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光明にしおりをはさみました!
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光明
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伯岐が寝付いてから、そっと抜け出す。季丹殿は真剣に簡易の祭壇に向かって何やら唱えていた。
こうして見ていると、やはり季丹殿は王の呪術師なのだと改めて思う。普段はあまりにも気さくですこし人より未来が見えすぎるくらいなのと、人の神経を逆なでするところが多すぎて、いつもいらつかされてばかりではあるのだが。
「どうだい、首尾は」
「……向こうが気付いたらしい。まあ、この程度ならびくともせんよ」
伯岐は苦しむ様子もなくすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。目の奥が楽になったらしい。
周りと伯岐の様子を見る季丹殿の横顔はとても頼もしく見える。この後に伯岐の詩を披露しなければいけないのが若干不服ではある。どの詩がいいだろうか。伯岐の詩は最近は少し今までの伯岐らしくないもっと血の通ったものが増えてきたのだ。それはまだ聞かせたくない。最初の頃の詩の中で、伯岐が気に入っているものにするように提案するとしようか。
「しかし、中立を保っているはずの季丹殿が、どうしてこうも私たちによくしてくれるのかな」
些細な、しかし大きな疑問だった。季丹殿は必ず、宮城の中では中立を保っている。おそらく兄との一件についてもそうだったはず。だが、助言をくれた。普段の季丹殿はそういうことはあまりしないはずだ。沈黙を保って、若干私たちに寄る側にいた気がする。それは一体、なぜだろうか。
「なんでだろうね。小生も不思議に思っているんだ。……きっと、君たちは傍にいるべきなのだろうね」
苦笑する季丹殿は嘘を言っているようには見えなかった。そばにいるべき……その言葉は暖かく私に自信を与えてくれた。伯岐とともに、これからを生きていく。私は伯岐の横で、伯岐は私の傍らで、ともに生きていける。
「ただ……悪しき星が見えた。誰の事かはわからんが、いずれまた貴公らは危機に見舞われるであろう……心するといい。今度は兄君のようにはいかんだろう」
「悪しき星……?」
「ああ。禍々しい星だ。小生もあのような星は見たことがない」
そう告げる季丹殿の顔はらしくなく少々怯えているように見えた。季丹殿を怯えさせる星とはいったいどのようなものなのだろうか。気がかりなのは、やはりあの黒髪隻眼の男と……
「商伯修……か」
声に出して呟いてみる。あの壊れた様子が頭によぎった。伯岐を抱いたのは……兄ではなく伯修殿だったら?だから、伯修殿の箍が外れてしまい、ああなってしまったとしたら?全ては憶測にすぎないが、あるかもしれない可能性として胸に留め置く必要はあるだろう。
ふと窓の外を見れば、朝日が昇り始めていた。橙が外の濃紺の空を染め上げていく。季丹殿はふうと息を吐く。
「夜が明けたな。もう呪詛は失敗し、跳ね返ったとみていい。念のため符を置いていくから、しばらくは伯岐殿に符水を服用させること。邪気を外に追い出す必要があるからな。いいかね、仲影殿。……あと約束のほうを、忘れぬように頼むぞ?」
にんまりと笑って見せた季丹殿は手をひらひらと振りながら部屋を出ていった。送らせると言ったのだが固辞して歩いて帰って行ったらしい。そんなことより伯岐の詩を、と言いたいのだろう。全く、困った男だ。
伯岐の寝顔を見つめる。すやすやと気持ちよさそうで、起こすのが何だか忍びない。起きるまで、しばらく寝顔を堪能していよう。
そっと寝台に腰掛け、伯岐の寝顔をじっと見つめる。その穏やかな顔に、思わず笑みが零れた。
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