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前進
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寝ぼけている。或いは、自分はまだ寝ているのかもしれない。
目覚めて、己の手に、貴仁のそれが重ねられていると言う事に気がつくのに無論時間はかからなかったが、
その重ねられた手の意味どころか、
これが夢でなく現実だと理解するのには少しの時間が必要だった。
やめてください。ふざけないで。
最初に口ずさみそうになったのは、そんな言葉だった程である。
この手が己に向けられた好意として重ねられる事など、
今日までの自分の中では、想像する事さえ禁じてきたのだから仕方ない。
本当に「やめてください」と言いかけた所で龍希は、これが冗談でも嫌がらせでも無いのだと気がついた。
何故か?
それは、重ねられた貴仁の手は常に
小刻みに震えていて、
その顔はこちらを見ること無く、机へ伏せられたままであったからだ。
「……これ、……どういう意味、ですか?」
少し冷たい言い方かもしれないが、
龍希がやっとで絞り出した言葉はこれだった。
何故?あんなに願っていたのだから、もっと喜べばいいのに!
あなたは今、そう思っただろうか?
私もそう思う。
けれども、起こるとは思ってもいなかった出来事に、龍希は理解が追いつかずにいたのだ。
貴仁が、貴仁の方からその手に触れてくる。
その行動が意味する事は例え数あったとしても、喜べる内容な事には違いない筈なのだが、
心は追いつかずにいた。
────否、追いつけていないものは、若しくは脳の方だったかもしれない。
どちらにせよ、頭は混乱して、
第一声は、喜びの感情とは程遠い声色となってしまった。
しかし、その声は貴仁に届き、彼の手がピクリと動いて反応を示した。
そして、伏せられたその顔は少しだけ持ち上げられた。
前の席に座っている龍希には、まだ表情は見えない程度であった。
「……貴仁……さ、ん……」
冷たいかどうかなど、気にできる程冷静にはなれない龍希は、再度聞き直そうと口を開く。
しかし、すぐにそれを止めてしまった。
自分の手に重ねられた貴仁のそれに力が込められたからである。
そう、もう「重ねられている手」ではなく、それは、
「握られている手」に、まさに今、変わったのであった。
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