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貪欲にしおりをはさみました!
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貪欲
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「王宮医官の試験……ですか」
「ああ。鍼から薬学の知識まで、幅広い知識が問われる。……別に医官になれと言っているんじゃない。力試しだよ。君が主席で合格できた時に、君に約束した名前をあげよう」
名前。いつか約束した、隣に立つに相応しいと仲影が認めてくれた時にくれると言っていた名前。つまり、医官としての知識を身に着けた時、それは私が仲影を支えるに相応しい男になるときだ。この背中の翼にふさわしい男に、なってみせる。
「君の身体では宮仕えには耐えられないだろう。それを理由に辞退すればいい。どうだい?やってみないかい?」
「……やります」
即答した。こんな機会、きっと次にめぐってくるのはもっと遅い。そうなれば……私の目はいつまで見えているか、わかったものではないのだ。焦ってはいけない。わかってはいるが、私には時間に猶予がない。だからこそ、今やらなければいけないのだ。
「ふふ、いい子だ。君ならきっとできるよ」
こくりと頷くと、仲影は優しく頭を撫でて欲しい言葉をくれた。どうしてこんなにこの人は私の欲しいことがわかるのだろう。使用人が粥を持ってきたことを告げる。入るように仲影が指示し、粥とともに薬剤の入った包みもある。あれが五苓散だろう。一緒に水を持ってきている。使用人は一礼して下がる。そうでないと仲影の機嫌を損ねてしまうのだ。
二人でうすい夜着を羽織り、机につく。湯気を立てる粥を前にしているが……
「先に飲まないと……」
「そうだね、食前に飲むものだ」
仲影は頷いてにこりと笑っている。五苓散は食前の薬だ。一包手に取って、ざらざらしたそれを口に流し込む。正直美味しいものではないがそれが薬というものだろう。水を何口かに分けて飲み、その微妙な味を洗い流す。これのせいで粥が美味しく食べられないのは御免だ。
飲み終わると、漸く粥に手を付ける。今日は私が深酒してしまったせいもあり、梅が入っているらしい。匙で掬い、ふうふうと息を吹きかけ冷ます。どちらかというと私は熱いものが苦手なのだ。よく舌に火傷をしてしまっては仲影に笑われている。口に運ぶと爽やかな酸味ととろりとした優しい粥が舌に広がる。
「美味しいかい?」
「はい、とても」
本当にこの粥は誰が作っているのだろう。いつも同じ粥に、いろいろなものを加えたりすることで飽きないようにと工夫をされている。私がここに来るまでの間、普段食べていた粥はどれも似たり寄ったりで、とくに美味しいとも思わなかった。いや、昔は思う余裕もなかったのかもしれない。
「この粥は、どなたが作っているのですか?」
「ああ、これかい?料理に秀でた食客がいてね、朝の粥だけは彼につくらせているんだ」
そう問いかけた私に嬉しそうに目を細めて仲影は言う。
「よく気付いたね、君はあまり頓着していないようだったから。食というのはとても大事だよ。食薬同源という言葉もある」
まだ、私が学ばなければならないことはたくさんあるようだ。それを、また仲影から教えられた。だからまた、我儘を言おう。私はとことん仲影にふさわしい男になりたいのだ。
「仲影」
「なんだい?」
「その方に、料理を習いたいです」
仲影の驚く顔が嬉しくて、私は笑顔を向けた。
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