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目覚め
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心地良いまどろみ
目を覚ましたくないと、ついさっきも考えたような気がする。
ぼんやりしたまま目を開かないでいると
ひんやりした何かが額にのった
「起きたか」
どこかで聞いた低音
ふと見ると、毛布にくるまれて額には、人の手がのっている。
慌てて起き上がろうとすると、そのまま強い力で額を押し返された。
「熱はないようだが、ずいぶん震えていたから念の為に医者にみてもらえ。かかりつけはあるか?」
心配そうな声で顔をのぞき込まれる。漆黒に光る瞳に吸い込まれそうで。
スッと通った鼻筋、頬に余計な膨らみはなくて、薄い唇は冷たい感じがする程形がいい。
彫刻みたいだ。
ゾクリ
瞳の奥に冷たい光が見えたような気がした。冷たい光はきらきらしていて、眩しいくらい。
もし、こんな綺麗な顔で生まれてこれたらどんな人生があったんだろう。
「おいっ、大丈夫か?」
目の前で手をひらひらされて我に返る。
声を出すのも忘れて見入ってしまった。
「す、すみません。あのっ、ここは?」
周りを見回すと、大きな机と本棚、それと僕を寝かしてくれてあるソファー以外何もない部屋みたいだった。
「ああ、俺の会社だ。急にぶっ倒れるからとりあえず抱えて運んだ。」
抱えて?運んだ?僕を?
「え、あの。すみません。汚れなかったですか?すみません。えっと、すぐに帰りますからっ」
あたふたと起きあがろうとすると強い力でもう一度寝かしつけられる。
「もう少し休んでいけ。それから、会社には休むと連絡をいれてあるから。」
ふと時計をみると、とっくに始業の時間は過ぎていた。
「南野愁、フタミコーポレーションの社員だろ?携帯があんまりうるさいから、余計な世話だと思ったが出ておいた。」
言いにくそうに話すその横顔にまた見とれそうになる。
「あの。ありがとうございます。あのっ、」
彫刻の人は、ワックスか何かで形を整えてあるであろうその黒い髪に手をやり、ぐしゃりと触りながら口を開く。
「俺は、火野優也。荷物、勝手に見て悪かったな。」
この人、きっと面倒見がいいんだ。
冷たく見えたのは、あまりに整った顔立ちだからか。
「あまりにもヤワ過ぎるんじゃないか?毎朝あんな…知り合い、じゃあないよな?」
あんな…痴漢にあって、とは言わなかったけど、知っていて助けてくれた。のか。
痴漢から助けてもらい、倒れて介抱してもらい。お世話になってばかりだ。
せめて起き上がってお礼を言おうとくるまれた毛布から腕を出す。
うっすら赤くなっているのを見て思いだした。
あの電車の圧迫感と恐怖を。
カタカタ奥歯がなり出す。
とめたいのにとまらない。お礼を言いたいだけなのに。言葉がでない。
あの頃、あの手、あの肌。
肌を撫で回されるおぞましい感覚。消えないあざ。強い痛み。
洗っても洗っても消えることのない。兄の記憶。
もうあの頃には戻りたくないのに。
記憶がフラッシュバックする。
ジメジメした室内。熱い痛み。
いやだ。こわい。やめて。やめて。
頼んでも願っても終わりがみえない。永遠に続いていくかのような苦しさ。
体は生傷とあざだらけ、痛みも何も理解できないぼろぼろの思考。
逃げだしたはずなのに。
全身が生きる事をやめたがって息をするのも苦痛だった。
「落ち着け」
恐怖で半分起き上がった僕は何かに包み込まれた。
頭まですっぽりと。
視界にはワイシャツからはだけた胸元。
抱き、しめられてる?
ふうわり立ち上る大人な香り。
強すぎない力加減。
髪を撫でられる暖かい手。
手が触れて、守ってもらっている姿勢なのに怖くて震えが止まらない。
近付いてくる顔。動く事もできない体。
顎をつかまれて上を向かせられる。
ちゅっ
唇に何か触れた。
それが人の、彫刻の人の唇だと気づくまでに時間がかかって。
唇を軽くあわせたまま目を見開いてしまった。
真っ直ぐに僕を見る瞳とぶつかって
眩しすぎて目を開いていられない。
ぎゅっと瞼を閉じると、その感触があまりにリアルに感じられて身動きがとれない。
「…っ。…ふっ」
半開きだった僕の口にするりと濡れた何かが入ってくる。驚いて動けない僕の背中に手を回して、それは上顎を撫でてさらに奥へと侵入してきた。
舌を絡めとられて吸い込まれる。奥歯の近くをくすぐるように撫でられて、喉から声じゃない音がでる。
「ふぅ…んっ、はっ、んん」
流されてしまう。
いつの間にか握りしめた拳に少し力を入れてその胸元をたたくと、それは簡単に離れて。
「いい子だ。震えはとまったな。息をするんだ。」
言われるままに息を吸う。
本当だ。とまってる。
しなやかな指に頬をつねられ
顔を上げると濡れた唇が目に入る。
体が熱い。その瞳に吸い込まれてしまう。
他人との接触をたってきたのに。誰にも触れずに生きていこうとしてるのに。
いきなりキス?
僕の顔には、同性が好きです。とでも書いてあるんだろうか。
見つめられたままの無言に耐えられなくて、おずおず俯いて話しかけてみる
「あの。僕…ご迷惑をおかけして、すみません」
言葉がみつからずにさっきも言ったようなセリフを繰り返すと今度は下から両手で顔をすくい上げられて向き合わされる。
「人と話す時は相手をみるんだ。」
そう言って微笑み、そしてまた顔をよせてくる
「っ、や、だ」
かろうじてそう言うと驚いたように
「意思表示ができるんだな。」
そう言いながら唇を舐められた。
「ひ、火野さん、僕は男ですよ」
「自己紹介したろ?優也だ。ゆ、う、や。呼んでみろ」
どこの誰とも知らない僕を助けて介抱して、僕がどんな素性の生物か知っているんだろうか。それともそれを知った上で手を差し伸べたんだろうか。
理解、できない。
「ゆうや、さん」
「ん、上出来。」
ふわっと微笑んだその顔は、僕を射抜いた。
ズキンと衝撃が走って何も考えられないまま、顔を固定している手に触れる。
「男だからってそんな隙だらけでいる方が悪いだろ?」
問われた質問の意味がわからずに首を横に傾ける。
横を向いた頬に唇が押し当てられる。
そのまま横に滑り、その唇は再び唇に。
優也さんの体温、差し込まれた舌も全然嫌じゃない。
おかしい。
だってそうだろ?
あんなに恐怖でいっぱいだったのに、今は恐怖を忘れてしまっている。それどころか
それどころか、心地良いとま、で。
くちゅくちゅ
水音がして、それが自分の口から、息をするたびに聞こえてくる。
「っ…、ふ…ん、あっ」
体が熱い。優也さんからの熱を、唇から注ぎこまれる。人の体温に包まれる。
溢れた唾液が口の端から零れて、それを指ですくわれる。
歯の付け根をつつかれ、舌をからめとられ、それは指先と間違うほど器用に口中を動きまわる。
なすすべもなく、感覚だけがぞわぞする何かを体の奥に感じた。
カクン
背骨が、折れるような衝撃。
ふっ、と鼻で笑いながら唇を離して
「腰が抜けたか?かわいいな。」
そう言って抱きすくめられた。
肩で息をしてる僕を覗き込んだ優也さんは目を見開いて
「愁、今どんな顔してるかわかってるか?そんな顔してると襲われる、おいっ。」
熱い。
力いっぱい自分の体を押し付けていた。
体が熱くて、この熱をどうしたらいいかわからなくて。
優也さんの体がピクリと動いて、それさえも熱を高めさせる。
さっきから中心がズキズキする。
頭の中が真っ白になる。
「…さい、ごめんなさい、ごめんなさい」
何でか申し訳ない気持ちばかりが、頭の中をぐるぐるまわるけど、手が離せなくて。
今までよりも強く抱きしめられた体がバラバラにほどけてしまいそうだ。
「しっかりしろ」
自分から強くしがみついたせいで、優也さんの首もとにくちづけてしまっていた。
いい匂い。
吸い寄せられる滑らかな肌。
この人に触れたい。
味わった事のない変な気分。
ビクンっ
うなじを撫でられて体がはねた。
少しだけ。少しだけでいい。この人を知りたい。
優也さんの首筋に当てたままの唇を、そっと開く。
ぺろり
「こら、からかうな。」
「ご、ごめんなさい」
部屋の電話がなり、慌てたように優也さんが受話器をとる。
離れる体温。
僕は何を期待していたんだろう。
助けてもらって出会ったばかりのこの人に。
汚い自分とは、全然違うとわかってる。
同情してキスまでしてくれたこの人を汚してしまうところだったんじゃないだろうか。
現実をみるんだ。
帰らないと。
起き上がって乱れを直して歩き出した僕の腕を、優也さんが掴む。
「どこへ行く?」
綺麗な顔。耳障りのいい声。
何度も思い出してしまいそうに美しい。
「あの、本当にご迷惑をおかけしてすみませんでした。僕、もう大丈夫なんで、帰ります。すみませんでした。」
僕の顔を唖然とした表情で見る優也さん。
ゆるゆると首をふって
「送るよ。車が戻ってきたからな。」
「い、いえ。もう電車も空いてるでしょうし、そこまでご迷惑おかけする訳には」
いかないです、と言おうとした僕の額に手が当てられて
「やっぱり熱があるかもしれないな」
そう言うと強引に手首をつかんで歩き出した。
駐車場があるという地下に降りるとエレベーター前に僕でも知ってる黒い国産高級車が止まっていて、その助手席に座らされる。
座り心地が僕の部屋のベットよりいい。
さすが高級車。
車があるならなんで満員電車なんかに乗っていたんだろう。
都内は渋滞するけど、満員電車に乗るよりはよっぽど…
「車検から戻ってきたばかりなんだ。」
声にだしてない質問に突然答える優也さん
声の元を辿ろうと振り向くと
ゴツン
額がぶつかる。
ち、近いっ。
「っと、悪い。シートベルトしないとな」
そう言いながら僕の左側から伸ばしてとめてくれる横顔にみとれていた。
横顔も、キレイ。本当に彫刻なんじゃないだろうか。実は冷たい石でできてる。とか。
血が通っているんだろうか?
ちゅっ
じっと見てた僕の額に唇をおとす。
「ひっ…」
喉から小さな声が上がって助手席のシートに強くぶつかる。
「だから、そんな顔してると襲われるぞ。それから、ノコノコ知らない人の車に乗らない事。密室じゃ何されるかわからないんたぞ?」
ニヤリと優也さんは笑い、僕の首筋に手を伸ばす。
すぐに人に触れられる恐怖が襲ってくる、はずだった。
はずだったから目を閉じていたのに
全然怖くない。
「優也さ、っ」
目を開けると、顔のすぐ下に優也さんの顔。
覗き込もうとした僕の首に鋭い痛みが。
歯をたてられてる。
「ほらな?」
見てみろ、とサイドミラーを差した指を目で追うと、耳の延長線上、頸動脈と鎖骨の間に歯型がくっきり。
「な、な、にするんですかっ」
「痛かったか?じゃあこれはどうだ?」
笑いながら、歯型のついた所に赤い蛇みたいな舌がはう。
くすぐるように。
「…く、くすぐったいです…っ、はっ」
くすぐったいというか、熱い舌の感触にちりちりする。
僕が笑いを堪えてるとその舌は輪郭をなぞって唇に到着する。
軽くついばむようなキス。柔らかい感覚。
どうしよう。どきどきする。人間の体温に慣れていないから。そんなに近づかれるとどうしていいかわからない。
「かわいいなぁ。」
としみじみ言った優也さんはゆっくり運転席に戻る。
この人は一体何を考えているんだろう
「とりあえず飯でも食わないか?腹ぺこなんだ」
そうか、お昼時はとっくに過ぎてる。
「愁、メシはちゃんと食ってるのか?何か好きな物はあるか?」
うーん、と考えて
「炊きたてのご飯が好きです」
と真面目に答える。
一瞬キョトンとした優也さんは、次の瞬間
両肩を揺らして笑いはじめた。
運転中なのに危ないって、それにそんなに笑われる事言ったか?
「炊きたてのご飯なら、いいところがある。家の近所だから愁も言った事あるかもしれないけどな」
え?
「それって、どういう?」
僕の質問には答えないまま、優雅な仕草で車は発進していた。
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