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暁光にしおりをはさみました!
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暁光
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陽の光が顔にあたり朝になったことを認識し、仕方なく瞼を開けるとすやすやと眠る伯岐が私の腕の中にいた。昨晩は抱き締めたまま眠ったのだった。ぬくもりが心地よく、また眠りの世界に引き込まれそうになる。
伯岐の寝顔を見つめながらうとうとと微睡んでいると不意に紅い瞳が開いた。じっと見つめ合う。伯岐は慌てたのか勢いよく起き上がる。……まあ確かに予想はできたのだが、見事に額をぶつけることになり互いに痛みに悶えることになった。
「お、はよう、ございます……」
「ああ……おはよう……」
おかげでしっかりと目が覚めた。痛みが反響し、顔を見合わせ互いに苦笑する。昨日に比べて随分いい顔をしてくれるようになったのが嬉しい。
「着替えを運ばせよう。恥ずかしいならそのまま掛布にくるまっているといい」
一応それを告げると、あわてて伯岐は掛布にくるまる。その仕草が小動物のようでとても可愛らしい。呼び鈴を鳴らし扉越しに使用人に着替えを運ぶようにと命じる。食客とはいえ鄭家の人間になったのだ、伯岐にもそれなりに良いものを着てもらわねばならない。そのためにも買い取る前にいくらか伯岐のための服を誂えさせた。
ふと伯岐のほうを見れば、首をかしげじっと私の方をみている。
「何か聞きたそうだね?」
「その、仲影様はどうして、私を……」
「ああ、そのことかい?血雲の詩に将来を感じたからね」
陰惨で悲痛な詩。詠いくちはとても素晴らしいのにその内容のせいで本当の好事家以外評価しようとしない詩。血雲を売る、と私が食客を集めていることを知っていたあの男が訪ねてきたときには随分驚いた。
「私は芸術が好きなんだ。一流の絵師も、書家も、講談師も役者も、舞い手も食客として抱えているんだよ。いずれ、一緒に鑑賞しようか。君の詩作のためにもなる」
「食客、ですか……?」
「私の祖父は王族でね、とても芸術が好きな方だったんだ。それで、ね。父上も兄上も金持ちの道楽と嫌っていたけど、私はこういうことが好きだからね」
私の芸術に関する興味は、祖父ゆずりと言っていい。父上も兄上も政治家としての才能は持っていたが、こういう心の余裕が一切ない現実主義者だった。それもあって、私は二人が大嫌いだ。それに、父は兄ばかりで私を見てくれなかった。
扉が叩かれ、着替えの用意ができたことを使用人が告げる。使用人が入ってきたが、若干伯岐が怯えたような表情をしていたので着替えさせるのは私がすることにした。
我ながら甘いとは思うが、使用人を下がらせ、服をかぶせてやる。その上質な絹の感触に伯岐は戸惑いをみせた。
「仲影様、これ……とても高いものなのでは……」
「いいんだよ。君も私の食客になったんだ。恥ずかしくないものを着てもらわないと、ね」
誂えさせた美しい緑に染め抜かれた絹の衣はよく似合っている。いずれ女物を着せるのもいいだろう。もとが中性的な顔立ちだからよく似合うに違いない。
「仲影様……?」
いかんいかん、自分でも鼻の下が伸びていた気がする。そして未だに己が着替えを済ませていないことにようやく気付く。流石に朝は室内でも寒く、あわてて着替えながらひとつくしゃみがでた。
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