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青藍祭 5にしおりをはさみました!
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青藍祭 5
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「煩い、黙れ。こっちが下手にでてりゃいい気になりやがって。
周りの迷惑になってんのわかんない?デカい声出して意味わからんこと言って。
恥ずかしくないの?しかも堂々とセクハラしてんじゃねーよ」
「なっ、セクハラなんてっ」
「あのな。相手が不快に思った時点でセクハラなんだよ。
俺すげー不快、キモイ、ウザイ」
そう言い切ると、ロングヘアの女は顔を赤らめ、キッ!と睨んできた。
「なによ、ガキがえらそうにっ!」
そのガキ口説いてたのはどこのどいつだよ。
ため息をついていると、女が自分の前にあるカフェラテが入ったコップを掴むのが見えた。
──冷てぇ。
避けきれず、かかった液体が髪を濡らし、白いシャツが茶色く染まった。
うわ、最悪。
「…アンタら、」
「お客様、お帰りはあちらです」
出てけ!と続けようとしたんだけど、相楽先輩の声がして言葉を止める。
スッと手を出口の方へ伸ばす相楽先輩が横にいた。
そしてその横には、木宮先輩。
「わっ……」
頭の上からタオルが被せられる。
隙間から覗くと、すっごい眉間に皺を寄せた隆盛が前に。
「あなたのような客はいりません。とっととお引き取りください」
「な、何よ!」
「わ、私たち何もしてないじゃない!」
人にカフェラテぶっかけといてよく言うよ。
「早く帰ってくんないかなぁ?目障り~」
いつもより低い声の木宮先輩。
「な、なによ!」
「い、言いつけるわよ!客に暴言を働いた生徒がいるって!」
「言えばいいだろうが」
俺を背後にやった隆盛が冷めた目で客を見た。
「その時はいい年した女が高校生相手に、誘い文句を言いながらセクハラしていたと訴えてやるがな」
「セ、セクハラなんて言いがかりよ!」
「そうですか。ならば確認しましょう。
ここには防犯上カメラが設置してあります。
高性能マイクもついてますので、おそらく会話も入っているでしょう。
あなたが本当に何もしていないと言うのなら、内容を見ていただいてもかまいませんね?
見たところあなたは二十歳を迎えているように思われますが、万が一、あなたが高校生相手にそのような行為を働いていた場合。
淫行罪になりますよ?」
相楽先輩の笑顔が恐いです。
淫行罪って。スケールデカすぎませんか。
相楽先輩の言葉に女二人は動揺、とくにロングヘアの方は顔を青くして唇を噛んでいた。
「あ、もう15時過ぎてるよ~。とっとと帰れ」
最後の言葉、なんかドスが効いてるんですけど。木宮先輩も恐いです。
「い、行こっ」
「う、うん」
女二人はそそくさと帰っていった。
……何だったんだ、一体。はぁ。とりあえず……。
俺はくるりと振り向く。
各テーブル、みんなの視線を集めていた。
「ご主人様、お嬢様。騒ぎを起こし、大変ご迷惑をおかけいたしました」
俺がそう謝ると、周囲からは。
「あの人たちが悪いよ」
「そうそう。待ってるときからうるさかったし」
「なんか、恥ずかしい大人だったよな」
「気にしてません」
なんて友好的な言葉が返ってきたことにホットする。
その後とりあえず俺は生徒会室に置いてあった制服を取りに行き、学園にあるシャワールームでベトベトになった髪を洗い、ガーデンへと戻った。
相楽先輩の計らいで残っていた客全員にドリンクをサービスし、予定より一時間遅い16時でようやく終了。
なーんか後味の悪い終わり方だったな。
生徒会室に引き上げてきた俺たち。
隆盛たちも制服に着替え、相楽先輩が入れてくれた紅茶で休憩。
「あーぁ。せっかく楽しかったのに、最後のでだいなし~」
木宮先輩はソファに寝転び、ぶつくさつぶやく。
「まぁね。アレはちょっとうざかったけど」
相楽先輩は苦笑い。
「金輪際出入り禁止だな、あいつらは」
なんて言いながら、隆盛は眉間に皺を携えていた。
「でも、いつもならしろっち上手くあしらってそうなのに」
木宮先輩が起き上がり、俺を見ながら言った。
あー………うん、まぁ。
「……今日は、ちょっと……朝からダメージ受けて……頭が回らなかったというか、余裕がなかったというか、上手くあしらえなかったというか…」
と言うと、三人ともどこか気まずそうな顔をした。
「ご、ごめんね~…」
「ごめん…」
「すまなかった…」
しおらしく謝る。どうやらまだ気にしてたみたいだ。
俺はそんな三人に思わず笑ってしまった。だって、似合わないし。
そんな顔して、謝ってさ。
「いいですよ。
今日庇ってくれたし、代わりにあいつらに言ってくれたんで、チャラにします。
……ありがとうございました」
笑ってそう言うと、三人も安心したように笑った。
多少のハプニング?もあったけど、まぁそれなりに楽しめた学祭だった。
お化け屋敷のことも、いけ好かない客のことも、いつかいい笑い話になるだろ、きっと。
「ふぁ……」
ねむ。
あくびをかみ殺しながら、せっせと暗幕を畳んでいく。
青藍祭最終日。
三時までは片付け、三時半から今年一番の盛り上がりを見せたクラスに表彰があり、新生徒会役員の発表、挨拶の後そのまま講堂へ移動し打ち上げという名のパーティーが催されるらしい。
俺たちがやった執事喫茶の片付けはすでに終了。
時間も余ったので、クラスの片付けをお手伝い。
亮平に前もって片付けの進行状況を聞き、怖いものは全部撤去済の返事に安心してやってきた。
そして俺の姿を見た何人かのクラスメートに昨日は大丈夫だった?と聞かれた。
気を失ったのを心配してくれてるみたいだけど、目の奥には”いいもの見たなー”というようなものが隠されているのは気のせいか?
「昨日は悪かったな、マジで」
同じように暗幕を畳む亮平をチラリと見る。
目が笑ってるっつの。
「まさか意識飛ばすとは思わなくてさ」
あのグロテスクな侍の正体は、なんと亮平だった。
昨日晩ご飯の時に謝られたとき、思わずお前かー!と掴みかかりそうになったわ。
「会長たちも反省してたみたいだな?」
俺が怖がってる様を、三人は隠れて楽しそうに見ていたらしい。悪趣味だ。
「まー、でもお前が意識飛ばした後の会長の動きは素早かったけど。
お姫様抱っこで大事そうに抱えて、颯爽と駆けていったし」
みんなが、心配しながらも意味合いを含めた目をしていたのは、コレが理由だ。
何でも、その時の隆盛がまるで騎士(ナイト)みたいですごくかっこよかったとかなんとか。
からかい半分で笑う亮平をジロリと睨む。
「わりー、わりー。あ、もう昼じゃん。飯行こーぜ」
話をそらせた亮平。
ま、腹減ったしな。
違う場所で作業していた純に連絡をして、途中で合流し食堂に向かう。
………。
視線が痛いぞ。
チラチラと見てくる奴。
ジーっと見てくる奴。
「時の人だねー、聖夜は」
なんて言いながら周りに視線を巡らした純。
食堂でも同じで、多少居心地が悪い。
「まぁでも嫌な感じはしないんじゃね?」
亮平がからあげ定食のボタンを押しながら言った。
あ、俺もそれにしよ。
亮平の言った通り、悪意のこもったものは今のところない。
「そいや聖夜、会長と食べなくていいのか?」
「ん?隆盛、時間まで仕事するんだって。邪魔したくないし」
「忙しいんだねぇ」
「んー。昨日も俺が寝てから仕事してたみたいだしな。ちゃんと寝てんのかな……」
「あくびばっかしてた聖夜もそんなに寝てないんじゃないのか?」
ニヤニヤ。純も、ニヤニヤ。
……最近、なぜか周りの奴らにからかわれることが多いのは気のせいだろうか。
「……ほっとけ」
二人から目を逸らす。
「……なんか、聖夜雰囲気かわったよな」
なんて突然脈絡の無いことを言いだした亮平。
「あ、わかる。柔らかくなったよね」
亮平の言葉に頷く純。
柔らかく……?
言われた意味が分からず首を傾げながら顔を上げると、優しい瞳をした二人がいた。
「まぁ、なんつーかさ。前はクールっぽかったっつか。
人を寄せ付けませんオーラがあった感じ?」
「そうそう。それがさ、今無いんだよね。
しかも会長を気づかう表情とか、すっごい優しいし。照れて顔赤くなってるし」
え。
俺はビックリして二人を交互に見る。
「……前と、そんな違うか?」
「うん。なんか、表情豊かになった。というか、感情が素直になった感じがするな」
「笑ったり、怒ったり、はにかんだり、照れたり、拗ねたり?
僕、嬉しい。聖夜の色んな顔見れて」
なんだろ。
すげー、恥ずかしい……けど、嬉しい。
俺が変わったっていうんなら。
それは……
「会長のおかげかー」
「ねー。恋は偉大だね!」
「……うん。」
隆盛が、俺を救ってくれたから。
そして、甘えさせてくれるから、だと思う。
「「ごちそうさま」」
ご飯を食べ終えたわけじゃないのに二人がそう言って、その言葉の意味に気づいて赤くなる俺。
そんな俺を、二人は笑いながら見ていた。
あー、もう。
なんだかこんな時にも、幸せを感じる俺がいた。
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