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131.✩見れないにしおりをはさみました!
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131.✩見れない
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✩✩✩✩
胸が痛い。
心が痛い。
過去の存在に揺さぶられて、惑わされて、自分の中で今どの感情が強いのか分からなくなった。
ただただ意味もなく涙が溢れてくる。
『もう一人の自分』が何かを訴えようとして俺の心を掻き乱す。
「かえでさ……ふ、ううっ………」
「大丈夫、何が怖いのか、言ってごらん」
楓さんは困惑するわけでもなく呆れるわけでもなく、優しく俺の頭を撫でた。
俺は、何が怖いんだろう。
心の中で暴れている『自分』が怖いのか?
過去の存在が怖いのか?
嗚咽を漏らすだけの俺を楓さんは抱きしめてくれる。
「旭、大丈夫だから……俺の目を見ろ」
そう言われ楓さんの目を見ようと――楓さんと視線を合わせようとするけど、体が強ばってできなかった。
さっきもそうだ。どうして合わせられないんだろう。楓さんの瞳はひどく安心させてくれる。だから合わせたいのに、なんで。
「俺と目を合わせるのが、怖い?」
「う、あ……こわ、い……」
そうだ、怖いんだ。怖いから視線を交えることができない。
だって楓さんの瞳は過去を見ることができるから。
静輝さんという過去を見れるから。
楓さんの目を通して、静輝さんのことが見えてしまうから。
この前は嫉妬の対象が前の俺、つまり自分自身だったからこんな風にはならなかったんだ。
でも今回は自分じゃない。まったく違う、他人だ。
楓さんに愛されたことがある、俺じゃない誰か。
知らない楓さんを知っている、旭じゃない誰か。
俺の持っていないものを持っている過去の存在。
その存在が楓さんの瞳に映ることが怖くて、それを映した瞳で見られるのが怖いんだ。
なくなった記憶の部分を、強烈な独占欲とやっかいな愛情で埋めようとしている。
「もう、ほんとに……やだよ、こんな……」
こんな醜くて子供っぽい欲を抱えた自分を、楓さんに見られることが、怖くて不安で嫌だった。
柚里は見せた方がいいと言っていたけど、一度見せてしまったら歯止めが効かなくなりそうで、そうなったら確実に楓さんに幻滅される。
静輝さんの方がよかった、なんて思われて楓さんが俺から離れて行ったら、もう生きていけない。
子供っぽい感情を見られただけで幻滅されるんだから、独占欲ややきもちをぶつけるなんてやっぱりできるはずがないんだ。
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