アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
09話 俺は筋金入りのブラコンですにしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
09話 俺は筋金入りのブラコンです
-
結局そのまましぃ兄を背中に引っ付けた状態で列に並び、俺は自分の名前を告げ管理人さんから寮の規則等が書かれている案内本とカードキーを受け取る。
しぃ兄は管理人さんに何かを預けていたようで、一言二言言葉を交わしてから小さな白い紙袋を受け取っていた。
もう分かってはいたけど、やっぱりと言うか何と言うか、ここの顔面偏差値は異常に高いという事を管理人さんを見て俺は再確認させられる。
なんせ管理人さんは逞しい体つきに短い茶髪がよく似合う、少し悪役顔のワイルドダンディーなオジサマだった。
黒いスーツに葉巻とかめっちゃ似合いそうだと勝手に想像しつつ、俺はしぃ兄と誠真先輩と共にエレベーターのある場所まで移動する。
誠真先輩以外の親衛隊の人達は律儀にも俺にまで一言挨拶を交わしてくれてから解散し、今は俺達三人だけ。
カードキーが珍しく、エレベーターを待っている間俺が何度も裏表を返しながら見ていると、誠真先輩が微笑みながら簡単にこのカードキーの説明をしてくれた。
「刻也君、そのカードキーは寮部屋の鍵だけでなくお財布の代わりにもなっていますので、無くさないように注意してくださいね」
「え、マジですか」
「はい、大マジです」
誠真先輩曰く、カードキーはこの学園内専用のプリペイドカードになっているらしく、毎月保護者から振り込まれてくるお金をチャージして使用するらしい。
親に連絡して指定の口座に振り込んでもらえればいつでもチャージは可能で、基本的に現金は使えない。
チャージ場所は今俺達がいる寮一階の奥に専用の機械がいくつもあるらしく、そこ以外でチャージ出来る場所はないとのこと。
プリペイドカードをチャージする時には暗証番号が必要で、その番号は保護者が入学手続きの書類の中に記入しているらしく、普通はその暗証番号を親から聞いて新入生はここへやって来る。
だがしかし、ちょっと待て。
俺はあの糞な父親からそんな話を何一つ聞いていない。
そもそも学園内で物を買う時はプリペイドカード式ってことすら知らなかった。
だって、パンプレットにはそんな事書かれていなかったんだもん! ……なんて、心の中で気持ち悪いノリで言い訳を言ってみても、気分はどんより曇模様。
俺は携帯を持っていないので電話で聞くにしても寮のを借りないといけないし、それ以前にあの家に電話なんぞかけたくもない。
「…………」
さて、どうしたものか。
プリペイドカードの事を聞いて一気に表情を暗くしたまま俺はやって来たエレベーターに乗り込み、管理人さんに教えてもらった、今日から三年間俺が暮らす部屋がある七階のボタンを押しため息を内心で吐き出した。
「トーキちゃん。そんなに暗い顔しないで? 大丈夫だから」
「しぃ兄?」
俺の頭を優しく撫でながら悪戯っ子のような笑顔を浮かべるしぃ兄。
何が大丈夫だと言うんだ。俺がそう口にするよりも早く、しぃ兄は俺の右手を緩く掴み胸元の高さまで持ち上げる。
「トキちゃんの暗証番号はぁ、こーれ」
誠真先輩と俺としぃ兄の三人以外誰も居ないエレベーターの中、しぃ兄は指先を動かし俺の手の平の上へ四桁の数字を書いていった。
俺は驚きで目を見開き、そのまましぃ兄の方へ視線を向け目の前の端整な顔を凝視する。
「聞いてもいい?」
「うん」
「何でしぃ兄が暗証番号知ってんの?」
「ふっふっふー。それはねぇ、ひ、みーー」
「つ、って言うのはなしだからな?」
軽く睨みながらしぃ兄を見れば、わかっていると笑顔で語っているその姿に俺の顔は更にムスッと不細工にむくれていく。
いつだってしぃ兄は余裕のある態度で、俺は子供っぽい言動しか出来ない。
この腹立たしさだってしぃ兄に対するものなんかじゃなく、まだまだガキな自分に対する自己嫌悪だ。
「ふふっ、むくれてるトキちゃんもかーわい」
「しぃ兄、ふざけないでちゃんと話を」
「俺はいつだって真剣です」
「あ、はい。ごめんなさい」
白い紙袋を腕にぶら下げたまま俺の頬を両手で挟み込み、真顔で近付いてきたしぃ兄に俺は思わず足を一歩後退させた状態で謝罪する。
ついさっきまでのむくれてた俺はどこ行った。
あと、笑ってないしぃ兄のイケメン度が凄まじくヤバイのですが、俺はどうすればいいのでしょうか?
これ、傍から見たらキスまであと三秒とかそんなシチュエーションに……。って、ちょーっと待て。
一体、俺は、何を、考えているんだ!?
そんな事を考えると余計しぃ兄を意識して、顔に熱が集まる緊急事態になっちまうじゃあねぇか!
落ち着け、俺。取り敢えずしぃ兄から目を逸らせば目の前の危機を脱する事は出来るはずっ。
「こーら、目ぇ逸らしちゃあダーメ」
「っ!?」
額と鼻先にコツンと何かが当たる感触がするのと同時に、俺は心の底から悲鳴をあげたくなった。
なんで、更に距離が近くなるんだよ!
しかも甘い声のおまけ付きとか、しぃ兄は俺を悶え殺す気か!? そうなんだな!? それで死ねたら本望だけど! って、違う!
こっちを真剣に見つめてくる翡翠色の瞳に目を奪われ、視線を逸らそうにも逸らせず赤面しながら俺が本気で困っていると、今まで黙っていた誠真先輩の声がエレベーター内に静かに響いた。
「時雨、そろそろ七階に着くのでその辺で」
「ぶーっ、せっかく可愛いトキちゃんとのスキンシップを楽しんでたのにー」
「後でまたすればいいじゃないですか」
「はいはい、わかってるよー」
片頬をぷくっと膨らませながら渋々と言った感じで離れていったしぃ兄に安堵の息をつきながら、こんなスキンシップ何度もされたら俺の心臓が持たねぇわ! と二人の会話に心の中でツッコミを入れる。
口にしないのは、笑顔でドS様な二人が恐いからとかそんなんじゃない。
言ったらしぃ兄がお得意の悪ノリで余計心臓に悪い事をしてきそうな気がするからであって、決して、恐いからとかじゃないったら、ない!
ってか、あれ? 暗証番号の件、結局聞けてなくね? と、俺がその事に気付くのと同時にチーンと一般的な音よりも数段品のいい音が鳴り響き、エレベーターが目的の階に到着した事を告げる。
暗証番号の事をはぐらかされたという事は、しぃ兄はこの話をしたくないって事なんだろうか。
もしそうだとすれば、何度も聞くのは鬱陶しいだろうし、口にしない方がいいのかもしれない。
そんな事を思っていると、エレベーターから降りた後隣に立つしぃ兄に暗証番号の事を聞こうにも聞けず、俺は少し視線を下に向け開きかけた口を閉ざす。
するとしぃ兄が優しく頭を撫でてきて、結局俺はすぐに視線をしぃ兄へ戻す羽目になった。
「トーキちゃん、暗証番号の事、俺は別にはぐらかした気はないよ?」
「え?」
「ただちょっと話が長くなるから、後々ゆっくり話そうと思ってね。聞きたい事があるなら何でも聞いてくれていいから。俺に遠慮は無用だよ?」
「……ん、ありがと。でも何で俺が考えてる事、しぃ兄はわかったんだ?」
「トキちゃんの考えている事はぁ、お兄ちゃんにはぜーんぶお見通しでっす!」
「「…………」」
「はい、そこ! 二人一緒に無言で引かなーいっ!」
ウィンクをしてバッチリポーズを決めながら言ったしぃ兄のお見通し発言に、俺は誠真先輩とそっと寄り添い無表情のまましぃ兄から素早く距離を取る。
もちろんこれはその場のノリに便乗しているだけで、内心はしぃ兄の言葉に嬉しがってるけど、もちろん表には出さない。
そもそも俺はしぃ兄を恋愛的な意味で好きである前に、筋金入りのブラコンだ。
しぃ兄が何をやっても、基本的にカッコイイ、可愛いとしか思えない自信がある。
いや、実際見た目カッコイイから、何やっても様になるんだけどさ。
二人ともヒドイッ! と拗ねたフリをするしぃ兄だが、突然真顔に戻ったかと思うと、俺を誠真先輩から引き離し即行で自分の腕の中に閉じ込める。
俺はと言うと、抵抗する気はさらさら無いのでされるがまま、背中にピッタリとくっ付いて肩に顎を乗せてくるしぃ兄の頭をぽんぽんと撫で、なぜだか今度は若干本気で拗ねているしぃ兄に首を傾げた。
「やれやれ。なんだかお二人を見ていると、早く可愛い恋人と会いたくなってきました。と言うわけで、時雨に刻也君、私は今から恋人と愛を育んできますね」
「オッケーイ。朝から俺に付き合ってくれてありがとーね、せー君。思う存分彼氏と楽しんできてー」
「はい、そのつもりです。あと刻也君、これからなにかあればいつでも言ってください。私でよければ相談にのりますので」
「え、あ、はい。色々とありがとうございます。何かあればお言葉に甘えさせて貰います」
……誠真先輩、恋人いたんだ。って、そりゃまぁ中性的で美人だし、いてもおかしくはないか。うん。
そんな事を頭の中で思いながら俺は会釈をしつつ、しぃ兄と二人誠真先輩が去っていく姿を見送り、自分の部屋へ向かう為足を踏み出した。
だが、しかし。
「はい、トキちゃん」
俺が歩き出そうとしたタイミングに合わせ、後ろにいたしぃ兄が満面の笑顔で左隣にやって来て右手を目の前に差し出してくる。
これは、嬉しくも嫌な予感しかしないのですが?
「拒否権を発動ーー」
「させませーんっ!」
「やっぱり強制かよ!」
離せと睨む俺の視線なんてなんのその。
ガッチリと俺の左手を握り歩き出したしぃ兄の機嫌は、鼻歌を歌う程にまで良くなっている。
「トキちゃん、俺を拒否するなら全力でやらなきゃ。じゃないと俺はトキちゃんから離れないよ?」
「……ほんと、しぃ兄は狡い。俺がしぃ兄を全力で拒否るなんて事するわけないの知ってて、そんな事言うんだから」
「ふふっ、俺は意地悪だからね」
「前より性格悪くなったよな」
「うわっ、トキちゃん辛辣っ!」
本当の事だろー。と、左手から伝わってくるしぃ兄の温もりにほんの少しだけ鼓動を早くしながら、俺は周りから突き刺さってくる視線をまるっと無視して足を進めていく。
しぃ兄に聞けばどうやら俺の部屋は寮の一番奥の端にあるとの事で、エレベーターのある場所から結構歩くらしい。
部屋に着くまでの間、思っていた以上にしぃ兄と長く手を繋いでいられると言う事実に俺は密かに顔を綻ばせ、左手にほんの少しだけ力を込めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 32