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穏やかな日々 2にしおりをはさみました!
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穏やかな日々 2
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目が覚めた、あの日。
連絡をもらってすっ飛んで来てくれた亮平に純、奏、肇、葵。
亮平と純は俺の素を知ってるけど、奏たちは知らなかったため、三人は一瞬目を点にした。
だけど俺の素に対する衝撃よりも、俺が無事だったことの方が重要だったみたいで、すぐに元に戻った。
「バカ!心配かけんな!」
亮平には怒られ、
「聖夜ぁっ!うわーん!」
純には泣かれ、
「まったく……アホ!」
奏には呆れられ、
「………」
肇には無言で責められ、
「聖夜っ!可愛い!」
葵には抱きしめられた。
葵は速攻で隆盛につまみ上げられ一睨みされ、隆盛の威嚇と、俺に対する甘い態度と、俺の隆盛に対する挙動不審さで、何かを感じ取った五人は。
へぇぇ〜。と瞳を細めて、笑っていた。
そんな視線を受け、気恥ずかしさと居たたまれなさがないまぜになり、俺はますます挙動不審になった。
だけど、最後、みんなは。
無事で、良かった。
そう言って、安心したように、笑ってくれた。
「聖夜ーっ、来たぞー!」
ガラガラっ!と扉を開け、そして叫びながら病室に飛び込んでくる人物。
はぁ。来たよ。
俺は無意識にため息をつき、今入ってきた人物を睨む。
「だから、ノックぐれーしろよ、葵」
そう言うと、葵は何故か満面の笑み。親指を立てた拳をグッと突き出してきた。
「美人の睨みは最高だな!」
「……。」
今ものすごくあの親指を折ってやりたい衝動に駆られている。
冷めた目を向けるのは決して俺一人じゃない。亮平も、純もだ。
そこに、バシ!と小気味いい音が響いた。
「痛っ……!」
「ったく、この馬鹿が。毎回毎回、いい加減にしろ」
葵の後頭部を容赦なく叩き、俺たち以上に冷めた視線を送る肇。
「よ~、聖夜」
そして我関せずとばかりに、ニコニコしながら奏がベッドまで寄ってきた。
「奏……何とかしろよ、アイツ」
「あー、葵?無理無理。だって変態だもん。
聖夜のこと、すっげーお気に入りみたいだな。ゴシューショーサマ」
奏の言葉に、うなだれる俺。
「なんで隠してたんだ!キラキラ銀髪に、宝石みたいな翡翠色の瞳!俺の理想っ!」
俺が目覚めたあの日。
俺の容姿の話になったときそう突然のたまい、目を輝かせた葵。
その瞬間隆盛の中で、葵は要注意人物となったみたいだった。
「肇……もう連れてくんな、頼むから」
肇にそう願い出ると、葵が割り込む。
「ひどいぞー、聖夜!仲間はずれは、良くないぞ!」
はぁ。疲れる。葵はスルーしよう、と決めた。
色んな話で盛り上がり(葵も肇に本気で睨まれて、普通にしていた)、夕方頃にまた来るなー、と帰っていったみんな。
見舞いに来てくれる友達がいて、そして忙しいなか毎日時間を作って会いに来てくれる隆盛がいて。
ひとりじゃ、なかった。
父さん、母さん。
俺、ひとりじゃ、なかったよ。
俺はこの日も、穏やかに眠った。
辛い、苦しい夢は、もう見ないだろう。
「うん。
食欲もだいぶ出て来たみたいだし、傷の具合も良好。感染症の心配もなし。
この分なら、もうすぐ退院できるよ」
診察を終え、木宮センセイはニコリと笑いそう言った。
「でも、退院後も無理は禁物だよ?」
「分かりました」
センセイが病室を出て行った後、テーブルに置かれてあるカレンダーを見る。
明日で夏休みは終了、明後日から新学期が始まる。
思ったよりも、退院が伸びた。
あの屋敷での生活でだいぶと弱り、なかなか体力が元には戻らなかったせいだ。
だけどようやく退院できる。
「隆盛、もうすぐ退院できるって、センセイが」
「そうか」
この日、夕方に病室を訪れた隆盛にそう言うと、嬉しそうに笑った。
「退院したら、真っ先に行こうな」
「……うん」
退院したら、行かなきゃ。
父さんと、母さんが眠る場所へ。
俺が入院している間、隆盛は俺の代わりに代理人を務めてくれた杉崎さんに連絡を取り、二人で母さんの納骨などの手続きをとっていてくれた。
俺の代わりにお寺へ行って、母さんの供養をしたり、父さんが眠るお墓に母さんが入れるよう手続きをしたり。
忙しいはずなのに。
お前のために、何かをするのは苦にはならん。むしろ、嬉しいさ。
そう言って、笑ってくれた。
感謝しても、したりないぐらいだ。
「ありがと……。ホントにありがと、隆盛…」
「あぁ。早く、お前の顔を見せてやろう」
優しく笑って、頭を撫でてくれた。
「明日、退院だって?」
「うん」
退院を明日に控え、荷物の整理をしているところにやって来たのは真吾さん。
「良かったな」
「ね~」
「……良かった……」
そして、ルイとレンとミツ。
俺は、みんなの顔を一人一人見ていく。
「みんな、ありがとう」
助けにきてくれて。救い出そうとしてくれて。
「ありがとう」
みんなを見渡して、頭を下げた。
「聖夜」
真吾さんに初めてそう呼ばれ、顔を上げる。
「もう”白夜”はいねぇんだし、いいだろ?そう呼んで」
「……うん」
真吾さんは俺の頭をクシャクシャっと撫で、笑った。
「聖夜。今、幸せか?」
突然の、問い。
真吾さんの瞳は、真剣だった。
「……うん。幸せだよ、すごく」
俺は、笑って答えた。
そんな俺を見た真吾さんは少し驚いた顔を見せ、だけど次の瞬間、本当に嬉しそうに笑って言った。
「そうか。良かった」
それから少しして、隆盛が来た。
中にいた四人を見やると、顔をしかめる。
「隆盛」
だけど俺が呼ぶと、ふっと笑い近づいてくる。
「荷物は?」
「片付けた」
「そうか」
頭を撫でられ、目を細める。
髪を梳かれ、頬を撫でられる。
俺は大人しくされるがままでいた。
「僕たちがいるの、忘れないでねー?」
「……っ、あ、……」
すっかりこの行為が定着してしまっていた俺は、レンの言葉にハッとなる。
きっと顔が赤くなっているんだろう、そんな俺を見た隆盛が喉の奥で笑った。
木宮センセイをはじめ、病院の人たちにお礼を言って、無事退院。
「ありがとうございました」
隆盛が手配してくれた車で、学園まで戻ってきた。
運転手さんにお礼の言葉を告げ、降りる。
既に新学期は始まっているため、寮内はシン…と静まり返っていた。
エレベーターの中に入り、三階のボタンを押そうとすれば隆盛の手によって遮られ、代わりに隆盛が八階のボタンを押した。
「隆盛?」
「しばらく、俺の部屋で過ごせ」
「へ?」
意味がわからず、目をパチクリさせる。
「無理をしないよう、見ていろといわれたからな。まだしばらく学園には行かず療養していろ」
「……しないって、無理なんて。別に学校行くぐらい……」
「心配なんだよ。それに、俺が一緒に居たいだけだ」
嫌か?
なんて、頭を撫でながら甘い瞳で見つめられちゃ、嫌なんて言えない。
というかそもそも……
「嫌じゃない……」
そう言うと、ふっと笑った隆盛は、俺の髪をかき分け額にちゅ、とキスを落とした。
「………」
隆盛は、キス魔だと思う。
何かにつけて、髪とか額とか頬とか色んなとこにしてくるし。
おかげ(?)で、だんだんと甘い雰囲気に慣れつつある。
まぁ、気恥ずかしいし、くすぐったいんだけど。
約2ヶ月ぶりの、隆盛の部屋。
リビングに入ると、後ろから抱きしめられた。
「聖夜……やっとお前が帰ってきた」
隆盛……。
そっと隆盛の腕に手を沿わす。
「おかえり、聖夜」
「……っ、ただいま……隆盛」
リビングのドアを開けると、飛びついて迎えてくれたのは。
「わっ……マメ!」
にゃぁっ!
チロチロと俺の顔を舐め、熱烈歓迎っぷりに笑顔がこぼれる。
ソファに促されマメを抱いたまま座ると、テーブルにお金が置いてあるのが目に入った。
「これ……」
「お前が置いていった金だ」
隆盛を見上げる。
隆盛はお金をチラリと見たあと、俺に視線を移した。
「なんで、金を置いていったんだ?」
俺はテーブルの上のお金を見る。
「……隆盛と、お金で繋がっていたくなかった……から、」
隆盛との、行為だけは。
「隆盛を”客”にしたくなかったから」
だから、置いていったんだ。
そう言った途端、力強く引き寄せられその衝撃にマメが膝から飛び降りた。
俺は隆盛の腕の中に納まる。
「聖夜……」
抱きしめる力を強くする隆盛。
俺は背中に手を回し、胸に頬を擦り寄せる。あたたかい、隆盛の腕の中。
「お前が目の前から消えて俺は焦った、辛かった、苦しかった。もう、いなくなるなよ」
「うん……いるよ、ここに」
隆盛のそばに。
この、ぬくもりのそばに。
にゃぁー。
俺たち二人を見上げるマメが嬉しそうに鳴いたように見えたのは、俺が幸せだからなのかな。
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