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血煙にしおりをはさみました!
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血煙
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夜の闇の中、商家の屋敷は気味が悪いほど静まり返っていた。
「これでいいだろう」
「……興の殺がれるやりかたをしてくれる」
「何も知らないまま死ぬ方がきっといいさ。それに、逃げられる心配もない」
充満した眠り薬でみな眠っているらしい。私も狂剣も布で口元を覆い眠気覚ましを服用しているから効果はない。
これで、商家は滅ぶのだ。
大刀を取り出し、鈍い輝きをじっと見つめる。血が騒ぐ。狂える血が血を求める。ああ、いつか私もきっと父のようになってしまうのだろう。
「じゃあ、始めようか」
「……ああ」
屋敷を歩き回ると、私兵が高鼾で眠っている。一人一人に刃を振り下ろす。あとで生きていても面倒だ。仕損じないよう首だけを狙って刃を振り下ろし続けた。全く面倒な作業この上ない。
あらかた片付いただろうか。庭に戻ってみると、狂剣は既に庭で至極つまらなさそうに剣の手入れをしていた。足音に気付いたのか、こちらを振り返る。
「……終わったのか」
「そっちは?」
狂剣があごをしゃくってみせた先には、鬱憤を晴らすかのように切り刻まれた斬殺体があちこちに転がっている。複数人の仕業だと思われた方が確かに都合はいいがこれはちょっとやりすぎではなかろうか。
「つまらないな」
「暗殺なんてそんなものさ」
狂剣は立ち上がってすたすたと歩き出す。
「狂剣。どこへ行くつもりだ」
「仕事はまだ終わっていない」
「これで全員だと思うけど」
私の言葉ににやりと笑った狂剣が不気味で、思わず普段使っている仕込み剣に手を伸ばす。狂剣が剣を抜き、私の喉元に突きつけた。
「……まだ一人、商家の人間は残っているだろう?お前の大切な息子が」
「っ……!」
冷や汗が背筋を流れる。この男、一体どこでそれを知ったのか。さも愉しげに狂剣は饒舌に言う。
「くくっ、お前の息子を目の前で斬って、激昂したお前とやりあってみたいものだ」
「貴様……!」
「やるか?退屈していたんだ」
流石にここまで侮辱されてはいそうですかで済ませられるほど私は温厚な人間ではない。剣を抜き、にらみ合う。じっと伺うが付け入る隙が全くと言っていいほど無い。
「来ないのならこちらから仕掛けるまでだ」
砂利を踏みしめる。狂剣が突進してくる。咄嗟に跳躍し屋敷の壁に張り付いた。
「流石に身軽だな、王の牙よ。くくっ、そうでなければ殺り甲斐がない」
「……正面からの戦いに長けているわけではないんだ」
「だろうな。鬼ごっこでもしてみるか?俺がお前の息子を斬るまでに、お前が」
いくつか暗器を投擲する。狙いは悪くなかったが、全て冷静に叩き落とされた。
「王の牙、お前は俺に勝てない」
「かも、しれないね」
「くくっ、今日のところはこのくらいにしておくか。商家はほぼ全滅。とりあえずそれでいい。だが、」
狂剣は剣を納め至極楽しそうにまだ警戒を解いていない私を見て言う。
「いつか仕事は完遂する。くくっ、楽しみだ」
これが狂剣たる所以なのだろう。確かに、剣を愛し殺人を愛する狂人だ。私が音もなく地面に降り立つと狂剣はひゅうと軽く口笛を吹いた。剣を担ぎくるりと私を振り返るその目は人ならざる薄暗いものを感じさせる。
「そんなに不安か?俺が、お前の息子のもとに行くかもしれないということが」
「……ああ」
「はっはははっ!お前も人の子なんだなぁ、王の牙よ」
哄笑する狂剣を静かに睨むことしか、今の私にはできなかった。
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