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崩壊にしおりをはさみました!
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崩壊
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季丹殿の伯岐の心が私に向いているという言葉だけが今の私の心の支えだった。
だが、それならなぜ伯岐は私を拒むのだろうか。怯えきって嫌がって、私が入っていくとずっと去るのを待っているじゃないか。私に向いているというのなら、なぜ?
伸びをしてくるりと書斎を見回す。季丹殿が貼っていった符が、ぼろぼろになっていた。季丹殿も気休めだと言っていたし期待はしていなかったが、それだけ伯岐が苦しんでいるという事なのだろうか。
ふと、椅子から立ち上がる。どうしても伯岐に会いたくなった。きっと怯えられるだろうというのは想像がつくが、どうしても触れたくて触れたくて仕方がない。
しかし、触れてそのあと私は一体何をするのだろう。謝る……それでも、伯岐はおびえ続けるだろう。癒す……一体どうやって。私には触れることしかできない。それをどう受け取るかは伯岐次第としか言えない。
こんなに私は己に自信のない人間だっただろうか。いや、それをやってきて半月の間、ずっと失敗してきたから自信が持てないと言ったほうがいいだろう。
何時の間に夜になっていたのだろうか。月のやわらかく照らす廊下をおぼつかない足取りで歩く。これではまるで酔っ払いだ、と自嘲の溜息が漏れた。沓音がやたら大きく庭に響く。
扉を開けるのに、随分時間を要した。扉を開けると、伯岐を目だけで探す。
伯岐はぼうっと、こちらを見ていた。怯えることもなく、ただただこちらを見つめている。一歩ずつ伯岐に近づく。伯岐は逃げなかった。息のかかるほど近くに行くと、少し怯えたように息を詰めた。それでもどうしても触れたくて、そっと手を伸ばす。頬に触れる。暖かい。
伯岐の目が、くしゃりと歪み潤んだ。ぽろぽろと涙がこぼれる。
……私の中の、何かが音を立てて崩れた気がした。
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