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喪失感にしおりをはさみました!
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喪失感
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それから9年の月日が流れた。
「あるアメリカのクリニックでは」
僕はカウンセラーに言った。
「燕を飛ばすんだそうです」
「燕を?」
「紙で折った燕を」
「なるほど」
「窓から飛ばすんだそうです」
「そう」
「それで卒業するんだそうです」
「卒業」
「そのボーイズクリニックでは」
僕は泣いた。
「杜甫の詩で、それとも杜牧だったかな? 燕の詩があって、それでも、燕は、切ない鳥なんです。ジュクジュクと鳴く。美しい詩でした。伴侶を失ったのか子を失ったんだかなんだったか忘れましたが」
「失った」
「失ったということは。あったということなんですね」
「そうですね」
「そして全て失う。人は何も持っていることはできない」
ただ汽車の窓の風景のように、
通りすぎていくだけ。
通りすぎていくだけ。
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