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君の話を聴こうか、[僕の形]にしおりをはさみました!
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君の話を聴こうか、[僕の形]
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「楓、須田さんとの勉強は如何だった?」
紅葉が思い出した様に聞いてきた。渉の家で勉強してきた紅葉は、ついでに借りて来た漫画を僕の部屋に持ち込んでいる。ベッドの上に2人でぎゅうぎゅうに並んで、読みながら話す。
「別に、普通だよ。」
「それで、楓は須田さんの事を気になったりしてないの。」
「…ちょっと保留中。」
「ふうん…。」
漫画を読むふりして、紅葉がこっちを見てる事に気付かなかった事にする。今は目を合わせたくない。
楓君の優しいところが好きなんだ。良かったら、私と付き合って下さい。
須田さんの言葉が頭をよぎる。優しいところ、…それってさ紅葉じゃないの。僕は本当に間抜けな事に、この言葉を言われるまで全く気付いてなかったんだ。バイト中の僕は紅葉基準で仕事してて、要するに須田さんは紅葉本人か、紅葉のふりしてる僕が好きだって話で…。
「楓なんて、名前だけだったんだな。」
漫画に顔を埋めて呟く。紅葉が僕の方に身を乗り出す。
「え?何のこと。」
「ううん。何でもない。」
バイト中の僕らは、桜井楓っていう名前の桜井紅葉だったって事だ。
明日は紅葉がバイトに行く。須田さんは休みだから、次に彼女のシフトと同じなのは火曜日。告白の返事をしないといけない。
「紅葉、火曜日のバイトなんだけど、僕に行かせてくれないかな。」
「うん、いいよ。じゃあ、金曜日と交替しようか、」
「うん。ありがと、」
まだ、紅葉には告白の件は言わない。火曜日、彼女に返事をしてから報告しようと決めてる。
「この漫画面白い。」
「うん、渉の一押し。楓も気に入ったって、今度会ったら言っとく。」
「うん。最近会ってないから、渉によろしく言っといて。」
リビングに行ったら良い匂いがしてる。兄ちゃんは今日、加賀さんの家に泊まりでうちには居ない、きっと母さんの作った夕飯の匂いだ。そのままキッチンを覗く、
「母さん、今日は麻婆豆腐?」
「ああ、楓君。今日は真琴が居ないから辛口にしたの。その方が二人は好きでしょう。紅葉君も呼んで来てくれる?お父さんも、もう直ぐ帰って来るって連絡あったから、夕飯にしましょう。」
母さんは僕を一目見て楓だと言える程に、紅葉との見分けが出来る様になった。絶位に間違えない兄ちゃんにアドバイスを貰い、特訓したとか。可愛らしい人だと思う、そういうところが二人は似てて、血の繋がりを感じる。
「うん、有難う母さん。紅葉呼んで来るね、」
紅葉の部屋の前に立ったら、扉越しに誰かと話してるのが聞こえた。どうやら電話中らしい。
「明日はバイトだから、…午後からなら…」
話を盗み聞きするのは良くないから、僕はさっき登って来たばかりの階段を降りようとした、
「じゃあね、能戸さん。」
何だ、…能戸さんか。やっぱりなあって感じだ。結局、能戸さんは僕と紅葉を間違えただけだったんだな。だって僕は、彼の電話番号すらも知らないし教えてもいない。兄ちゃんと弟の友達……僕はただの知り合い。そういう事だ。
ガチャ、扉が開いて紅葉が出て来た。きっと、そろそろ夕飯の時間だからだろう。呼ぶまでもなかったな。
「あれ、楓。どうしたの。」
「母さんが夕飯だって、」
「呼びに来てくれたんだ。」
「うん…。」
僕は端に寄って先に紅葉を通す、ぼんやりとその背中を見た。紅葉がトントンと軽い足取りで降りきり、僕の視界から消える。僕も階段を降りようと、足を一歩下ろした。足元が、ぐにゃぐにゃと形を変える。いや、ぐにゃぐにゃなのは僕自身だ。
僕は今、ちゃんと立てているか?それとも、もう僕の体は僕の形をしてない?
「僕を形作るものって何だ、」
同じものは二つも要らないだろ。紅葉がいれば、僕は要らない。だって、みんなが好きなのは、欲しいのは紅葉だ。
「楓ー?」
先に行ってた紅葉が僕を呼ぶ。
「今行く、」
ぐにゃぐにゃの足を、感覚のないままにまた下ろした。その先は何もない空間だった。
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