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君の話を聴こうか、[梅雨明け]にしおりをはさみました!
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君の話を聴こうか、[梅雨明け]
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「2人とも、今日の夕飯はオレが作るから何か食べたいのとかあるか?」
兄ちゃんが朝食の席で聞いてきた。紅葉は答えずに黙って僕を見ている。昨日、筒井に許可は貰っているし、今日は予定通り学校が終わったらそのまま泊まる。
「ごめん、今日から友達の家に泊まるんだ。日曜日まで帰って来ないから、僕は夕飯要らないよ。」
「楓、どこに泊まんの?先週も居なかっただろ。その前も、」
兄ちゃんの顔が曇ってる。紅葉は溜め息を吐いた。きっと紅葉は、自分の所為だと思ってるんだろう。それは半分正しく半分違うけど、能戸さんの事を言うつもりはない。
「筒井の所。ごちそうさま、もう僕は行くね。」
朝食を残して席を立つ。いつものスクールバスには乗らない。行ってきます、と玄関から出る。皮肉な事にバイト代のお陰で僕の財布はゆとりがある、最近通学に利用している電車の駅に行こうと門を出ようとした。
「楓、待って!」
背後で玄関の開閉音。紅葉が僕の腕を掴んでぐいっと引っ張る、体が後ろに傾く程の勢い。腕に指先が食い込んだ。
「何で、いつも帰りが遅くなってるの。週末も居ないし…そんなに僕の事を避けたい?僕は、どうしたらいい?どうしたら許してくれるんだ!もう、分からないよ…、」
必死さが伝わった。許すとか…何だよ、そもそも紅葉は何の非もないだろ。僕が、1人で屈折して足掻いて苦しんで妬んでいるだけ。紅葉にこんな事を言わせるまで追い詰めて、辛い思いをさせて…何も得る事は無いのに。
「許すも許さないもない、僕は怒ってる訳じゃない。」
「でも、僕を見ないだろ。今だって、目を合わせてくれもしない。」
涙声だった。僕はやっと顔を上げた。久し振りにまともに見た紅葉は、涙がぽろぽろ落ちているのに拭いもせずに僕を見ている。
「ほらハンカチ、」
子供の頃みたいな泣き顔。母さんがかけてくれてるアイロンのお陰で、シワも無くピンッとしたハンカチで紅葉の涙を拭った。
「楓…僕は、兄ちゃんに失恋しても泣かなかった。」
「うん。」
「でも、楓が側に居ないのは駄目なんだ。」
「うん。」
「支えるって言ったし、支えてくれるって言ったのに、」
「うん。」
「…何で、楓も泣いてるの。」
「…うん。」
僕は、馬鹿だ。紅葉はやっぱり僕の事を一番理解していて、僕に必要な言葉をくれる。そして、いつだって先の一歩を踏み出す。
「ごめん、紅葉。」
「ごめん、楓。」
抱き締め合う、この感覚も久し振り。僕と同じ体型、同じ顔、でも全然違う。紅葉は紅葉、僕は僕。だからこうして抱き締められるんだ。
ガチャ、
「あれ、なんだ。…玄関前で話してるのが聞こえたから心配したのに。オレも入れて!」
兄ちゃんが抱き付いて来た。僕達の背中に腕を回してギュッとくっ付く。笑顔が眩しいくらいに輝いてる、今日の空の青さに似た晴れ渡る笑顔だ。
「兄ちゃん。」
「兄ちゃん。」
「うお!ははっ苦しいっ。」
僕達に逆に挟まれて、嬉しそうにしてる。きっと凄く心配を掛けてたんだと思う、僕はこんなに必要とされてる。なんで気付かずにいたのか…。どうして、あんなにも頑なに紅葉に嫉妬して自分を壊したいと思ったんだ。
きっかけは、須田さんだったのかな…それとも…他の、
「楓、今日はスクールバスに一緒に乗ろう。あ、もう行かないと!兄ちゃん行ってきます。」
「うん。兄ちゃん行ってきます。」
「おう。気をつけてなぁ。」
兄ちゃんに見送られて門を出る。久し振りに2人で歩く道。僕は、やっと梅雨が明けた気がした。
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