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Who is he?(あいつは誰だ?)にしおりをはさみました!
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Who is he?(あいつは誰だ?)
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「すみません…」
バーのマスターは眉尻を下げながらグラスにジンを注ぐのをやめ、トニックの入ったボトルを手に取る。ロンググラスに満たしジンと混ぜ合わせるとカットしたライムを縁へ飾りカウンターの上へ、苦情を言いにきた客へ捧げる。
しっかりと冷えたそれを受け取りライムをグラスの中に沈めた男は口をつけて喉を潤す。そして謝罪するバーテンダーに首を振り返した。
「いや、桜野さんが悪いってわけじゃないんだ…」
分かっていても愚痴の一つでも言いたかったのだ。一昨日の依頼はそこまで酷かった。
「マフィアの仲間にならないんだったら身体検査をさせろ、だとよ…」
「検査?ですか?」
「なんでもデータを貰うとかで…」
あの憎たらしいブロンドと厭らしい手つきを身体が思い出しゾッと肩が竦んだ。悟られないように咳払いをしてジントニックを一気飲みする。
仲介屋が不審そうな顔をするので、一昨日の夜に駐車場であったことをかいつまんで話してみた。
「で、触らせたんですか?」
「…………。」
「お人好しすぎますよ」
呆れた、と渋まる桜野に「脅されて仕方なかったんだよ!」とは言えなかった。代わりに白島はフン、と鼻を鳴らしカウンターの木目をぼんやりと眺める。
「…マフィアの仲間に、ですか」
どこか引っかかると言った様子で反芻する声に運び屋は「どうした?」と先を促す。
桜野はゆっくりとカウンターに肘をつき前屈みになると向かい側へ座る相手に顔を近づけ声量を落とした。念の為周囲に目配せするのも忘れないが、閉店後のため他に客は居ない。
「本来は依頼人の情報を一切明かさないのですが、あなたにだけ特別にお教えします」
仲介屋のこのような言動は珍しい。握っていたグラスから手を離し耳をそばだてる。
「以前のパーティでの依頼は確かに日本の製薬会社からイタリア系米国マフィア、ネーロ一家宛てのものです。今回の依頼で一家のスカウトマンがあなたを勧誘しに来たそうですが…」
「ああ。そいつはESPだったんだ」
「成る程…、ですが件の依頼人は個人名義でした。おかしいとは思いませんか?」
「…何?」
意図が分からない。聞き返すと桜野は一旦上体を起こし両腕を組んだ後再びカウンターに肘を乗せ体勢を変えた。
「ボスが直々にあなたを勧誘したかったのであれば、一家の名前を使うはずです。元々コーサノストラは血の繋がりと掟を重んじる組織ですので白島さんに一目惚れをしたからといって軽々しく仲介屋に頼み、間接的な交渉などしません。つまり」
つまり?
「スカウトマンが単独行動をしていると言う事です。何か事情があるのかもしれませんが、私には組織からの交渉とは到底思えないのです」
「って事は、アイツの個人的な興味で勧誘しに来た?もしくは断られるのを承知で実際は俺のデータ収集が目的か…?」
「その可能性が高いです。男が本当に一家の人間かどうかさえ疑わしい」
この推測は最もだと思う。自分はマフィアの事情に詳しくは無いが、あのブランクという男は最初からどうも胡散臭かった。態度から、香水を使う所から、全て。
舌打ちをして胸ポケットからセブンスターを取り出すとパッケージを破く。
「畜生、テルがいなければマジで連れ去られる所だった…」
「気をつけてくださいよ。頼みますから…」
「わかってる…」
神妙な面持ちで念を押す桜野を途中で遮り頷くと咥えた煙草に火をつけた。
「やはりあの場で殺しておくべきだった」
突如、割って入った第三者の声に二人はギョッとして頭を上げた。白島は誤って煙を大量に吸い込んでしまい軽くむせる。振り返ればいつの間にやら入店していた少年が影のように相方の座る椅子と背中合わせにして立っていた。
「お、お前いつの間に…」
「いらっしゃいませ?」
桜野も驚きを隠し来れない。飲み物を勧めるが、テルは首を振った。
彼は気配を消すのが本当にうまく、同じ部屋に住んでいても仕事以外ほとんど別行動なので普段はどこで何をしているのか白島には見当がつかない。
少年はかぶっていたフードを取り猫のような真っ黒い瞳を彼らへ向ける。意思のこもった目つきだ。
「あいつは、また会うと言っていた」
「ああ…」
次こそやれ、と遠回しに言っているようだ。まだ始末するには証拠が足りずに厄介な事になりかねない。それに掃除屋だって呼ばなくてはいけない。
そんな事よりも、あのスカウトマンの言葉を鵜呑みにしてしまった自分が恥ずかしいのだ。迂闊に触らせた事を後悔している。
あああ、と声をあげて髪を掻き毟ると憐れむような二つの視線が男に突き刺さった。
そんな白島に仲介屋は遠慮がちにベストの内ポケットから茶封筒を取り出して見せる。
「どうします?次の依頼、きてますけど…」
頭を抱えるのを止め、苦々しく煙草を灰皿へ押し付けると運び屋は躊躇いながらも封筒を受け取った。
「…やるよ…」
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