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賢者様の領域にしおりをはさみました!
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賢者様の領域
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アンバーに引き摺られること数分、辿り着いたのは図書館だった。
賢者達の研究室を設けるのと、膨大な量の書物を管理するために、城の敷地内に専用の建物を造ったそうだ。兵舎より大きい。
ユタカはその中の読書、勉強用のスペースにいた。隣りには、ユタカの弟。
「ユタさーん、ユウさーん。はかどってますかー」
「何しにきたの。兄さんと僕の邪魔しないで」
「優人」
入口付近で置き去りにされ、仕方なく自分の足でアンバーの後を追うとユタカの声が、あの弟の名前を紡ぐ。
それが何故だか、嫌な響きに聞こえてならなかった。
「ぁ、カティアスくん…今日のお仕事は…」
「兄上がもう上がって良いと」
「言ってませんよね-。ウザいんで追い出されたんですよー」
アンバー、余計なことを言うんじゃない。
ああ、ユタカの弟の人を馬鹿にしきったあの目……ユタカ、見てみろ。お前の弟は、全然可愛くないぞ。俺の方が、遙かに可愛い!
というか、何なんだユタカと弟の距離感は。何故そんなに近付く必要があるんだ。教えるだけなら、わざわざ隣りに張り付くことないだろう。羨ましい。
俺なんてここ数日、ユタカの顔をまともに見られていないのに。
「それは、あんたの心の問題でしょーよ。まぁ、そんなわけでユタさん、うちの王子をお願いしますね-。ほぉら、ユウさんは俺と一緒にお散歩しましょーねー」
「は?やだよ。僕は兄さんと一緒にって、ちょっと、お、降ろしてよ。兄さん、兄さーんっ」
「図書館では静かにしましょーねー。騒いだユウさんは退場ー」
「やだやだ、にいさぁぁぁんっ」
アンバー………、よくやった。
ユタカにべったりだった弟を、アンバーが引きはがし担ぎ上げて外に出て行った。たまには良い仕事をするじゃないか。
「優人がすみません…」
「いや、気にするな。俺にも兄がいるからわかる」
「カティアスくん…」
嘘だ。全くわからん。頼むからそんな目で見ないでくれ。
正直、兄上にベタベタするなど、考えただけで食欲が失せる。なのにユタカ弟の、あの執着はどうだ。異常ではないか。
朝から晩までベタベタベタベタと…。
「あの、カティアスくん…」
「む?なんだ」
行き過ぎた兄弟愛にユタカ弟を嫌悪していると、椅子に座ったユタカが不安そうに見上げてくる。俺は立ったままだから、いつもより上目遣いになっていて可愛い。
ユタカはこんなに可愛いのに、何故あの弟はあんなに腹立たしいんだ。
「悩みでも…あるんですか?最近、よく溜め息吐いてますよね」
「ん、それはお前が…」
「俺?俺…何かしましたか?」
いや、逆だ。して欲しいところに口付けてくれなかった。と言ったら、ユタカを困らせてしまうのだろう。
今にも泣きそうな顔で見上げてくるユタカに、胸の辺りがキュッとなった。
ユタカにこんな顔をさせてはいけない。笑っていて欲しい。
「……弟ばかり構うから」
「え?あ…ふふ、甘えたかったんですね」
「む?いや、……まぁ、そうだ」
ユタカが笑ってくれるならそれでも良いだろう。
実際、あの弟ばかりに時間を取られているわけだし。これで弟との時間が減れば、万々歳だ。
もっと言ってしまうと、アンバーが散歩ついでに奴を遠くに捨ててきてくれれば、最高に幸せな日々が送れる気がするのだが。
ユタカの柔らかい頬笑みを見つめていると、そっと手を握られる。優しく細められた瞳が、この甘えん坊さんハート、と言っていた。
「ユタカ…その、すまない」
「いいえ、俺こそすみません」
見つめ合いながら二人して笑う、このなんとも幸せなひととき。
幸せがまやかしなんて、誰が言ったんだ。愚か者め。
ユタカが笑っていれば、世界は平和なのだ。
「申し訳ないがお二方、イチャつくならよそでやってくれないか」
ユタカとの見つめ合いを邪魔する、可愛げのないこの声は。
ユタカから視線を外し横を見ると、いつの間にか無表情の少女がいた。顔だけは可愛いのだがな。将来はとても有望だというのに…その喋り方が全てを台無しにしている。
「ナティ、邪魔するんじゃない」
「むしろ王子が邪魔だ。ここは知識を深める為の場所、イチャつくところじゃない」
「イチャついてなどいない」
「無自覚か。厄介なことだ」
溜息を吐くナティをユタカが気にしてしまっている。眉が下がっているぞ、ユタカ。そんなお前も可愛い。
ユタカの困った顔を堪能するのも良いが、これ以上邪魔はされたくない。
仕方ない、部屋に戻るとしよう。また膝枕でもして貰おうか。
それともユタカを抱き締めて昼寝でもしようか。
ユタカと過ごす時間を考えると、胸が高鳴る。
「ユタカ、部屋に帰ろう」
「あ、はい。あの…賢者様、すみませんでした」
「ん?あぁ、気にするな。お前が悪いんじゃない」
む?なんだ。こっちを見るな、ナティ。俺は何も悪いことはしていない。
ナティのなんとも言えない視線に、とても居心地が悪くなる。憐れむような、汚い物を見るような……なんとも言えない視線。
その視線を避けるように、ユタカの勉強道具を掻き集め片手に持つと、空いている手でユタカの手を握り図書館を出た。
「カティアスくん、自分で持ちます」
「いい。ユタカが持ったら、手が握れないだろう」
両手で抱えているのを、何度も見ているぞとユタカを見ると、顔を真っ赤にしてこちらを見上げていた。
目が合うと直ぐに俯いてしまったが。
勉強のし過ぎて熱でも出したか。それなら今日は、風呂も食事も面倒見てやらねばな。
ユタカの体調が悪いときならば、アンバーに止められることもないだろう。
ユタカと風呂に、ユタカにあーん。
ふふふ、今日は本当に良い日だ。
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