アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
優也にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
優也
-
朝日にあたって茶色に透けるさらさらの髪
白く抜けるような肌の色
華奢で折れそうな腕
小柄な背丈をますます縮めてうつむいたまま歩いていく
相変わらずひどい表情してる。
あんな可愛い顔してるのに。
本当にもったいない。
あいつを初めて見たのは
接待で高くてまずい酒を呑んでイライラしながら帰宅した夜。
人の気配を感じて見上げると、通りかかったマンションのベランダだった。
都内でも指折り数える交通量の多い地域の大通り沿い。
深夜だから車はほとんど通っていなかったけど、夜空を見上げてた、と思う。
とてもじゃないが、星なんか見える空じゃあない。
変なやつだと思ったよ。
でも目が離せなかった。
オレンジ色の街頭を頬に当てて、光の中に消えて行きそうな肌色。手すりをつかんだその手がバランスを崩して落ちてくるんじゃないかと思って。
冷静に考えたらそんな訳ないんだが、俺も酔っていて、つい見入ってしまった。
光が何かに反射したように見えて目を細めた瞬間あいつはボロボロと涙をこぼしたんだ。
見てはいけない物を見てしまったような気がして、足がすくんだ。
男の泣き顔なんて見せる物ではないし、見られたくないだろうし。
そうは思っても動けなかった。
何かにぎゅっと締め付けられたような痛みに眉を寄せて俯く事しかできなかった。
そんな風に泣くあいつが男だろうと女だろうとどちらでもよくて。
たぶん、この時に一目惚れしていたんだと思う。
それから、あいつが毎朝同じくらいの時間帯に家のマンション前を通過する事に気がついた。
駅に向かうんだろう。
憂鬱そうな顔をして、毎日。
駐車場に降りる時間帯にすれ違うようにしてみて初めて可愛い顔してるな。と思った。
ありゃあ、イジメられるタイプだな。
断じて言うが、ストーカーじゃあないぞ。
別に男女関わらず不自由はしていないし、小さな会社でも社長やってるってだけで人は寄ってくる。
身長約190cm。親は成金だが愛情たっぷりに育ててくれたし、自分で言うのも何だが天才肌のB型で困った事も特にない。
派手な見た目と広い人間関係で出会いも多い。必然的に気に入られる事も多い訳で、生まれてこのかた性的な対象に困ったことはない。相手が自分に興味をもち、それを自分が許せば関係はすぐにはじまる。
お互い様だが、上辺だけで始まって深まらない関係というのは切れるのも早い。
飽きっぽい性格も追い打ちをかけて、俺の恋愛関係は希薄で短命だ。
相手とぶつかるのも手間で、自分が悪いからとあやまって別れて、を繰り返す。
恋愛なんてそれで充分だろう。
これだけ人間がいるんだ。この相手じゃなきゃだめ、って事はないだろう。俺も、相手も。
時間が全てを変えていって解決していくんだから。
長い付き合いの友人達はそれを、モテる奴の言い訳だ。と笑い
お前の恋愛は金持ちの道楽だと辛辣に言ってくる。
恋愛より友人。友人より仕事。それが男に生まれてきた宿命だろう。
特に俺みたいに両親の期待を裏切れない男は。
車通勤だから普段電車に乗る事もほとんどないのだが、たまたま出勤に納車が間に合わなくて、たまたま同じ時間の電車に乗ったんだ。
声かけるつもりなんかなかったし、関わるつもりもなかったが、自分が興味をもつ相手には近づいてみたいというのが人間の本能だろう。
向こうが不信に思わない距離で顔が見える範囲に乗り込んでみた。
やっぱりと言うか案の定というか、あいつは痴漢にあっていて。
全く動じる様子のない事に少し驚く。男慣れしてるな。と。
まぁ、あの顔にあのサイズじゃあ慣れっこなのも仕方ない気がする。
この沿線沿いの終点には巨大なベットタウンがあり、朝夕のラッシュ時にはかなりの混雑だ。
少し面白くない気分で眺めていたら
突然、あいつの血の気が引いて白い肌がますます冴え渡るほど白くなった。
目を見開いたその顔には恐怖がありありと現れている。
何事だ?男慣れしてるんじゃなかったのか?
人波をかきわけて近付くと、呼吸がおかしい。
黒いパーカーの男が人目から隠すようにあいつを扉に押し付ける。
隙間からちらりと覗かせた表情はひきつって大きく震えているように見えた。
過呼吸じゃないのか?
そんな状態になってまで触らせてやるなよ。
しっかりしろ。
そう思った途端に手と足が出てた。
あいつに不自然なほど覆い被さってる黒いパーカーが触ってる事は明らかだ。
元サッカー部の脚力で目一杯蹴飛ばしてやった。
俺が先に目を付けてたんだ。
痴漢になんか渡す気はない。
らしくもない苛立を抱えて首根っこを捕まえたまま震えたままの体から手が離せなかった。
俺を見上げるその怯えた顔が白くて小さくて儚くて、その可愛さに痴漢の気持ちがわからなくない。
そう思った途端に電車に乗せておくのが嫌になった。
とりあえず電車から出してやらないと、どんな阿呆に触られるかわかったものじゃない。
勝手な思い込みからこの小さなかわいい生物を連れ出すと、突然頭から後ろに倒れこんだ。
予想外の事に慌てて抱き止めてみると、ものすごい軽い。軽すぎる。
何でできてるんだ?
心配になるほど軽い体を抱えて、駅からすぐの会社に向かった。
ソファーに横たえても震えが止まらないし、顔色も真っ青なまま。
救急車でも呼んだほうがいいんだろうか?
こういう時は、人肌か?
とりあえず暖めないと。
体を起こして抱きしめてみる。
薄い背中。細い腰。腕の中にすっぽり収まる。
最近まで付き合ってた女達より胸がないぶん華奢で儚く感じる。
この体格で満員電車はキツイだろうな。
温まったのか、震えの止まった体を離して毛布でくるむ。
こいつ、名前はなんて言うんだ?
出勤途中だよな?実はなんかワケアリか?
不幸を背負ったみたいな顔しているくせに、色気まで漂わせて。
自衛しなければ悪いムシが寄ってくるのも当然だろう。
携帯が途切れることなく鳴り続けていてうるさい。
とりあえず出てやるか。
少しためらったものの、勝手に鞄を開ける。
「南野休むなら休むって?会社始まる前までに連絡してくしてくれないとー」
と出た途端に耳障りの悪い声でまくしたてられた。
社員が社員に対する応対で、会社の質がわかる。
あまりいい会社ではないな。
社員証を見るに普通の会社員みたいだが、この社名どこかで聞いたような。
愁、か。ぴったりな名前だな。秋を思う心。
澄んだ空と夏が終わる寂しさ。
会社でいじめられてなきゃいいけど。
腹立たしい携帯に来客用の声で対応をしてから放り投げた。
まじまじと顔を覗くと長い睫毛、薄ピンク色の唇がなまめかしい物に見えて、つい目を逸らす。
病人襲うなんて、人としてどうなんだ。
そんな事より熱はないのか?
貧血なんだろうか?
そんな事を考えていたら、ゆっくり、本当にゆっくりと、目が開いた。
まるでおとぎ話だ。時間がとまったかと思った。
思い過ごしなのはわかっているが、その様子は俺の目を惹いた。
俺は柄にもなくあたふたして体調はどうかと聞いて、今朝の出来事に触れてみた。
その途端、愁はまた顔を真っ青にして震えだした。
言葉通りガタガタと。
この震え方は尋常じゃない。
舌を噛み切ってしまうような音をたてる奥歯の震え。
無理矢理にでも口を開かせなければ舌を噛んでしまいかねない。
とっさに愁を強く抱きしめて、当然のように唇をあわせた。
下心がなかったとはさすがに言わない。
ひんやりした唇。溢れる甘い唾液。
喉から音になって零れる吐息。
キスそのものに慣れていない感じが新鮮で。
震えは何とか止められたものの、怯えさせたかもしれない。
ただ
あまりに無抵抗でこっちが驚くくらいだ。
こんなに簡単でいいのか?
これじゃあ、いつ誰に襲われたっておかしくない。
これは、俺が守ってやった方がいいのでは?
これが惚れた弱み。なのか?
今時、女だってこんなにウブな反応をする相手に会う事は珍しい。
俺の色に染め上げたい。
ぞくぞくするような久しぶりの感覚に気持ちが踊って俺は、愁をランチに誘った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 155