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一語一重
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「おまえさまに、是非とも逢いたい。逢って御礼が言いたいというおひとがいるらしい。」
「御礼?」
こんな商売だ。
恨みなら、それこそ死ぬほど買った覚えはあるが、礼を言われるような覚えはとんとない。
この顔と体が、商売用になってもう随分になるし。
この口から出るのは、心にもない偽りか、蓮っ葉な軽口だけになってしまった。
こんなおれに、御礼だって?
「一体どこの御大尽だい?」
「それがさ…。逢うまで秘密だとよ。」
遣り手はヒッソリ微笑んだ。
「なんだい、薄気味が悪い話だね。断っとくれ。」
「いやさ、話を持ってきたのが、あの山崎屋さんだからね。そうもいかないのさ。」
―山崎屋だって?
「押しも押されぬ大店じゃないか。だったら、行くよ。逢ってやろうじゃないか。」
「なら、今夜はコレを着てっとくれ。」
渡された着物は、繊細な水輪の模様が織り込まれた、透けるような淡い萌黄の布地だった。
「へえ…随分、軽いね。」
「それに、えらく肌触りが良いだろう?」
「本当だ。こんな布には今までお目にかかったことがないよ。」
俺はその着物を広げてみながら、頭の中で忙しく、あれでもない、これでもないと、合わせる物について考え始めていた。
「なんだい、初めて浴衣を縫って貰った子供じゃあるまいし。サッサと行って、着替えておいで。」
「分かったよ。」
ワザとのっそり大儀そうに立ち上がったが
おれの心は、遣り手が言うように、ひどくはしゃいでいた。
―本当に
いつぶりだろうか?
こんなに装うことが楽しいと感じたのは。
浮き立つような気分で、おれはいそいそと箪笥の中から何本か帯を取り出した。
―コレだ。
絶対にコレしかない!
最近、踊りの師匠から貰った黒い帯を見て、おれは頷いた。
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