていることを知っているのは中学の先生など、ごく一部だ。
同級生には内緒にして欲しいと強く頼んだため、俺の居場所はほとんどの人物が知らないはず。
一体誰からだ…と思い、伝票を見る──。
「──っ!」
そこに書いてある名前に、背筋が凍った。
「…な…んで…」
心臓が嫌な音を立てて暴れ、口の中が渇く。
息が粗くなり、荷物を持つ手が震える。
その間もまるで呪縛のように、その名前から目が離せない。
小笠原 誠也
俺と、同じ、¨せいや¨
同じだね、と、笑う顔
辛かったね、と、頭を撫でる手
一人じゃないよ、と、抱きしめる腕
側にいる、と、触れる唇
どうして。なぜ。
甦る声、笑顔、体温──。
──全て、歪む、瞬間。
思い出すな。
必死に言い聞かせても、次から次へと溢れてくる、記憶。
一体、今更、何で、どうして。
あれ、息、しなきゃ。
苦しい。
あれ、どうやって、息、してたっけ。
苦しい。
視界が歪む。
体が傾く。
荷物が手から落ちる。
なんか、音がする。
体が、床に、近づく。
徐々に霞んでいく視界。耳に届く、音。
完全に意識が飛ぶ瞬間。
誰かの気配が、した──…。
サラサラ…と、誰かが頭を撫でている。
ん…なんだろう。
前にも、同じことがあったような気がする…?
ん…?だけど、前は、もっと温かかったような──。
そう、もっと手の平もおっきくて、包み込まれているような感じがした気がする。
この手も、気持ちいいけど、前のが、好きだな。
──誰だったんだろう。俺の頭を撫でていたのは…。
そして、この手は、誰なんだろう。
──母さん…?
──…
ふっと目を覚ます。
ん…?──あれ…?どこだ──?
記憶が混乱したのは一瞬で、ここは俺の部屋の寝室だと気付き起き上がる。
そして、一気に襲う、嫌悪感。
そうだ、あいつから──。
再び沈みかけたところで、突然、ガチャ…と寝室のドアが開く音がした。
「あ、起きてる」
「え…?あれ、純…?」
そこには、さっき別れたばかりの純がいた。
「おー、大丈夫か?」
純に続いて、亮平も顔を出す。
「なんで、二人が…?」
不思議に思い、二人を見る。
純はベッドに、亮平は椅子に腰掛けた。
「相楽先輩がさ、今さっき僕の部屋を尋ねて来てね。
聖夜の具合が悪いみたいだから、見てあげてって」
相楽先輩が?
「亮平も呼んで、今来たんだけど…顔色悪い…」
大丈夫…?と純が心配そうに覗きこんでくる。
「あ、うん…。慣れない環境に、疲れたのかも…」
そうごまかし、大丈夫と二人に笑ってみせて誤魔化した。
「ってか、何で相楽先輩が?」
それに、部屋の扉はオートロックだ。カードがなければ、開かないはず。
「会長と副会長はどの部屋でも入れるように、特殊なカードを持ってるんだよ。
それで開けてもらった」
へぇ。どこの部屋も入りたい放題なのか。
「何回もインターホン鳴らしてんのに応答なかったから帰ろうとしたら、なんか中から倒れる音が聞こえたから開けたらしいぜ?
勝手に中に入ったこと、謝っといてってさ」
いや、それは開けてもらって助かったし…。
あのままだと、どうなってたのか…。
今度会ったら、むしろこっちがお礼言わないとな。
説明が一段落し謎が解けた俺は、無意識に髪をかき上げた。
説明してくれた二人に心配かけてゴメンと謝ろうとしたら…二人がこっちを目を見開いて凝視している。
「…聖夜、お前…とんでもねーもん隠してたんだな」
そうつぶやく亮平の横で、コクコクと強く頷く純。
「は?」
何言ってんだ?っつか、純も亮平も目開き過ぎ。
特に純なんて目玉こぼれそう、なんて思わず笑いがこぼれる。
「─っ!」
すると、二人は同時に顔を赤くした。
へ?
「お前…笑うと犯罪級だな。
なんで隠してんだ?その顔」
犯罪…?ってか、顔?
そこで俺は、いつもより視界がクリアな事に気付く。
あれ?いつも視界に入ってくる前髪が…ない…?
「っ!!」
俺、さっき、無意識に髪かき上げた!
慌てて髪を前に持ってくるが、時既に遅し。
「えー、何で隠しちゃうの?せっかく綺麗な顔なのに」
純が笑いながら、俺の前髪を上げようと手を伸ばす。
俺はその手を避けようとした─が、亮平に腕を捕まれ動けなくなってしまった。
おい、そういや、眼鏡もかけてねぇ!
ふとサイドテーブルを見ると、きちんと折り畳まれ置かれてある眼鏡。
相楽先輩…か?
素顔見られた?ヤベー…。
…相楽先輩は白夜を知らないはず。大丈夫か…?
部屋に来たのがアイツじゃなかったのは、救いだな。
アイツに素顔見られたら、マジでヤバい。
ってか相楽先輩は何しに来たんだ?疑問が残る。
──ってか!
「もういいだろ。いい加減離せ」
未だ俺の腕を掴む亮平と、前髪を上げる純を睨むと、すごすごと離れていく二人。
俺は眼鏡をかけ、前髪を前に流す。
すると、二人揃ってえーっ!と不満げな声。
「俺は、これが落ち着くの!」
そう言って二人を黙らせ、リビングに行こう、と促す。
まだ寝てた方が…と心配する純に、本当に大丈夫だからと返したらしぶしぶといった感じで立ち上がった。
リビングのテーブルに置かれている、箱。
その箱が目に入り、再びドクン…と心臓が音をたてる。
「あ、それ、玄関に落ちてた」
俺の視線をたどってか、亮平がそう言った声にさんきゅと返し、二人に分からないように俺はそっと息を吐き出す。
「誰かからのプレゼント?」
包装を施してあるその箱は、誰がどう見てもプレゼントだと思うだろう。
「うん。親戚のおじさんからの、入学祝い」
そう言って俺は、震えないように手に力を籠め箱を持ち上げ寝室へと運び、サイドテーブルへと置いた。
再びリビングに戻り、3人で他愛のない話をしていると気が紛れる。
今二人がここにいてくれて、良かった。
一人だと、きっとまた息の仕方を忘れてしまう。
蓋を、しなくちゃ。
思いださないように。
記憶が、溢れてこないように。
─強く、ならなきゃ。
そう、自分に、言い聞かせた──。
夕飯の約束をしていたが、やっぱり寝ておくと二人に断り俺は一人寝室にいる。
サイドテーブルに置いた、箱。
──開ける勇気が、無い。だけど…捨てることも、出来ない。
思い出したくない。忘れたい。
そう願っても、あの人を自分のナカから追い出すことが出来ないでいる。
勇気のない弱い俺は、その箱をクローゼットの一番奥、普段目につかない棚の上に置いた。
せめて、あの人を思い出しても息の仕方を忘れないぐらい強くなるまで──今は、置いておくんだ。
大きく、深呼吸をする。
精神的に疲れた俺はそのままベッドに潜り込み、目を閉じる。
もう、寝てしまおう。
そして明日からまた、頑張るんだ。
違うことを考えろ。眠れるような、何か──。
なんとなく、ふと、頭を撫でる手の平を思い出す。
大きな、手の平。
本当に、あの記憶は、誰の手の平なんだろう。
ただの夢だろうか──?
そう考えているうちに、だんだんとまぶたが降りてくる。
俺はそのまま身を委ね、眠りに堕ちていった──…。
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