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宿泊研修 4にしおりをはさみました!
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宿泊研修 4
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「わ、聖夜っ?」
「大丈夫かっ?」
「ちょ、力…抜けて、」
俺はソファに深く座り直した俺は、フーッと深く息を吐いた。
「どんだけ思い詰めてたんだよ。あ、そっか。聖夜が大浴場に行かない理由はソレか」
「あぁ、うん」
学園寮にはホテルのような施設が整った、大浴場がある。
初めに行ってみようと二人に誘われたが、集団で入るのに抵抗があると断っていたのだ。
しきりに俺の目をじっと見たり、髪を触ったりした二人は、しばらくして純、亮平の順にシャワーを浴びに行った。
そのあと俺たちはいつものように、明日はどこに行くかセントーサでは何をするかで盛り上がる。
そしていつの間にか揃って眠ってしまっていた。
「──や」
ん…なんか体が揺れる…
「─いーや、聖夜っ」
「ん…?」
遠くから俺を呼ぶ声に目を開けると、部屋のライトが目に入り、一瞬クラっとした。
「聖夜ー、起きたー?もう、朝だよ?朝ご飯に遅れるよー」
純の声に、起きなきゃな…と思いつつも、起き上がれない。
「聖夜、起きろー。おーい」
亮平にバサっと布団を剥ぎ取られた。
「ん…まだ眠、い…」
急になくなった温さが恋しくて、枕に抱きついて丸まる。
「…フェロモン放出中?どうする、純」
「え、どうするって…
聖夜、ご飯だよ。ビュッフェだから好きなもの食べ放題だよ」
「そうそう。ここのビュッフェってすっげー豪華らしいぞ」
二人が何か言っている気がする。んでも眠くて頭に入ってこない。
「デザートもいっぱいあるみたいだし」
まどろむ意識のなか、俺はある単語を聞き、起き上がる。デザート…ケーキ。
「デザート、食べる」
「「へ?」」
「おはよ、二人とも」
「「え?あ、おはよう」」
俺はベッドから降りるとシャワールームに行く。
置きっぱなしにしてあったポーチからスプレーを取り出して髪を黒くした後、黒のコンタクトレンズを入れ、眼鏡をかけた。
部屋に戻り着替えをすませて、二人を見る。
「どうした?」
二人は固まったままポカンと俺を見ていた。早く行こうと固まる二人を促して外に出る。
「…聖夜、ホントにそればったかり食べるの?」
「あぁ」
「…俺、見てるだけで胸やけが…」
俺の目の前には、小さくカットされてある色んな種類のケーキやアイスなどが並んでいるプレート。
二人の皿には、標準的なブレックファーストが並んでいた。
「聖夜ってさ、寝起き悪かったっけ?」
純が首を傾げながらそんなことを聞いてくる。
「あー、俺さ。自分で目覚める分には別に普通なんだけど、寝てるとこを起こされると弱いんだよ」
「…だから、中々起きなかったのな」
「でもデザートの言葉に起きるなんて、よっぽど甘いモノ好きなんだねー」
クスクスと笑う純に、ケラケラと笑う亮平。
そんな二人を前に、俺は目の前のデザートを黙々と口へ運んでいった。
「おぉ!マーライオン!」
「思ってたより、ちっちゃいかも…」
「あ、俺も思った」
興奮する亮平に、少しがっかりする純と俺。いや、もっとデッカイと思ってたんだよ。期待が大きすぎただけで、マーライオンに罪はない。
この宿泊研修は、団体行動ではなく班を組んだ生徒のみで行動。何を見るかどこに行くか、移動手段も全て生徒任せ。
なので勿論通訳やツアーコンダクターはいない。
まぁシンガポールの公用語には英語もあるため、会話には困らない。
亮平と純も日常会話程度なら話せるみたいだし。
ただ、シングリッシュと言うシンガポール独特の鉛があるので、やや聞き取りづらかった。
それから俺達はリトルインディアへ。シンガポールには多くの宗教が混在している。なのでヒンドゥー教、イスラム教や仏教の寺院が点在している。
建物の上に人の像が並ぶ寺院、色鮮やかなそれは日本では見られない独特の雰囲気。
異国の文化堪能した俺たちは、次は有名な白亜のホテルへ移動。『東洋の真珠』と評されるほどに有名な建物は国の歴史的建造物に指定されているとか。
そこで優雅にハイティーを楽しむことに。うん、俺の希望。
一段目にはサンドイッチ、二段目にはケーキ、三段目にはマドレーヌやパイ。
かなりボリュームのあるそれをペロッと平らげた俺は幸せな時間を過ごした。
純と亮平は飲み物だけを頼んでいたけど。
そしてホテルの近くへ戻ってきた俺達は世界最大という観覧車に乗り込む。
約30人収容できるという内部。一周するのに30分もかかる。日本の建築家も設計に携わっているらしい。
俺達は中の広さに驚き、ガラス張りから覗くシンガポールの街を一望して感嘆の声を上げた。
そしてホテルへ戻り夕飯を食べた後、今日のメインイベントであるナイトサファリへ。
タクシーに乗り込み、30分ほどで到着。チケットを購入し、時間が来るまでぶらぶらとショップを見る。
時間になり、いよいよトラムへ乗り込んだ俺たち。
ライオンやジャッカル、サイ。
獰猛な動物たちのエリアは動物がこっちに来れないように、トラムが走る道の手前に大きくて深い溝がある。
大人しい動物は近い距離で目の前を歩いていたりした。
トラムでの移動が終わると、徒歩コース。
ちょこちょこと走り回るマメジカがすっげぇ可愛かった。
ナイトサファリを堪能した俺達は、再びタクシーに乗り込み、ホテルへ。
順番にシャワーを浴び、疲れもあったのか三人ともベッドに入ると早々に寝てしまった。
翌日。今日はセントーサ島へ移動だ。
モノレールに乗りセントーサ島へ行った俺達が向かった先は、水族館。
ここは純の希望。
アジア最大級の全長83メートルの巨大水槽トンネルでは上を見上げながら歩いたため、少し首が痛くなった。
珍しいピンクイルカのショーに嬉しそうにハシャぐ純。生き物が大好きなんだって。
そしてシンガポールにある三つめのマーライオンへ。
一つめはあの有名な口から水が出てるやつ。二つめはそのマーライオンの裏側、少し歩いたところにしっちゃいマーライオンがある。
そしてこのマーライオンは口と頭が展望台になっているというデカさで、登ってみることに。そこからはシンガポール市内やセントーサ島の景色が一望できた。
周辺をブラブラした俺達は、セントーサ島のホテルへ。アジアンな雰囲気が漂う、エキゾチックなホテル。
スパやスポーツ施設、屋外プールなどが充実している。
しばらく部屋でのんびりした後、近くにあるというフードコートへ。
レトロな雰囲気のその場所でシンガポールらしいありとあらゆる食べ物を買い込み、分け合って食べた。
ホテルに戻ってパンフレットを開く亮平。明日は亮平の希望であるテーマパークに行く。
亮平がハシャぎながら、明日はどう廻るかをパンフレットとにらめっこをじながら計画していた。
「…ん…。」
明日の話をしているうちに、シャワーも浴びずにいつの間にか寝ていたようだ。
二人を見ると、規則的な寝息が聞こえてきた。
シャワーを浴びようかとも思ったが、シャワーの音で二人を起こすのも悪いと思い、再びベッドに横になる。
が、変に目が冴えてしまったため、眠れない。
携帯で時間を確認すると、午前1時過ぎ。
俺はベッドから起き上がり、窓から外を見る。
外にでも出てみるかな…。
そう思った俺は、そっと部屋を出て1階へと向かう。玄関をくぐり外に出ると、心地好い風が体をくすぐった。
少し歩くとビーチのようで、なんとなく向かってみる。
母さんも、父さんと夜のビーチで海を眺めたんだっけ…。
ザザザ…と波の音が聞こえる。
俺は砂浜に腰を降ろした。
どこまでも続く、海。月が夜を照らしていた。
一瞬満月かとも思ったが、少し形が歪んでいる。
母さんたちも、こうやって月を見上げたのかな。
二人どんな話をしたんだろう。
愛なんか囁きあっていたりしたんだろうか。
仲、良かったもんなぁ…。
俺は目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶ、幸せな、時。
俺は椅子に座って母さんを見て。
父さんはコーヒーを飲みながら目を閉じて。
母さんは、優しい笑顔で唄っていた。
幸せな、過去。
「……Don't cry alone Don't grieve alone─…」
─ひとりで泣かないで ひとりで悲しまないで─
口から、歌がこぼれていく。
You are not alone
─君はひとりじゃない─
You don't notice
─君は気づいていないんだ─
In the gentleness of that person
─あの人の優しさに─
In the warmth of that person
─あの人の温もりに─
In the appeal of that person
─あの人の呼びかけに─
In love given to you
─君に捧げられている愛に─
Please notice
─どうか気づいて─
If you were able to notice all
─その全てに気づけたのなら─
Would you understand that you were not alone?
─ひとりじゃないと分かっただろう?─
Don't cry alone
─ひとりで泣かないで─
Don't grieve alone
─ひとりで悲しまないで─
It is wrapped in warmth and gentleness of that person and should cry
─あの人の優しさと温もりに包まれて泣いたらいいんだよ─
You should cry a lot there
─そこでたくさん泣いたらいいんだ─
So that thereis not the rain which dose not stop
─止まない雨がないように─
Your tears tell the end sometime,too
─君の涙もいつか終わりを告げる─
And you show a smile
─そして笑顔を見せるんだ─
Like the sky of the day when it was fine
─晴れた日の空のように─
母さん。
いなくならないで。
何度でも願うから。
だから──。
「…ひとりに、しないで…」
母さんのいる病室で、母さんに向かって何度も何度もつぶやいた言葉。
「…父さん…。なんで、俺たちを…おいてったの…?」
俺は目を開け、煌々と輝く月を見上げた。
月が、歪んでいる。
──月が、歪んでいく。
そして、とうとう月が見えなくなった時、俺を呼ぶ声が、した──…。
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