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新しい_2
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「秘書業務についてもらう前に手続きと準備が色々と必要なんだ。体調はどうだ?」
結局また2人でシャワーを浴びる事になってしまって、髪を拭かれながら優也さんが話しかける。
「もうすっかり。」
心配事も1つ減ったし、爽やかな気分でそう答える。
「無理するなよ。じゃあとりあえず区役所からだな。まず住所変更。愁、上京してから一度も移してないだろ。それから印鑑登録。パスポートも念のために作っておこうか。」
住所変更しなかったのは、夏彦に見つかるからだ。
上京してすぐに居場所が知られたのは住民票を移動した次の日だった。
どんな方法があったのか分からないけど、それ以降は引っ越しを繰り返して住民票は最初に住んだ部屋に残したままにしてあった。
そうやって逃げている10年の間に個人情報保護法が制定されて、プライバシーについても騒がれるようになったから、今は平気なんだろうか。
いや、そんなはずないだろう…
「住所はここに移せばいい。これまでは逃げるのが前提だっただろうけど、今後はそうもいかない。俺と行動を供にしている事がわかればそれだけでも、愁によってくるヤツの虫除けくらいにはなるだろう。別にナツヒコだけの事じゃないぞ。愁には隙が多いからな。」
「そっ、そんな事…」
言いかけてやめた。だって、隙が多いと思われても仕方ない。
「…気を付けます。」
「いいコだ。」
ほとんど乾いた髪に、クシャッと指を通して耳の横に手を添えられる。
瞳が近付いてきて唇をくっつけるみたいなキスをしてくれた。
小鳥がクチバシでつつくみたいなバードキス。
子供扱いされてる感は否めないけど、とにかく僕は気分が爽快で楽しくて。
そしてなんだか急にお腹がすいた。
「お腹すきませんか?優也さん朝ごはんはいつもどうしてますか?」
「平日は寝坊が多いから運転しながらコンビニおにぎりで、休みの日は起きない」
そんな堂々と言い切られても。
苦笑しながら聞いてキッチンをお借りする事にした。
「相変わらず食材のない冷蔵庫ですね。区役所のついでにスーパーに寄りませんか?」
「ああ。買物。元気になったって知れたら奏介に連れ回されるぞ。細身のサイズが置いてある服屋に散々電話かけてたからな。たぶん、スーツだけで済まないと思うぞ。」
意外だなぁ。奏介さんって買物好きなんだ。
会話の端々に名前が出てくる。この2人ってよっぽど信頼しあっているんだろうな。
ちょっと羨ましい。
「自分の好みも伝えないと勝手に決められるから、主張しろよ。そういえば、暗い色のネクタイしか持ってないんだな。愁には明るい色の方が似合うのに。」
「え、買物って、僕のですか?」
唯一残っていたジャガイモの皮を剥いていた手を止める。
「そうだ。愁に仕事用の衣装を揃えないといけないからな。ついでだから私服もバリエーションを増やせ。1年見てたけど、いつも似たような色のばかり着ていただろう。」
「…っ。ストーカーですかっ。お給料貰ったら行きますから。その…優也さん選んでください」
ぼぼっと頬が熱くなった。
自分で言っておいて、照れるなんて…子供だなぁ。
「…。愁、それ、無意識なのか?」
それ?
それってどれ。
聞き返そうとすると、優也さんは真っ直ぐ僕の挙動を見ていた。
その視線にますます顔が熱くなって俯く。
スッと目の前に出された指先を目で追うと、顎を掴まれた。
「…買物、今日行こう。2人で」
ピーンポーン
「だっ、誰かきましたよっ」
「あー、はいはい」
インターフォンの対応をしに行く後ろ姿を眺めながら、心臓がばくばくしている自分に笑う。
あぶなかったー。
流されてキスでもしてたら、出掛けるような体力なくなってたかもしれない。
ただでさえ、ちょっと腰にきてるのに。
でも、それも良かったかもしれないなんて考える僕は中身ごと変えられてしまっているのかも。
この恋が、体も心も変えていってしまう。
それは急激な変化で、自覚していなければ変わっていく瞬間にも気付かない。
変わっていく僕に優也さんは気付くだろうか。
気付いて欲しいような、欲しくないような。
そんな幸せの変化を繰り返して、いつか普通の人間に近付けたらいいな。
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