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解悶にしおりをはさみました!
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解悶
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しばらくぶりに溜まった仕事を片付けるために、不本意だが風邪気味の伯岐を邸に残し私は馬車に揺られて宮城へ向かっていた。隣にはさも当たり前のように季丹殿が座っている。いつものこととはいえなぜこう話したいときに私のところに来るのか。
「血雲殿はどうしているのかね?」
「元気にしているよ。……ただ、」
「呪詛、だろう?悪い気が貴公の邸のほうに流れていくのを見た」
もう慣れたが、やはり季丹殿はすべて分かっているらしい。私の方をじっと見つめる。だが季丹殿の顔にはそれほど深刻そうな色はない。あまり強い呪詛ではない、ということだろうか。王の呪術師からすれば、大概の呪術師の呪詛などただのおふざけのようなものなのかもしれない。
「血雲殿は、視力が落ちているのではないかね?」
「……その通りだ。できれば無効にするのではなく、倍にして跳ね返してもらいたいんだが、頼んでもいいかな」
「呪詛は失敗すれば跳ね返るものだよ、仲影殿。……いいだろう。今回は報酬をもらうが、いいかね?」
失敗すれば跳ね返る、つまりは季丹殿にもそれなりに危険が及ぶ可能性もあるということだろう。それゆえの報酬の要求、ということに違いない。大概のものは容易に用意できる。私は頷いた。
「で、報酬は何がいいのかな」
「血雲殿の詩をひとつ、血雲殿自身に吟じてもらいたいな」
「な……!?」
「だって、貴公はこの間わざわざ講談師を呼んでまでそれを阻止したじゃないか」
確かにそうだ。だが、そんなことでもいいのかと思う反面、伯岐の詩を私以外に聞かせたくはないという独占欲が邪魔をする。私の葛藤を読んだのか、季丹殿はくすくすとさも楽しそうに笑う。全く、憎たらしいったらありゃしない。
馬車が止まり、御者が到着を告げる。季丹殿はそそくさと降り、片目を瞑ってみせた。……本当に腹が立つ。
「……そうだ、そう遠くないうちに貴公の邸に来訪者があるかもしれないな」
「来訪者?」
「ああ。心配しなくとも、貴公らに敵意があるわけではない。……それと、今から貴公はお小言を食らうだろう」
それだけ言って、季丹殿はすたすたと戸部のほうへ歩いていってしまった。そろそろ私も行かなければ、そう思って馬車を降りた。そのまま仕事場に向かって歩く道すがら、一番出会いたくない人がどうしても通らなければならない道で仁王立ちしていた。
冷や汗が背筋を伝っていく。ああ、お小言とはこういうことか……。
「仲影殿、いくらなんでも、最近休みすぎではないかな?」
「周、長官……」
「さて、では今まで出仕しなかった理由を一つ一つ聞いて行こうか……」
これは季丹殿に感謝したほうがいいのか、恨んだ方がいいのか。覚悟ができていたとも言えるし、知りたくなかったともいえる。周長官の満面の笑みの前に、私は乾いた笑いを零しひとつひとつ事細かに白状することしかできなかった。
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