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今現在、家と呼べる場所があの洞窟なら、自分の今住む家はいつか本当の帰る家になるのだろうか。帰る場所…そんなもの端から僕にはないはずだろう。
洞窟の入り口で立ち尽くす。隠していた…いや、考えたくもない溜まった思いが交差してその場でうずくまる。
自分の中にどす黒いなにかが要るようで吐き気を覚えた。死んでもなお消えてはくれない自分自身の闇。
「こんなところで何をしているのかな。唯でさえ醜い人の子が更に醜くみえる」
夕日で重なる二人の影。背後に白蛇様がいるのだと理解できた。最もな彼の意見に、人だから醜い…全くその通りだと、納得した。それは僕がこの世を断つときに重々理解していて、だからこそ消えたいと願った。
「…すみません、歩き過ぎて足を痛めたようで。すぐに退きます」
立ち上がり、道を空ける。何もなかったように言うのは苦しいこの状況に、足を理由にするのは問題ないだろう。醜いこの気持ちをこの人に知られてはいけないと、本能が告げているのだ。
白蛇様はきっと人間だった自分がいることすら迷惑なはずだから。
「何処に行ってきたんだい?」
「昨日、鳥さんに道案内してもらったんです…だからその、お礼を言いに」
問いかけられるとは思わず、驚きながらも辿々しく答える。「ふーん」興味無さそうに生返事を返された。
「お前、酷い顔をしているよ。何があったかは分からないが、余りに暗いと闇に喰われるよ。彼らは至るところに潜んでいて、常に光を欲する。真っ白で純粋であれば尚更ね。余り結界から先に出ないことだ」
「闇って…?それは…」
「闇は闇だよ。醜い執念の塊。」
いまいち理解は出来なかったが、気を使ってくれているのだろうか。どんな顔をしていたかは分からないが、それなりの表情だったのだろう。闇が存在するなら、それは撲自身なのかもしれないと、そう思った。
「…気を付けます。でも、鳥さんがとても暖かくて…出来ればまた行きたいなって」
「それは口答えかな?お前は弱い癖に、私の話を臆せんとは…だがそれも悪くないかな。人の子よ、何時までもそこにいないで中に入るといい」
「え…あ、は、はい!」
放たれる言葉は厳しいが、この人は優しいのかも知れない。どうして外の出来事を伝えたのかはわからなかった。もしかしたら、心の底からあの二人に出会えて嬉しかったのかもしれない。
ここはまだ帰る場所ではないのかもしれない。だけど、たった一言で暗い感情は隠れたかのように気も同時に晴れて。単純にもその人の後を追うようにして付いていく。
(嫌われていたとしても、僕はこの人に好かれたい)
止められない感情が心の中で言葉になって、身体を支配する。救いたい、この人の心を…神の使いだからじゃなくて自分の意志として。
言葉もまともに交わせない相手との難しい課題に、これからの苦労が目に見えていた。
白蛇様は昨日と同じように洞窟の奥にむかう。家とも呼べない藁を敷いただけの、部屋と呼んでいいかすら分からない撲の住みか。
ふとあることが頭を過る。
そう言えばあの二人は人形で服を着ていた。一張羅しかない自分の服はいつかボロボロの布切れになること間違いなしだ。
結界から余り出るなと言われてしまったが、身の回りの物を揃える為にもう一度訪れよう。そう心に決めて、藁に寝転がり、目を閉じた。
「ん…」
夢を見た。昔とても可愛い野良犬がいたのだ。家で飼うことは出来なかったが、たまにふと現れては近寄ってきて、それが嬉しくてよく撫でていた。
指が柔らかい何かに当たってそれを撫でる。そうだ、こんな風に温かくて柔くて…柔らかくて!?
咄嗟に目を開けて横を見る。目を見開いた。何故ここに白蛇様が…!?長く真っ白の白髪が指に絡み付いてさらさらと気持ちがいい。
いや、そうじゃないだろう!
信じられない事態に動揺し、鼓動が早くなる。
入り口から差し込む月の光が彼を照らし、とても綺麗で、場違いなの状況にどうしたらいいのか分からず、固まる。
「なんだもう終わりか」
「お、お、おおきて…っ」
起きていたんだと言いたかったのに、吃り何を言っているのかも分からなくなる。全く想像も付かない彼の行動に、いつか自分はパンクするのではないか。
「お前が気になる…食べたくなる程に」
腰を上げて肩横に両手を置き、跨がる。白髪の束ねた髪が頬に当り流れていく。目の前の彼の顔を凝視することは出来ない。月夜に照らされた赤い眼光がそれを拒むように撲を離さない。
「…食べてもきっと、不味いです」
何をどういったら良いのか分からず、拳を握り締めて勇気の限りを尽くしそう答えた。握る指から感じる手汗。緊張している。
「そうだろうか。とても甘い匂い…私を狂わせてしまいそうな程」
「…っ、」
首筋から下へと流れるようにして舌を這わす。くすぐったい、それでいて痺れるような感覚。まるで蛇の毒にでも当てられたように動かない身体。途中で見えた牙…ああ、この人は白蛇だ。
「お前は私が怖いか?」
「そんな…!」
「だろうな。神から与えられし永遠の身体…お前は全てを持っているのだ。何も怖くはないだろう。」
朽ち果てる事のない身体が永遠と呼べるだろうか。これから先、また消えたくてももうそれは赦されないのだ。神に与えられた罰…もう、逃げる事は出来ない。
「い…ます…違います!僕は…っ」
込み上げる感情を止める術がなく、顔を隠すように目を手で覆う。何かが崩れたように零れていく涙。目頭がとても熱い。
「…私は怖がらない、欲張らないお前がとても気になる。しかし、やはり弱いな…お前も私も」
頬に伝う涙を舐めとり「甘い」と溢す。
彼の事を僕は知らない。彼もまた僕を知らない。それでも、悲しげに答えたその言葉に、彼に近付きたい。そんな感情が胸一杯に膨らんで、彼に染まる。
私の愛しい子そして人の子よ。
お前はお前の人生を歩みなさい。
愛を知りなさい、欲を知りなさい。
君には慈愛の神が付いているよ。
一話「怖いもの知らず」完
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