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出会い(追想)にしおりをはさみました!
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出会い(追想)
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*
あれは去年の12月末の事だった。
冬休み真っ只中のある日曜日。ちらつく雪の中、使いを頼まれた俺は両腕にスーパーの袋を提げて早足で住宅街を歩いていた。
時刻は夕方で冬は日が暮れるのが早い。薄暗い曇空の下、自身の着ている濃紺のコートに白い小さな粒が触れては消える様子が何故か少し嬉しくて、積もらないかなぁとか呑気な事を考えていた。
いつもの道を通りすぎる。
小さな公園の側。
低いフェンスに囲まれた敷地内にはブランコと砂場とベンチしかない。そこで遊ぶ子どもたちが居なければ殺風景なそこには今日は人が居た。
その場に相応しい子どもの姿ではなく、一回りも二回りも大きい中高校生が公園の中央に1人ぽつんと立っている。
一体何をしているのだろう…と気になって足を止めれば、彼の足元に倒れて小さく蠢く他の男達の姿。
ただ事ならぬその情景に思わず息を呑んだ。こんな場所で相応しくない行為をやってのけた男は平然とあたりを見回している。そして道に立ち尽くす俺の姿に気付いたのか、獣のような鋭い視線がこちらに向けられた。
ガチリと目が合い、早々に立ち去ろうと思っていたのにその場に縫い付けられたように足が動かない。
何時までたっても帰らない俺に苛立ったのか、重い一声が周囲に反響した。
「何だよ」
すぐに言葉を返せるはずもなく、戸惑いながら思考を巡らせる。地面に伏す男達を1人で倒したのであろう強者の男は幼さの面影が残る表情をしかめながら、明るいブラウンともオレンジとも取れる髪を風に靡かせて唸る。
どこで一体何をしようと他人の勝手だと思うが、喧嘩はよろしくない。こんな公共の場ではわきまえてほしい。
同い年か、年下か、どちらにせよ年上には見えないので神経を逆撫でしないようにと祈りながら声を返してみた。
「公園でこんな事…」
喧嘩するなら、せめて場所を選べばいいのに。ここは子ども達が「仲良く遊ぶ」ことを目的とした場所だ。
俺の言いたいことを察したオレンジの男はチッと舌打ちをする。
「こいつらがここに誘い込んだんだよ。俺だって喧嘩なんぞやりたくねェ」
意外にもあっさりと返ってきた答えに僅かに緊張がほどけた。そこまで悪い子じゃないと安心した俺はもう一度オレンジを見る。握られた彼の拳からは血が滴っていた。痛々しいその様子に憐れみか身体が勝手に前へ進み出た。
「怪我、してるのか」
「ったり前だろ、喧嘩なんだからよ」
オレンジは自身のジャケットの襟を正し血の付いた己の拳を振って、転がっていた男を数人踏むと俺が立つ出口へと向かってきた。
そのまま立ち去ろうとする男を、あろうことか呼び止めてしまう。スーパー袋の中に入っている商品を思い出したのだ。
「待て」
「あ?」
怪訝な瞳でこちらを睨み立ち止まった彼に近づくと目の前で袋を地面におろした。何をする気だと警戒する相手の前でその中から絆創膏の箱を出す。使いを頼んできた叔父夫婦は二人とも優しいので、一つぐらい使っても怒るはずがないだろう。
中から出てきた絆創膏のパッケージを見てオレンジは何をされるのか分かったのか、一歩後ずさって照れたように振り払う。
「いいって!」
「いいから。そんな血だらけの手でよく町を歩けるな」
諦めた様にゆっくりと手を伸ばして受け取った男は非常に小さな音量で「ありがとう」と礼の言葉を紡いだ。
「お前幾つよ?」
「16」
「同い年じゃん!」
あからさまに警戒心が解けた様子の相手に思わず顔が笑いそうになるのを抑えた。
「学校は?」
「和泉城」
「同じじゃねェか」
今度こそニヤリと笑った男に俺も笑みを漏らしてしまう。偶然とはいえ、同じ学校の上に同じ学年とは気づきもしなかった。通っている和泉城高校は一学年に10クラスあるので、仕方が無いと言えば仕方がない。
絆創膏を貼った片手を挙げて、粉雪がちらつく中を男は駆け出して行く。その薄暗い中に栄えるオレンジの髪を今でも思い出す事ができる。
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