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母さんにしおりをはさみました!
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母さん
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『ただいまー』
病室の区切られたカーテンを引くと、痩せ細った女性が横たわっていた。
女性は上半身を起こして、ランドセルを背負った自分の子供を見る。
『あら、おかえりなさい。
…晴、ここは家じゃないのに、ただいまを言うのね』
『うん。あんな家、家じゃない。
母さんのいるところなら、病院だってどこだって、家みたいなもんだけど』
少年はランドセルを置いて、横に置いてある椅子に腰かけた。
『ふふっ、ありがとう。
まだ、家には帰ってないの?』
『うん、学校から直接来たよ。
あーあ、帰りたくないなあ』
『…泊まれるかどうか、お医者様に相談してみるわ』
『いいの!?やったあ!!!』
『私も、晴と一緒にいたいもの』
『ありがとう!
でもさ、家には帰りたくないけど、すぐ治るよね?
そしたら、その後どうしよっか…
病み上がりの母さんを、あんな家に戻らせるわけにはいかないし…』
女性は、悲しげに、儚げに、笑う。
『…そうね、すぐ治るわ。
その後はなるようになるわよ!
ねぇ、晴?
いつもみたいにしてくれる?』
『いいよ』
少年は、両手で女性の手を包む。
また細くなったような気がして、でもそれに気づかないフリをした。
『晴の手は、いつもあったかいわね。
こうしていると、すぐに治っちゃうような気がするの』
『ふーん…。』
軽く持ち上げた女性の腕。
その袖の影から、青紫色のアザがチラリと見えた。
女性はいつも、少年を父親からかばってはアザをつくる。
そしてその度に衰弱を重ねた結果病を患ったのだと、少年も気付いていた。
この間も、手続きやら何やらで父親が病院に来た時、もの凄い剣幕で女性を罵り、看護師が来るまで手を上げ続けたのだった。
少年も女性も、体中アザだらけ、かさぶただらけだ。
『…晴、愛しているわ』
そう言うと、女性は少年の額にキスを落とす。
『…母さん、いつもそれやるよね。
俺、もう小5だよ?
…さすがに、恥ずかしいんだけど』
『ふふふっ、いいじゃない。
キスっていうのはね、本当に愛してる人にしかできないし、してはいけないものなのよ。
逆に言うと、キスは「愛してる」の証なの。
特に、口と口でのキスは、自分が結ばれたいと思った、本当に特別な人としかしちゃいけない。』
『へぇ…』
少年は呟いて、女性の手を引き寄せキスをした。
『…母さん、早く治してよね。
待ってるからさ』
『…そうね、早く治さなきゃね。
晴がいてくれれば百人力よ!』
その一週間後、女性は息を引き取った。
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