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君の話を聴こうか、[訪問者]にしおりをはさみました!
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君の話を聴こうか、[訪問者]
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スクールバスを降りて、まだ続く梅雨空の下、雨を弾く傘の音を聴きながら歩く。最近の習慣で、今日もいつもの様に真っ直ぐに帰宅した。家族の誰より早く帰り、一人で留守番する、考え事をするには丁度いい時間。
家の門の前に、見た事のある青い傘。近くのコンビニにでも引き返そうかと思ったけど、紅葉に用があるのではと気が付いた。きっと、今日がバイトの日だって知らないんだろう。
「能戸さん。紅葉はバイトですよ。」
門に入る前に声を掛ける。雨の中、待ち続けるのを放っておく程、僕は冷たくはない。
「いや、楓を待ってた。」
「何で?僕は何の用も無いです。」
本当に心当たりが無い。バイトの時に話があると言われてた事が頭を過ぎったけど、それも紅葉と勘違いしての事だと思う。それ以外でなら…ああ、そうか。
「紅葉に何か頼まれましたか。」
あの日から、僕は紅葉の目を見れなくなった。言葉を交わすのも最低限で、兄ちゃんが如何したんだって聞いてきたけど、何でもないって答えておいた。
反する様に、紅葉の視線はずっと僕を追う。気付いていても、もうそれに応えて向かい合う気力が無い。
「紅葉に?…何の事。俺は自分の用件で、ここに居るんだけど、」
紅葉も兄ちゃんも、何も話して無いのかな。軒下に入り左手に持った傘を閉じた、左手で家の鍵を開け、そのまま玄関を開いて能戸さんを促す。
「…中へどうぞ。」
「うん。」
二階の自室に案内する、能戸さんは紅葉や兄ちゃんの部屋になら入った事が有るから、僕の部屋を珍しそうに見回した。
「漫画も小説もない。実用的な本棚だな。」
そう言って本棚の前に立ち、参考書や問題集を眺める。その中のカバーを掛けた、分厚い1冊を手に取った。パラパラ捲る。
「なあ、…K大学受けるんだろ。何で、別の大学の過去問があんの?」
「……。」
それは、その大学を受ける為に決まっている。もう気持ちはほぼ固まり、僕は東京の大学を受験するつもりでいる。このままこの家に留まり、紅葉と同じ進路を進む事は難しい。
今迄も、紅葉とは些細な喧嘩をした事はあった。でも、互いに目を合わせれば気持ちを理解し合えたし、触れれば全てのわだかまりは消え許し合えた。まさか、こんなに長く目を合わせず、互いに触れもせずにいる事が出来るなんて、想像した事も無かった。
「そんな事より、用事って何です。」
能戸さんの手から問題集を奪う。左手で元の場所へ戻した。それが気に入らなかったのか、僕の肩の位置から睨まれた。
「俺はさ、結構好みがはっきりしてるんだ。」
「はあ?」
いきなり何の話。
「いわゆる、面食い。性別は如何でもいいけど顔が整ってないと嫌だし、性格も我が儘な感じが好きなんだよね。簡単にさ、俺の容姿に釣られてなびくようじゃ燃えない。」
「…それ、僕に何の関係があるんですか。」
「あるだろ。分かんないの?」
いや、全く。首を傾げる。能戸さんの性的な嗜好を聞かされても、何の糧にもならない。
「よく分かりませんが…用件がこれなら、もう話は聞いたし、僕には必要のない話なので帰って貰えますか。」
「ふうん。必要ない、ねえ。」
あっという間、右手首を掴まれる。咄嗟にそれを庇おうとして、能戸さんが自分の方へ引き寄せる動きに逆らえなかった。人体、その主幹となる骨、関節や筋肉の構造を知った動き。最小限の力で、自分よりも大きい人間も楽に動かしてしまう。
「っ、止めて下さい。」
僕の体はあっさりと反転し、能戸さんに無防備な背中を晒している。肩の関節から真っ直ぐ後ろへ伸びた右腕は、人質の様に能戸さんに囚われている。
頭の中で考える。今日は右手首にサポーターをしていない、リハビリのつもりで外していたからだ。でもまだ重い物や、手首に負荷を掛ける動作はしない様に言われていて、何かの格闘技の心得のあるこの人から、無理に力尽くで奪い返すのは難しい。
「K大学に進学するなら、放してやってもいい。」
「意味が分かりません。もし、嫌だと言ったら如何するんですか、」
「そしたら、時間もあんまり無い事だし、手っ取り早く事を進める。」
事って…何を進める気だ。
「如何して、進学なんて僕の自由でしょう。」
「自由ねえ。俺はさ、頑張ったよ。これでも本気で、K大学合格の為に寝る間も惜しんで必死にやった、それも全ては1年後の為だ。」
「1年後…何の事ですか、」
「鈍いな、ほんと。」
能戸さんが微かに笑う。僕の体を、右腕を支点にしてまた反転させた。向かい合わせになると、ぎゅっと背中に腕が回る。…解く気にもならない、解けるとも思えない。
「はぁ…。」
もう、本気でこの人嫌だ。こうやって抱き締められている意味が分かんない。
綺麗な顔と細くしなやかな体…こんなに文字通りに振り回されるとか、この見た目とのギャップは何なんだ。
「K大学へ進学しますよ、だから放して下さい。」
もう、適当に行くって言って受験しなければ良い話だろ。
「楓、約束を守る気ないだろ。」
「さあ、如何ですかね。」
「ほらな。そんな奴だ、だから良い。」
体を押される、壁に寄せて置いたベッドの上に背中から倒された。腹の上に乗った能戸さんの顔が近付く、
「じゃあ、ヤるコースで。」
長い睫毛が半月型に揃い、瞳の形を際立たせる。近くで見ても、美しい顔立ち。口角が上がり、薔薇色の唇は可憐な風情だ…見た目だけは繊細な美を振り撒く徒花。僕だって、中身を知らなければ騙されていたと思う。
「それ、強姦ですよ。」
「ああ、気持ち良ければ気も変わるだろ。それに、俺は強姦したいと思ってない。だから選択肢を与えただろ、それを拒んだのは楓。だったら、これは合意って事で納得しろ。」
「無茶苦茶です。」
「そう?」
如何するか…。能戸さんの本気度と、目的が分からない。
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