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穏やかな日々 1
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目が覚めてから、俺は病室で穏やかな日々を送っていた。
隆盛から、そして警察から事の顛末を聞いた。
黒金組は組長や若頭であった八澤の逮捕、組員も逮捕者が続出。
組織として成り立たず、壊滅的。
小笠原財閥も、次から次へと犯罪が明らかになり、小笠原誠也の外にも逮捕される者がおり、こちらも壊滅の一途をたどっている。
そして、トップが機能しなくなり、路頭に迷いかけていた小笠原グループの企業に属していた社員たちは。
黒沢グループが企業を買収し、そこで変わらずに働いている。
それらの後処理を一手に担った隆盛。
隆盛は、自分が黒沢だと言った。
直系である隆盛は、産まれた瞬間から命の危険に晒される。
だから来るべきときが来るまで、直系の子は名を偽り身分を隠す、と説明してくれた。
俺の為に名を名乗り、そして俺を守ってくれた隆盛。
隆盛の正体が、”黒沢”にとって、そして隆盛にとって不本意な形で露わになってしまうんじゃないか。
そう問うと隆盛は、不本意じゃない、と。大丈夫だと、そう言った。
小笠原と八澤が隆盛の名を出したとしても、あいつ等がいるのは警察という檻の中。
俺の名が外部に漏れることは、ない。
あいつ等は檻の中からは出てこれない。それだけ罪を犯した。
たとえ、檻の中から出てきたとしても。
その頃には、俺はもう名を世間に公表し、絶対権力を手に入れている。
あいつ等に広めてもらわなくても俺自身が、”黒沢”の名を知らしめてやるさ、と不敵に笑った。
「……隆盛……大変だろ?毎日来なくても、いいのに……」
今日は朝から隆盛が病室に顔を出した。
訪れるその姿は、毎回スーツ姿で。
カッコいい……なんて思いながらも、少し胸が痛む。
毎日、毎日、事後処理やなんやかんやで忙しいはずなのに。
隆盛は必ず、顔を出しに来てくれる。
今日みたいに朝だったり、昼だったり、夜だったり、たぶん、俺が寝静まっている深夜にも。
時間はバラバラだけど、絶対、来る。
「俺がお前の顔を見たいんだよ」
頭を撫で、そして甘い顔をして、そんな事を言う。
「お前は?会いたくないか?」
「……っ、違っ!」
「だったら、素直に言え」
「……顔見れて、嬉しい……んっ、」
頭を撫でていた手が俺の後頭部を掴み、そして口づけが落とされる。
ちゅ、ちゅ、とついばむように繰り返される、キス。
隆盛の舌が、ペロリと俺の唇をなぞった。
それが合図かのように、俺は口を開け、そろりと舌を出した。
「ふ、ぁ……んっ、……ふっ、」
舌を絡め取られ、じっくり、ゆっくりと堪能するかのように舐めまわされ、小さな喘ぎが漏れる。
クチュクチュとやらしい水音にも触発され、気がつけば夢中で隆盛の舌を追っていた。
ゾクリ……と痺れるような、感覚。
これ以上はヤバい、と隆盛の胸をやんわりと押す。
「……ふ、んっ……りゅ、せ……っ」
それでもなおキスを止めない隆盛の名を呼ぶ。
肩を掴んでグイッと押したらようやく顔を離し、俺を見下ろす。
その表情は、どこか不満気だった。
「なんだ」
「う、いや、あの……」
チラリと隆盛をうかがい見て、俺は目線を下にずらす。
「どうした」
クイ、とあごを掴まれ、視線を合わせられる。
「いや、だって……その、あれ以上やると、……ヤバい、から……」
しどろもどろになりながら答える俺。
うー。きっと顔は赤いに違いない。
だって、熱いし。
クーラー効いてる病室なのに。
そんな俺を見た隆盛は、不満気な表情を一転させ、喉の奥で笑った。
「やらしい気分になるからか?」
「……っ、」
からかうような口調。
口の端を上げ、意地悪そうな笑みを浮かべ、だけど優しさを備えた瞳がじっと俺を見る。
「してやろうか?」
「へ?」
「口で。」
何を、とか、どこを、とか、そんな考えが浮かび、そして理解すると一瞬のうちに頭を駆け巡る行為。
「っ、なっ……バカ……っ」
俺の反応を見てますます意地の悪い笑みを浮かべ、迫る隆盛。
ちょ、待てっ!ここは、病院!
シーツをギュッと掴み、ジリジリと後ろへ下がる。
だけどベッドの上なんて、逃げる場所はないにも等しくて。
俺は隆盛の視線から逃れたくて、ギュッと目を瞑った。
すると。
「……ククっ、ハハ……っ!」
隆盛の笑い声が耳に届く。
突然の笑い声に、俺は閉じていた目をそろりと開けた。
破顔して、声を上げて笑う隆盛。
その姿に、ドキンと胸が高鳴った。
「クククっ、お前はなんでそんなに可愛いんだ」
「……!」
言われた言葉に、かぁぁっと顔が赤くなる。
そっと隆盛の手が頭を撫で、優しく髪を梳いた。
「冗談だ。こんなとこでそんなことをしたら、良和さんに怒られる」
木宮センセイの名前を出して、苦笑する隆盛。
「だが、そんな可愛い反応をするな。押さえがきかなくなりそうだ」
甘い声で、甘い仕草で、甘く笑う。
「ぅ……」
こんな甘い雰囲気には、まだ慣れなくて……俺はその度になんだか落ちつかなくて、こそばゆくて。
だけど、どこかその甘さに酔いしれる自分が、いた。
「……バカ」
口から漏れるのは、そんな可愛くない言葉。
だけど、隆盛はそんな俺を見て、可愛いな、と言って笑う。
──まだまだ当分、慣れそうにない。
まだ顔を赤くして、うー、とうなっていると、コンコンっと病室のドアを叩く音がした。
「はっはい」
「聖夜くん、入るね」
聞こえた声は、木宮センセイのものだった。
「どうぞ」
ドアがスライドして、木宮センセイが入ってくる。
「隆盛くん、来てたんだね。
聖夜くん、警察の方が来られてるんだけど……お通ししても大丈夫かな?」
「あ、はい……」
木宮センセイは一度病室の外に出て、再び戻ってきた。
その後ろには、50代半ばの、少し強面な男の人。
小笠原や八澤の担当をしている、刑事さんだ。
「すまないね、何度も。
たぶん、もう今日が最後だと思うから、付き合ってくれな」
笑みを浮かべると目尻が下がり、強面の顔が少し優しくなるから不思議だ。
木宮センセイが病室を出て行き、隆盛が椅子を刑事さんに譲った。
隆盛は反対側に回り、ベッドのそばに立つ。
そして刑事さんは、小笠原と八澤かが供述した内容から俺に事実確認をしたり、今の二人の状況を話してくれた。
一通り話し終わり、聞きたいことはあるかい?と問いかけられる。
俺はずっと思っていたことを、口にした。
「あの……俺は、逮捕しなくて、いいんですか……?」
そう言うと、刑事さんは少し驚いた顔してだけどすぐにふっと優しく笑い、おもむろに俺の頭をグシャグシャと撫でた。
「聖夜……お前そんな事を考えていたのか?」
横からため息まじりに隆盛が言う。
「……だって、俺がしてきたことは──」
「聖夜くん」
刑事さんの声が、俺の言葉を遮った。頭を撫でる手を離し、俺をじっと見る。
「何で、君を逮捕しなくちゃならないんだ?」
刑事さんは、優しく、まるで幼い子供に言い聞かすような穏やかさで話す。
「男娼は確かに罪になる。でもね、君は、被害者だ。
純粋な気持ちを踏みにじり、そして勝手なエゴを押し付ける大人の醜悪に捕らわれ、利用された。
君はただ、お母さんを守ろうとしただけだ。
君は何も悪くない。君を裁く理由は、何もない。
むしろ悪いのは、悪をのさばらせていた俺たちだ。
君のような犠牲を出す前に、俺たち警察が何とかしなければならなかった。
すまないね」
「……そんな、刑事さんが謝ることは、何も……」
「だが、それが事実だ。
聖夜くん。君が後ろめたさを、罪を感じる必要はないんだ。
君はただ、真っ直ぐ前を向いていればいい」
「……はい」
刑事さんは、優しく笑った後、病室を出て行った。
「いい刑事さんだったな」
「うん……」
昼頃、隆盛はまた事後処理のために出かけていき、俺は出された昼食を食べてから隆盛が担任から預かって持ってきてくれた課題をやり始める。
俺はとりあえず、学校側には事故に巻き込まれ入院となっているみたいだった。
問題用紙へ視線を滑らせていると、コンコン、と音がした。
「どーぞー」
返事の後に、勢いよく開くドア。
「ちょっ、亮平!静かに開けなよ」
「あ、わり。よ!聖夜」
「亮平、純」
笑いかけると、二人はベッドのそばに寄り笑顔を見せた。
「具合は?どう?」
「順調」
「後で奏たちも来るってよ」
「そか」
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