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取り戻すために
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side Ryu
『隆盛!鷺ノ宮が黒金組に入った!』
明良から連絡が入ったのは、夕方の六時を過ぎたあたり。
「……明良、出てきたら隙を見て拘束しろ。連れてこい」
『りょうかーい!』
鷺ノ宮。聖夜が消えてから、あいつも学園に来ていない。
怪しいとは思っていたが、やはりそうだったか。
パソコンの画面に視線を戻す。
小笠原の、裏の情報。叩けば次から次へと、悪事が蛆虫(うじむし)のようにがわいて出てくる。
小笠原財閥は主に南日本で手広く展開している。
財閥同士の交流は皆無、傘下にあるのは海外の企業ばかり。
グローバルな会社として知られているが、その実態は、海外との闇取引。
非合法のドラッグ、拳銃、人身売買。
黒金組との繋がりもでき、益々裏社会にその根が蔓延っている。
本来なら、こんな裏情報、たった数日で掴めるわけがないんだが……。
こっちは優秀な人材が揃ってるんでな。
「……俺を──俺たちを敵に回したことを、後悔させてやる」
情報をUSBメモリーにおとし、パソコンの電源を切った。
さぁ、行くか。向かうは、南区にある、バーだ。
エレベーターを降り、ロビーに出るとそこには木崎たちがいた。
夏休みに入り大半の生徒はバカンスや実家に帰るなか、この五人は学園に残り、聖夜の帰りを待っていた。
「あ、会長……」
木崎が気づき、声をかけてくる。
こいつらには、なにも話していない。ただ、今探している、と告げただけだ。
信用していないわけじゃない。
きっとこいつらは聖夜を大事に思っている。話せば、きっと力になりたいと言い出すだろう。
だが、相手が悪すぎる。無傷でいられる保障はない。
こいつらまで危険な目には遭わせられない。聖夜の大事な友達だからな。
「聖夜……まだ、見つからないんですよね……」
町田が瞳を揺らし、そう問いかけてくる。
「……探し出して、必ず連れ帰る。だから、おまえ等は待っていてやれ」
それだけを告げ、ロビーを後にした。
”close”の看板が掛かりっぱなしのドアを開けて入ると、そこには間宮とミツがいた。
「他は?」
「ルイとレン……もうすぐ来る…」
「そうか」
ミツはあまり話さない。
内気、というわけではなく、ただ単にめんどくさいらしい。
「どうだ?集まったか?」
「あぁ。脅すには充分なネタだ」
ニヤリと笑うと、間宮も愉快そうに笑った。
「あとは、内部だな……」
その間宮のつぶやきに、俺はニヤリと笑ってみせる。
「なんだ?なんか掴んだか?」
「あぁ。獲物がかかった」
「そりゃ、楽しみだ」
早く連れてこい、明良。
しばらくするとルイとレンも集まり、祐輔もやってきた。
明良から捕まえたと連絡があったから、もうすぐ来るだろう。
それぞれカウンターで携帯をいじったり、ソファに寝そべりパソコンを眺めたり、ラジオに耳を傾けたり、と思い思いに過ごす中、人の気配とともにドアが開かれた。
「なんなの。んなとこ連れて来てさー……って、え?」
鷺ノ宮を先に入れ、明良が続いて入りドアを閉めた。
鷺ノ宮は中にいる俺達を見回し、俺と祐輔に目を留め、少なからず状況を把握したようだ。
サッと顔色が変わった。
「さて、鷺ノ宮。洗いざらい話してもらおうか」
「……なにを?」
俺の言葉に首を傾げ、へらっと笑う。だけどその顔は引きつっているのが見て取れた。
「貴様が先程までいた場所について。そして貴様が連れて行った人物について。
貴様が知っていること全て、だ」
「……ちょっと無理かな」
笑みの中に焦りを含ませながら、鷺ノ宮は首を横に振る。
「素直に話せ」
「俺も命が惜しいからね」
「そうか。なら、仕方ない。吐かせてやるまでだな」
「なーに?暴力?痛いのは嫌だな」
まだ笑みを浮かべる余裕のある鷺ノ宮を一瞥し、俺はニヤリと笑う。
「まぁ、それも一興だが……痛い思いでも、意味合いが違う。
貴様だけ味わってもらうんじゃなく、”鷺ノ宮”全体だ」
「……どーいう意味?」
「言葉通りだが?貴様も将来鷺ノ宮の名を背負って立つ身だ。
今、”鷺ノ宮”が潰れたら、どうなるだろうなぁ」
笑顔が消え、探るように俺を見る。
「……たかだか”本田”に何ができる。
黒沢と繋がっていようが、お前が手だしできるはずがない。
それとも、親(黒沢)に泣きつくのか?」
「いや?”俺”がやるさ」
そして俺は鷺ノ宮に近づき、耳元で囁く。
こいつにとって予想を遥かに超える、絶望的な事実を。
「──なっ!デタラメを言うな……!」
「本当ですよ?鷺ノ宮先輩」
「マジマジー。隆盛怒らせると恐いよー?」
信じようとしない祐輔と明良が追い討ちをかける。
「隆盛、アレ見せた方が早いよ」
祐輔の言葉に、俺はパーカーのポケットに入れていたものを見せる。
それを見た鷺ノ宮は目を見開いた。
「さて、話してもらおうか」
俺を見る目が変わる。そこには怯えがあった。笑みを浮かべる余裕も、ない。
待っていろ、聖夜。
──もうすぐ、だ。
いつもの飄々とした気配は失せ、どこか諦めたような雰囲気を漂わせながら、鷺ノ宮は淡々と俺たちの質問に答えていく。
今は小笠原と聖夜の接点、関係についてだ。
「誠也さんは……歪んだ精神の持ち主で……美少年を精神的に追いつめては壊す。
俺は街で適当に見繕って、差し出していた。だけど白川くんはたまたま誠也さん本人が見つけた。
お父さんに会うために会社に来たところ、誠也さんが見つけたちぇ言ってた。
そこから始まったのは、趣味の悪いゲームだよ。自分に好意を持たせ、周りを排除していく。
誠也さんは支社長という立場を利用し、白川くんのお父さんをはめて……自殺に追いやった」
鷺ノ宮の話す内容を聞き、俺たちの眉間に皺が寄る。
「アメリカに行くことが決まっていた誠也さんはまだ白川くんと遊び足りなくて……彼に恐怖を植え付けた。
全てのネタをバラし、父親が死んだのは君のせいだ、と告げた。執着を匂わせて、アメリカへ飛んだ。
誠也さんは白川くんに全ての真実を告げたわけじゃない。
八澤さんと繋がっていること、借金なんて本当はありもしないこと。白川くんは知らないままだった。
誠也さんは八澤さんに白川くんを縛るように命じた。
ありもしない借金と、運悪く倒れてしまった母親の治療費。
体を売ることで良い条件をつきつけた。
売春できる身体に八澤さんが躾て、そしてこの地で商売を始めたんだ」
聖夜の、自分は汚れてる、と言った辛そうな表情を思い出し、ギリッと歯を食いしばる。
体を投げ打ってでも、必死に生きてきた聖夜。
それを嘲笑うかのように、いいように扱う八澤、そして、小笠原。
──許さねぇ。
「小笠原は本来ならまだアメリカにいるはずだな?何故戻ってきた?
日本の会社との提携だって、何故今更そんなことを?」
「それは、君たち……主に君のせいだよ」
鷺ノ宮が俺を視線で捉えた。
「俺の…?」
「偶然、俺が通う学園に入学してきた白川くんを監視するよう命令された。
だから、報告した。”本田隆盛と親密になりつつあります”って。
白川くんの意識が自分以外に向くのが許せない誠也さんは、無理矢理日本での仕事を作って、帰国したんだ」
「たったそれだけで、わざわざそんなことをするの?」
祐輔が信じられない、と言わんばかりの表情で返した。
「誠也さんにとっては、許し難いことなんだ。あの人の、白川くんに対する執着は…異常だよ。
白川くんもそれを悟っているから、消えたんだ。君を守るために、大人しく籠の中に入った」
「守るため、だと?」
「そう。”嫉妬で何をするか、わからない”そう誠也さんは言った。
自分の父親が死に追いやられてる。脅すには、十分な言葉だ」
つまりは、俺に……俺たちに危害がおよばないように、消えたというのか──。
拳に力が入る。
「俺の知ってる話は以上だよ。解放してくれない?」
そうのたまった鷺ノ宮を一瞥し、鼻で笑ってやる。
「馬鹿か。解放は、聖夜を取り戻してからだ」
話を聴き終えてから、最後に辛そうに笑う聖夜の顔ばかりが浮かぶ。
聖夜。
──聖夜。
俺は、ずっと心の中で呼びかけた。
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