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百計にしおりをはさみました!
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百計
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この男は、ただ魔王と恐れられるだけではない。話してみてそれを確信した。
本人に自覚はないかもしれないが、一度認めれば深い情をそそぐ人間であるらしい。認められた俺は厚遇を約束されているらしいが、この男をここまで焦がれさせるほどに彼の愛妾は魅力的なのだろうか。
「つまり、俺たちは壮大な兄弟喧嘩に巻き込まれたわけか」
「……そう、なるかもしれないね」
目を伏せて溜息をつく仲影殿は随分落ち込んでいた。少し、言い過ぎただろうか。だが間違ったことは言っていないはずだ。聞けば仲影殿も昔賊をけしかけ、兄君を始末しようとしたらしい。もしかして、その復讐なのだろうか。
「それで、どうすればいい?」
「今情報を集めているから、それ次第だ。……伯岐は魅力的だから、殺されるようなことはないと思うが……なにか、されるかどうかがとても心配だ……兄上は、成人したばかりの私を凌辱したような人だから」
「……えっ?」
仲影殿の青い顔はそのせいか。植えつけられた恐怖心がずっと影を落としているらしい。一体、どういったものなのだろうか。男に……抱かれる恐怖心というのは。俺には同性同士のことにはさっぱり知識も興味もないからよくわからないし、考えたくもないが。
「そんなに、魅力的なのか?その、あなたの愛妾は……」
「ああ。儚い少年だと思っていたのに、最近はとても強くなって……どんどん美しさを増していく。まるで神が創りだした芸術品のように美しいんだ。心も、容姿も……」
うっとりと語る仲影殿は確かに少年といった。愛妾だというからてっきり女性だと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。
「言っておくが、どちらでも愛せるとは思うけど男に惚れたのはこれが初めてだよ。……あの子は本当に魅力的でね」
両性愛者というのは否定しないらしい。こちらをじっと見る仲影殿に寒気を覚える。まさかとは思うが俺にまで食指を伸ばそうというのだろうか。
仲影殿は意味ありげに笑っている。
「旦那様、黄医師が」
「……ここにお連れしなさい」
使用人が来客を告げ、仲影殿は途端に冷徹な魔王の顔に戻る。流石だ。すぐに連れてこられた男は……これは本当に医者なのだろうか。着衣はよれよれ、髪もぼさぼさ、全く権威とか威厳といったものを感じられない。
「おいそこのあんちゃん、すごく失礼なことを考えてただろう」
しかし、何故ばれたのだろうか。
それを口に出そうとしたのだが、それよりも早く仲影殿が口を開いた。
「わざわざ出向いてもらってすまない。私が言った男に似ている男を診たことがあるらしいね」
「ああ、そうだが」
「その男は、何と名乗っていた?」
「医者には患者の秘密を守る義務があるのはあんたもわかってるだろ?」
「……その男の指図で、大切な教え子が攫われたと知ってもそんなことが言えるのかな?」
「嬢ちゃんが?」
仲影殿は静かに首を縦に振る。黄医師はひどく慌てた様子だった。教え子……ということは、仲影殿の愛妾はこの医師について医学を学んでいたのだろうか。
「……あの男はただ、百龍と名乗っていた」
「ありがとう。それがわかるだけでも助かる。……しばらくはここを出ないほうがいいかもしれない。もう巻き込まれているから」
「だろうなぁ、ったく……。嬢ちゃん、無事だといいな」
静かに頷く仲影殿は鋭い目を宙にさまよわせて何か思案しているようだった。この人は一体どんなことを考えているのだろうか。官吏でありながら裏の汚い事にも手を染められるだけの狡猾さと頭の良さを持ち合わせているはずだ。
沈黙がその場を支配する。仲影殿は、いったいどう動くつもりなのだろうか。
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