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啼華にしおりをはさみました!
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啼華
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仲影が探してきてくれた黄老師という人は、なぜか私を見るなり是非教えたいと言ってくださった。元々はごろつき達のけがをよく見る闇医者らしいが、その腕は確か……なのだという。
黄老師は最初の印象で随分損をしているように思える。医者とは思えないなんというか、ぼさぼさの黒髪を後ろで雑にまとめただけ、髭も整えていない無精髭。神経質そうな茶色の瞳。よれよれの着衣。正直、その辺のごろつきと言われても文句が言えないようないでたちをしている。口調は神経質そうな瞳に反して無神経で荒い。
けれど、何よりも患者の事を考えているようだし、医術は仁術だという医者としての理念も失ってはいない。よほど貴族付きの医者のほうが、金に目がくらむし、名誉を重んじ人の命を軽んじているのではなかろうか。
「で、何か質問はねえのか?嬢ちゃん」
「ありますけど、ですから、私は……」
「そのなりじゃ女にしか見えねえってんだ。女で医術が学びたいなんて殊勝な子がいるかと思ったら……畜生、騙された」
「勝手に黄老師が勘違いしたんじゃないですか……!」
「あの蕭長義の絵で描かれた美人だろ?騙されるに決まってる」
そう言う黄老師は懐に手を入れると、一枚の絵を取り出した。間違いない、長義殿の絵の複製だ。目の前で見ながら、私が男だと気付きながら描いたのになぜか美人画になっていたあれである。
「まあそれ以上に、お前が白子だってことに興味があったんだがな」
「……そんなことだろうと思いました」
黄老師は相当な医術馬鹿だ。どうも白子を診たことがなかったらしく、教えるついでにいろいろ私の身体を診てもらっている。珍しいことが多いらしく、私を診るときにつけているらしい記録は既に一冊目の半分が埋まっている。
私の身体に鍼をうちながら、黄老師はぼやいた。
「……面白くねぇなぁ、しかし」
「何がですか?」
「嬢ちゃんは、医術を極めるためにこうやって教わってるわけじゃねぇんだろう?」
「……何が言いたいんです?」
「教えても、俺のやってることの真逆のことしかしねぇつもりだ。そのつもりであの男は俺を嬢ちゃんにつけたんだろ?」
ばれていた、らしい。確かに、私が医術を学んでいるのは医者になるためではない。むしろ、人の命を奪うためだ。仲影の隣にいて、仲影と自分自身を守るためには、こういった技術が絶対に必要になる。
「嬢ちゃんならいい医者になれるのによぉ、勿体ねぇ」
「黄老師みたいに、沢山の人を救いたいとは思えないのですから……私が救いたいのはただ一人だけ、です」
「……確かに、その心意気じゃあ医者失格だな。俺を雇ったあの男か?」
「好い男でしょう?」
「けっ、御馳走様」
惚気たら思い切り舌打ちされてしまった。苦虫をかみつぶしたような表情で私に鍼を打ち続けた黄老師はおもむろに鍼を抜き、熱湯に浸けた。
「うし、終わりだ。目の疲れに効くところにもうっといたから、これでだいぶ楽になるはずだが」
「ありがとうございます」
「じゃあ、今日はここまでだな。また次は五日後だったか。それまでに出した課題やっとけよ?」
「はい」
荷物をすべて嚢に詰め込み、黄老師は部屋を出ていった。課題はさして難しいものでも、量の多いものでもないからのんびりこなしてしまえばいい。
ひとつ大きく伸びをして、庭を眺める。どこからだろうか、鳥のさえずりが耳をくすぐった。
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