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気掛かりなこと
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ユタカがこの城に来て、一月半が経つ。あっという間だった。
随分と言葉を覚え、こちらの生活も慣れてきた様で、侍女や使用人達の手伝いをしたがるユタカ。始めはそんなことする必要ないと言ったのだが、困った顔で見つめてくるので好きにさせることにした。あんな小動物の様な瞳で見つめられたら、否とは言えない。
共に過ごす時間が減ったのは淋しいが、夜その日の出来事を楽しそうに語るユタカを見ていると心が安らぐ。
馬の世話を初めてしたとき、街に食料の買い出しについて行ったとき、洗濯の手伝いをしたとき。何でも、楽しそうに語る。
そして今日は、近くの竜の生息地に行ってきた話。
「アンバーさんの言うとおりでした」
「あぁ、確かに竜族の殆どは大人しい。だが、全てではない。見掛けても無闇に近寄るなよ」
「そう、なんですか…。気を付けます」
ちょっと残念そうにしながらも、素直に頷くユタカが可愛くて仕方がない。
ベッドに潜り込んで竜が描かれた本を開くユタカは、竜が相当お気に召した様だ。こちらでは珍しい生き物ではないが、ユタカ達の世界には存在しないらしい。
そんなに気に入ったのならば、今度竜の里に連れて行ってやろう。長旅になってしまうが、そこなら竜と触れ合えるという話だ。大人しくても警戒心の強い生き物だから、その辺の竜に触ることは不可能。しかし竜の里には、竜族と唯一心を通わせられ、共に暮らす民族がいる。彼らと共に生きる竜は、比較的人に慣れているらしい。
竜に触れたら、ユタカは喜んでくれるだろうか。
今度はアンバーなんかに任せず、俺がユタカと思い出を作るんだ。
行くなら暖かい季節だなと考えながらユタカを見ると、ペラリとページを捲るユタカの目蓋が今にも閉じようとしていた。今日は少し遠出だったから、疲れたのだろう。
「もう眠れ。今日は、疲れただろう」
ハッとして目を擦るユタカから、本を取り上げる。
ベッドで毛布に包まっているから、眠いならいつでも眠れる状態なのに、そうしない。
「…ぁ…えっと、カティアスくんは最近忙しそうですね」
やはり眠ろうとせず、恐怖に耐えるように笑う顔が、とても痛々しい。
何故眠りたくないのか。
ここ一週間と少しの間に、夜中うなされ悲鳴を上げて飛び起きるようになったユタカ。その度に一緒に目覚める俺に、ユタカは何度も謝った。
そんなこと、気にすることない。それよりも冷や汗を掻き、震えるお前の方が心配だ。
そう言うと、何故かとても悲しそうな顔をされた。
「…もう直ぐ、新年の祭りがあるからな。衣装や装飾の準備、進行の打ち合わせがあるんだ。盛大にやるから、楽しみにしていろ」
「お祭り…そっか、こちらの新年は春からなんですよね…」
ユタカが来たのが、秋の第三月も終わる頃、そして今は冬の第二月半ばだ。あと一月半で今年も終わる。
去年の今頃は、新年の祭りの準備と言えば、踊り子の衣装を決めたり、宴席の花達の練習に付き合ったり、…兄上とアンバーに怒られたな。
だが今年は怒られるどころか、父上が褒めて下さった。
「一瞬誰だかわからなかったぞ、息子よ。珍しくやる気に満ちているじゃないか。その調子で、当日も祭りを盛り上げてくれよ」
ハッハッハッと笑って去って行く父上の後を、兄上が何やら殺気立てて追い掛けていっていたな。
きっとスピーチの練習を忘れていたのだろう。父上は、ちょっと抜けているから。
昼間の様子を思い出して、ユタカに話して聞かせてやると楽しそうに微笑んだ。
「仲が良いんですね」
「あぁ。お前の弟の様に、ベタベタはしないがな」
「あー…優人は、まだ子どもなので」
子ども、だと?確か、ユタカの弟は、兄上と同い年だったはずだ。
25は成人ではないのか。ならば、俺は?二十歳の俺は、まだまだ子どもなのか。だから、額にキスだったのか。
ショックだ…。いったい何歳から、大人の男として見て貰えるのだろう。
「新年祭は…毎年盛大だって……聞きました」
「新しい年を迎えられたことを祝い、その年の豊作を祈る祭りでもあるからな。特に今度のは、一段と賑わうこと間違いない」
うつらうつらとするユタカに毛布を掛け直してやり、頬に掛かる髪を払う。
眠いのなら、眠ってしまえ。
俺が傍にいてやるから。
「…カティ……く、ん……お、れ……」
「おやすみ、ユタカ」
すぅっと寝入ったユタカを抱き寄せて、額に口付ける。
頼りなさ過ぎて、年上と言うことを忘れそうになるが、ユタカにとっても俺は子どもなのだろう。
自分でも不思議で仕方ないのだが、ユタカには一人の男として見て欲しい。それは大人と認めて貰いたい、とかそう言う理由ではない気がする。
いったい何なのだろう、この気持ちは。
ユタカの寝顔を見つめていると、
胸が苦しくなる…。
病気だろうか……。
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