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2にしおりをはさみました!
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2
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運動部の寮に入ってれば当たり前なのかも知れないけど、お酒を飲む機会って言うのは割とある。ココだけの話、未成年でもそれなりにある。
だから、オレだってビールを飲んだのは初めてじゃない。
初めてじゃないんだ、けど……。
「あれ?」
気のせいか、酔いが回るのがいつもより早い?
くらっと上体が揺れて、ヤバいなって思う。
すきっ腹に飲んだからかな? それとも、この雰囲気のせい?
卒業以来、沖田と2人っきりで過ごすのなんて初めてだったから、何話していいのか分かんなくて。気詰まりなの隠そうとして、ついつい飲み過ぎちゃったかも?
「どうした?」
沖田が、コトンとテーブルに缶を置いた。
ぐいっと身を乗り出してくるのが、スローモーションみたいに見える。
「オレ……」
しっかり握ってたハズの缶が手の中から滑り落ち、ぱしゃんと床にしぶきを散らした。
え、と思った時にはもう、体が斜めになっていて。ドスンと床に倒れたのを、他人事のように感じてた。
痛みはなかった。
ただ、起き上がる気力が無い。
あれ、ヤバいな。こんなので花火に行けるかな? 空はもう、茜色に染まってるのに。
――今、何時だろう?
集合時間に間に合うかな?
ぼんやりとそう考えた時、ふいに沖田が上からオレを覗き込んだ。
ギョッとした。
だって沖田、笑ってる。倒れたオレを見下ろしながら、唇を歪めて笑ってる。
なんで? なんで? なんで笑うんだよ?
「なあ……」
ゆっくりと伸ばされた沖田の手が、そっとオレの頬に触れた。
「約束だったよな、教えてやるって」
くっくっく、と喉を鳴らして、沖田が自分のシャツを脱いだ。
「な、に……?」
何を言ってるんだろう? コイツ、なんで服脱いだんだろう? うまく回らない頭で、オレはぼんやりと考えた。
……何を教えるって約束だっけ?
沖田の顔をのろのろと見上げたら目が合った。
真っ黒な目が、熱っぽく真っ直ぐに、オレの顔を見つめてる。
その視線は――何だか、彼女と同じで。
「あ……」
オレはぽかんと口を開け、沖田の目をじっと見た。
分かった。
マネージャーのあの子を見て、沖田を思い出してた理由が分かった。
分かった時には遅かった。
「好きだ」
沖田が、低い声で言った。
くくく、と暗い顔で笑みを浮かべて。
「ずっと好きだった」
息を呑む間もなく、キスされる。柔らかな唇が、そっとぎゅっと押し当てられる。
抵抗できなかった。指先を曲げることも、なんでかゆっくりしかできない。
やめて、と言おうと開けた唇に、強引に舌をねじ込まれる。
「んっ……」
鼻から抜けた息とともに、情けない声が上がった。
オレが抵抗できないのをいいことに、沖田はオレの口の中を熱心に舐め、舌を絡め、好きなように味わってる。
そしてその最中に、オレのシャツの中に手を這わせてくる。
「なあ、知らなかっただろ、お前?」
ようやく唇を離して、沖田がまた低い声で言った。
オレの顔の両側に手をつき、逃げられないように覆いかぶさって。真っ黒な目が、責めるようにオレを見た。
「お前は、チームメイトとしてのオレにしか、興味なかったもんなぁ?」
くっくっと喉を鳴らして沖田が笑う。
笑ってるのに……泣いてるように見えるのはなんでだろう?
涙を浮かべてるのは、オレの方なのに。
沖田の笑みが痛い。
「ずっとこうしてーと思ってたんだぜ。ずっと、ずっと前からな」
知らなかっただろ、とまた訊かれて。でも、オレはもう、うなずく気力も持ってなかった。
なんで体が動かないのか分からない。
何かビールに入ってた?
コイツが入れたのか? いつの間に? 何が……したくて?
ゆっくりと服を脱がされる。
オレはやっぱり抵抗できなくて。人形のように転がされながら、あっという間に裸にされた。
夕陽が沈んでいく。
オレンジ色に染まってた部屋に、じわじわと闇が入り込む。
開け放したままの窓からは、涼しい風も吹きこまないのに。暑さも忘れて、鳥肌が立つ。
沖田の顔が、陰になって見えなくなった。くっくっと笑う声だけが、そのままで。
不安が胸に満ちていく。
どうなるんだろう?
オレは、どうなってしまうんだろう?
いつ――解放してくれるんだろう?
「諦めろ」
オレの心を見透かしたみたいに、沖田が言った。
「もう間に合わねーよ」
って。
「花火なんか、みすみす行かせる訳ねーだろ?」
ふふんと鼻で笑う沖田。
オレの脚を押し開き、笑いながらそこに顔をうずめる。
――と、オレのケータイが派手に鳴った。びっくりして、背中がびくんと跳ねる。
「あ……」
あの子からだ、と、とっさに悟った。でも、どうしようもなくて。
電話になんか出られなくて。
伸ばせなかった指先が、ぴくりと小さく曲がった。
「ごめん」
今日、言うつもりだった返事を、ぽつりと呟く。
沖田がそれを受けて、ふんと鼻を鳴らした。
「泣くなよ」
かすれた声で言われて、まぶたを閉じる。つうっと涙が頬を走った。
でも――やっぱり。
泣いてるのはキミの方だと思うんだ。
暑さを増した闇の中、ひゅーと上がった花火が散るのを、オレは揺らされながら聞いた。
(終)
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