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feint(陽動)にしおりをはさみました!
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feint(陽動)
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八熊の提案は、涼葉組自ら久留和製薬に商談を持ちかけるということだった。
もしアンデゼールが予想通りに動いているならば、いくつもの連合組合を束ねる涼葉組が彼らに手を貸す事でマフィアの親会社に莫大な利益が入る事を避けたいはずだ。
「あいつらの行動は言うなれば俺たちへの警告だ。今のところ、久留和に手を出さない限り損害を与えてこねェ。
だが、わざと商談を持ちかければ『アンデゼールを誘うための罠』だと奴ら自身が察知するはずだ。そこで俺たちの挑戦状を取るか否かに賭ける。好戦的な集団なら会いたいと思えば来てくれると思うぜ」
しかし、オトリ作戦はリスクが大きい。
「それは、旦那が危険すぎる…」
「大丈夫とはいかねぇだろうが…俺たちも奴らに借りがある」
のんびり探せるほどの時間が無いのは確かだった。此方から出向いたところでナルに会えるとは限らない。この機会を逃すわけにはいかなかった。
某日八熊邸。18時。
作戦通りテレビ電話による会談が執り行われた。
窓のない一室に並べられた電子機器とモニターの前で八熊が回転椅子に鎮座している。部屋には護衛の側近が2名、そして唯一の出入り口である扉の向こうには運び屋達が待機しており、屋敷内の至る所には組員が配置されている。守りに徹底し圧倒的な動員数でそう簡単に内部まで攻められない要塞と化しているが、アンデゼールに対する情報不足は否めない。
「なあテル、もしお前だったらどこから狙う」
白島の問いにテルは暫く考えた後、自分達のいる長い廊下の先を見据えた。
「ここなら…正面突破だ」
「お前らしいな…」
屋敷の外が急に騒がしくなった。八熊のいる部屋からはまだ話し声が聞こえる。無線で仲間と連絡を取り合っていた近くの組員が白島らに耳打ちをした。
「敵が来たようです」
各々は武器を抜いて警戒する。陽動の可能性がある為、持ち場を離れる事は出来ない。アンデゼールか他の刺客か、敵が現れた事自体は不幸中の幸いなのだろうか。
その時、正面玄関から小さな爆発が上がる。
「構えろ!」
指示のもと組員達は煙に銃を向けるが人影は見当たらない。刹那、屋敷全体のブレーカーが落ちすぐさま非常電源に切り替わった。そのごく僅かな間に組員が呻きをあげて倒れていく。姿の無い何者かが、立ちはだかる人間を刃物で切り刻んでいくのだ。
(光学迷彩…!?)
微かな足音だけがテル達の方へ向かってくる。少年は鋭く目を細め敵のいる方を想定して発砲した。テルにつられるように周囲の組員も放つ。しかし命中した気配は無いようだ。
すると、天井から何かが落下した。コロコロと床を転がる物体が手榴弾だと認識した直後に其れは耳障りな高音と強烈な光を放った。光線を目の当たりにすれば暫くは起き上がることが出来ない。
閃光弾をくらった組員はバタバタと廊下に倒れていく。白島は少年の目を覆っていた手をどけると廊下の壁に向かって刀を叩きつけた。
「ナルがよく使う手だ」
壁を破壊して舞った砂埃が、敵が通過した勢いでふわりと歪んだ。
「待ちやがれ!!」
咄嗟に手を伸ばしたそこに透明な物体があった。相手に体当たりをして八熊のいる部屋へ扉を押し破り雪崩れ込む。
室内の主人は既に隠し扉から退避した後で、部屋には誰もいない。捕らえた敵の頭あたりを掴んでフードを奪う。光学迷彩が解け、現れたのは白島の知らない男だった。
「何者だ、お前ら」
「フッ…ッ俺たちはアンデゼール、正義のあ…ッ…」
男が言い終わる前にテルの放った銃弾が額を撃ち抜いた。釣り餌にかかったのは狙い通りの獲物だったらしい。
「奴は、鳴介は、本当にくるのか」
どこか焦りだしたような少年の口調に白島は静かに頷く。
「あいつは…俺と仕事で何度かここに来たことがある。だから襲撃すると決めたんだろ。アンデゼールの中で一番詳しい男が旦那の首を取りに来る」
突如、隣の部屋から銃声が響いた。
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