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気持ちの行方 1にしおりをはさみました!
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気持ちの行方 1
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──ふわり、ふわり。
心地良い温もりとリズム。
あぁ、この手は──…。
ある人物の顔が浮かんだ瞬間、ふと眠りから覚めた。
まだぼやっとした視界の中に人影があり、その人物を認識した瞬間…固まる。
さっき浮かんだ顔が、そこにあった。
「起きたか。気分は?」
ベッドに腰掛け俺を見下ろしながら、頭を撫でる手を止めずに問いかけてくるリュウ。
「大丈夫か?」
固まったまま言葉を発さない俺を心配そうに見下ろし、頬をさすってきた。
その仕草に何故だか甘さを感じた俺は、戸惑い身じろぐ。
「だ、大丈夫…です」
気恥ずかしくて、それから逃れるように俺は辺りに視線をさまよわせる。
黒で統一された家具、寝かされているのはきいベッド。この部屋は、見たことがある。
「途中で気を失ったから、連れて帰ってきた」
ここは、学園の寮のリュウの部屋。
「ろくに寝ていなかったんだろう?顔色も悪い。もう少し寝ておけ」
リュウの言葉に俺はガバッと起き上がる。
母さん──。
その瞬間、目の前が突然真っ暗になり吐き気がこみ上げてきて、体がクラリと傾いだ。
リュウの手がそれを支えてくる。
「無茶をするな。寝てろと…」
「か、あさんが…」
くらくらとする意識のなか、言葉を紡ぐ。
「大丈夫だ。明良から、明良の兄に連絡を取ってもらっている。
今は安定していると言っていたから心配いらん。
まずは自分の体調を考えろ」
背中をゆっくりとさすられ、そのあたたかさにだんだんと落ち着いていく心。
「何かあればすぐに駆けつけれるようにしてある。
だからお前はもう少し寝ていろ。いいな?」
耳元で響く声に、素直にコクンと頷いた。
「いい子だ」
優しく笑ったリュウは再び俺をベッドに横たわらせ、頭を撫でてくる。
その心地良さに、俺はいつの間にかまた眠りに堕ちていた…。
次に目が覚めたらここにリュウの姿はなく…少し寂しいと感じた頭を振って、追い出す。
少しスッキリした体と頭。
ベッドから起き上がり、まず気づいたのは服。
着替えさせてくれたようで、ぶかぶかの白いTシャツに、これまた裾が余る黒いスウェット。
やっぱり体つきが俺とは違うんだな、なんてしみじみ思った。
時計を見ると、午後4時を廻ったあたり。
いつまでもここに居るわけにもいかないので、とりあえず俺はリビングに続くドアを開けた。
ドアが開く音に、ソファに座り何やら書類に目を通していたリュウが振り返る。
「起きたのか。どうだ?」
立ち上がりそばまで寄ってきたリュウを見上げた。
「マシにはなっ、…りました…」
なった、とくだけた口調になりかけたけど、思いとどまり丁寧に言い直す。
そんな俺を見ておかしそうに笑ったリュウ。
「今更敬語なんかいらん。普通でいい」
頭をくしゃっと撫でられた。
ソファまで連れて行かれそこに座るとリュウはキッチンに消えていき、手に何やら器を持って現れた。
「とりあえず食べろ」
目の前に置かれたのは、湯気のたつコンソメスープ。
正直言うと、何も食べたくない。スープを眺めていた視線をリュウに向ける。
俺を見るリュウからなんだか無言のプレッシャーを感じた俺は、そっとスープに手を伸ばした。
「………いただきます」
スプーンですくい、一口含む。
思ったよりも優しい口当たりのそれは食べやすく、胃になじんだ。
一口ずつゆっくりと食べ、空になった器をテーブルに置く。
「全部食べたな」
再び俺の頭を撫でたリュウは器を下げにいき、戻ってきたら次はお茶をテーブルに置いた。
「ホットミルクにしてやりたいが、牛乳は胃に重い。お茶で我慢しておけ」
優しい気遣いに頷き、お茶に手を伸ばす。
半分ほど飲んだところでコップをテーブルに戻すと、リュウが俺の手を掴んできた。
俺は反射的にリュウを見上げる。
────っ。
リュウのまっすぐな瞳に、ドクンと心臓が音をたてた。
その瞳から、そろそろ本題に入ろうとしているのが分かる。
目を反らすこともできず、俺はただただリュウの瞳を見返すしか出来なかった。
「お前のその黒い瞳は、カラコンなんだな。とりあえず取れ」
完全に正体がバレている今、抵抗しても仕方がない。
俺は掴まれていないもう片方の手でカラコンを取り、テーブルの上に置いた。
そしてそっとリュウを見上げる。
視線が合った瞬間、リュウの手が優しく頬を撫でた。
先程と同様に甘さを感じ、俺は体をビクッとさせる。
「──こんなに、近くにいたのか」
「………え?」
言葉の意味を理解する間もなく強い力で腕を引かれ、リュウの胸に収まる俺。
「やっと、捕まえた」
抱きしめる腕に、力がこもる。
俺はそんなリュウの行動に、そして言葉に戸惑うばかり。
しばらくの間俺を抱きしめていたリュウはそっと腕を放し、じっと俺を見つめてきた。
「ずっと、お前を探していた」
真剣な、その瞳。
「まさかこんな近くにいたなんてな」
困ったような、悔しいような、複雑そうに笑うリュウに、俺はある疑問が浮かぶ。
「──どう、して…」
俺が”白夜”だと気づいたんだろう。
言葉を続けられなかった俺だったが、何が言いたかったのかは伝わったようだった。
「初めから白川に対して違和感は感じていた。
初めて会うはずなのに、どこか納得のいかない感じが拭えなかった」
俺の手を握ったまま、リュウが説明していく。
「白川の顔を見たときは、驚いた。白夜と瓜二つ、必ず繋がりがあると思った。
この時は同一人物だなんて思わなかったんだ。先入観がそうさせた。
”白夜”は成人した大人だと思っていたし、白川は黒髪に黒眼が変装だなんて思いもしなかったからな」
やっぱりリュウは、白夜と俺の間に何か繋がりがあると疑っていたんだ。
「だけどこの前白夜を呼び出したときに、感じていた違和感がより強くなった。
白夜に会うのは久しぶりのはずなのに、そうは思えない。
白夜の腕を引くのも抱き上げるのも、つい最近の出来事のように感じた。
それがいつだったのか、それを考えていると、ふと白川を思い出したんだ。
その瞬間二人が重なって見えた。だけどその時点では、まだ違和感の域を出なかった。
だけど、ある言葉で二人は同一人物じゃないかという疑惑が生まれ、それはやがて確信に変わった」
リュウは言葉を止め、俺を見た。
「お前の一言でな」
「…え?」
俺の、一言……?
何か、白夜に繋がる言葉を言っただろうかと考えを巡らせる。
考え込む俺を見て、リュウはクッと喉の奥で笑った。
「お前は覚えてないだろ、きっと。寝言だったんだから」
「ね、ごと……?」
「お前が意識を飛ばしたあと頭を撫でてやっていたら、お前はつぶやいたんだよ。”会長”ってな」
──え。
「俺をそんな風に呼ぶのはただ一人。”白川聖夜”だけだ。”白夜”が言うのは、ありえない」
「──でも、呟いた言葉が…あんたを指しているとは限らないだろ?……なんで──」
「変装をした白川の頭を撫でてやっている時も、お前は同じように呟いていたしな。
手にすり寄ってくる仕草も同じだ。
顔も、寝言も、仕草も同じ。同一人物だと思うのが当たり前だろう?」
意識のないときに、俺はそんなことをしていたのか──。
恥ずかしさでかぁっと顔が熱くなる。
「他にも納得のいくことがあった。
初対面なはずなのに、お前が俺を嫌う態度だってそうだ。以前に白夜として俺に会っていたから、あの態度だった。
それに、しばらく街に姿を現さなかったのも、俺の呼び出しに応じなかったのも、足を怪我していたからだ」
それに──。と続けるリュウ。
「今日お前を見つけた場所は、白夜を見かけた場所だ。俺は前にあそこで白夜を見かけた。
今日と同じようにうずくまり、泣いていた」
あ──。
マメを、見つけた日…?
「──と、そうだ。少し待っていろ」
話の途中で思い出したように急に立ち上がり、俺を残して部屋を出て行くリュウ。
俺は頭がまだ混乱していて、ただ見送るだけだった。
なんで正体がバレたのかは、分かった。
まさか寝言でなんて……。寝ている間のことまでは、さすがに気をつけてなんていられない。
だけど、やっぱり疑問に思うのは、”何故”俺を探すのか。
さっきリュウは、ようやく捕まえたと言った。
俺の正体を知って、何がしたい……?
考えても、考えても──理由が分からない。
「……何してんだろ…」
リュウが出て行ってから15分ほど経とうとしている。
不思議に思っていryと、そこに玄関の方から物音がした。
帰ってきたのか?──そう思うと同時に、リビングのドアが開く。
「おい、おわっ」
リュウが顔を出した瞬間ーー白い物体が、飛んだ。
そして床にスタッと着地すると
「ニャァ」
ひと鳴きした。
「───え…?」
近寄ってくるのは、白い、猫。
足元までくると、体を擦りよせ俺を見上げてきた。
う、そ…まさか───。
「…マ、メ…?」
すると白猫は俺の膝の上に飛び乗り、まるで嬉しそうにニャァと鳴いた。
恐る恐る手を伸ばし、抱き上げる。
「──あ。」
黒い、斑点。
「──マメ」
喉元をくすぐってやると気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らし、お返しとばかりに頬をペロリと舐めてきた。
俺はマメを優しく抱きしめ、いつの間にかそばに寄ってきていたリュウを見上げる。
「な、んで……」
リュウは俺の横に座ると、頭を撫でてきた。
「お前がこの猫を置いていくのが辛そうで、俺が拾った。少しでもお前の悲しみを減らしてやりたいと思ったんだ」
サラリ、サラリとリュウの指が髪を伝っていく。
「最初はただ、お前に興味が湧いただけだった。
だけどこの猫と一緒にいるお前を見て、俺は無性にお前を抱きしめてやりたくなった。
流れる涙を拭ってやりたい。自分の胸で泣かせてやりたい。
悲しみを取り除いてやりたい。そして、もっと笑う顔が見たい。
俺は、お前をもっともっと知りたいと思った」
リュウの並べる言葉に、ドクン、ドクンと心臓が煩い。
「お前と接触したくてお前を買った。お前と少しでも繋がりたくて弱みに付け込んだ。
お前に俺を刻みたくて快楽を与えた。俺は、お前が欲しくてたまらなかった。
白川聖夜という存在に戸惑いもした。俺は白夜が欲しいはずなのに、何故だか白川聖夜も気になり放っておけなかった。
だけど、2人が同一人物だと確信したとき──俺は言い表せないぐらいに嬉しかった」
リュウが頬をさする。さっきからずっと感じる、甘さ。
リュウの瞳が、俺を捕らえた。
その瞳から、目を逸らせない。
「好きだ」
甘い、甘い、言葉。
「俺は、お前が、好きだ。──俺のモノになれ」
胸に強く響く、リュウの言葉。
甘さを感じていたのは、リュウの仕草に、好意が含まれていたから。
──俺は、何故だか泣きたくなった。
俺は、──俺は………。
堪えきれなかった涙が、零れる。
それを優しく拭う指先に、キュッと切なくなった。
「嫌、か?」
何も言わずただ泣くだけの俺を見て切なそうに顔を歪めるリュウに、反射的に顔を横に振る。
嫌───じゃない。でも。
「……あんたの気持ちには、答えられない」
「……嫌ではないんだろう?だったら何故だ」
嫌じゃないんだ。だけど──。
「……駄目、だから……」
そう。駄目なんだ。無理なんだ。
俺は、誰かに好きになってもらう資格なんかない。
「何が駄目なんだ」
俺は首を横に振る。涙がポタポタとマメにかかった。マメは不思議そうに俺を見上げている。
「言え。何が駄目なんだ?」
「……俺は、誰のモノにもならない。そう、決めたんだ」
「………ルールだからか?」
……そうだな。確かに、そんなルールもある。だけど、理由はそれじゃないんだ。
でも本当の理由を言うつもりはない。
だから俺はリュウの言葉に頷く。
「ルールだというなら、関係ない」
「は?」
「ルールだから、なんだ。そんなもので諦めるほど、生半可な気持ちじゃない」
意志の強い揺るぎない瞳に、俺はたじろぐ。
「ルールだから駄目だと言うなら……ルールなんて関係なくなるぐらいに、好きにならせてみせる。
お前を突き止めた今──俺は遠慮はしない」
その瞳はまるで肉食獣のように鋭く──俺を捕らえて離さない。
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