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二話「光」
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あの日以降白蛇様は隣で眠るようになった。神の使いになって何日経っただろうか。電気もなければテレビもない。日本とは思えないこの森の暮らしにも、もう随分慣れてしまっている自分がいる。
結界の外に出かけるのも相変わらずで、スズとレンにとても良い情報を貰ったのだ。
何でも人形で人間界に行くとか。その度に僕は気が引けながらも人間界の物を二人に頂いている。前に上げた禁断の果実のお礼だよと、貰いすぎなくらいに貰い。布団や服に日用雑貨にと。申し訳ない気持ちで一杯だった。
だから今日、僕は決心したのだ!
「は、白蛇さま!」
相変わらず睡眠以外は奥の洞窟に籠るその人に目掛けて叫ぶ。奥に向かった事のない僕は、届くかどうかも分からない人を呼ぶ。
「威勢がいいね…そうか、喧嘩を売りに呼びに来たわけだね」
確実にそうじゃないだろ。と、言えない言葉を内心突っ込む。真っ白な彼に似合う同色の何だか豪勢な柄の入った着物が風で揺れる。
声が届いて安堵したが、まるで道場破りにても来たみたいだ。
「最近人間臭いよ…ここ。私物は良いが、鼻につく。お前の匂いが人間になったらどうしてくれようか」
「う…」
何を突っ込んで良いか分からず、言葉に詰まる。彼の言葉は何も間違ってはいない。洞窟の入り口は雨風を防ぐ為にのれんをかけているし、布団は日本製だし歯ブラシや水を飲むためのコップや極めつけは、暇な時に読む書物ときた。
スズが可愛いからと渡された犬の縫いぐるみなんかもう、白蛇様にしたら不快そのものだろう。
「それで?何か用があったのでは?」
「その、白蛇様…あのですね、禁断の果実を頂いてもいいでしょうか…」
前は許可無しに上げてしまったが、凄い代物だと言う二人に取っていいのかも分からず、悩んでいたのだ。どうだろうと表情を伺う。
「あれは確かに極上の代物だ。ある神が私に与えたモノだからね。だが、お前には必要のないものだろう」
「あ、えと。僕を助けてくれる二人に渡したいのです…お世話になりすぎて、その」
自分には確かに必要のないものだった。飢えを知らない身体は何かを食べようと思う感情すらも芽生えない。聞いた話では、神聖なこの地が僕の糧となっているらしい。
必要のないものだが、今は必要なものなのだ。二人にどうしても渡したい気持ちを伝える。
「なるほどね。どうしてもと言うなら、それなりの覚悟が必要だと思わないか?」
「は、はい。」
嫌な予感しかしない訳だが。四の五の言える立場ではない。何を言われるかと唾を飲み込む。
「とはいえ、今は特にこれと言って…また後で使わせて頂こうかな。いいよ、持っておいき。いくら採った所であれは減らない」
この先のつけがとてつもなく怖い事に変わりは無いが、今を乗り切れたことにため息をもらす。
許可を与えて早々と立ち去る白蛇様に、ありがとうございますとお辞儀をした。
「って、ことなんだよ」
スズとレンがいる場所にたどり着くなり二人に出来事を伝えた。もちろん、果実を手土産にして。
「日に日にさっきーが勇者になってくね。僕なら怖くてチビる」
「怒るとおっかないからなー…あの人」
「だけど、そこまでしてさっきーは!なんて良いやつなんだ!…いてっ」
泣き出し僕に飛び付こうとするスズにレンが頭を叩く。このやり取りは恒例で、相変わらず仲のいい双子だなあ。と、微笑ましく思う。
兄弟は居たが、そんな関係ではなかった。会話らしい事をしたのは何時だったか記憶にすらない。
「本当にありがとな。これは人間で言う酒みたいなものなんだ。神の禁断の果実。持っているのは雲の上の人さ」
「感謝祭とかくらいだよねー出回るのめちゃ高いけど。あ、もうすぐじゃん」
「感謝祭?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「年に2回神様から恩恵を与えてもらえる日だよ」
「各神様が聖なる地に現れて祝福の光を持ってこの地を癒す。訪れる神様は誰かは分からないが、いつも慈愛の神様だな」
「禁断の果実は祝杯として皆に配られるんだよー」
二人の楽しそうな表情を見て、その日がとても特別な日なんだと納得する。慈愛の神様ってことは、ここに送り出したあの人に会えるのか。
「何だか楽しそうなイベントなんだね」
そう言葉を交わした。
感謝祭は二日後にあるらしく、その日は白蛇様の結界も緩み、誰でも入れるようになるらしい。禁断の果実は列を作って勝手に取れと言うらしく、本当に交流のない方みたいだ。
「そろそろ帰らないと。またね」
またと手を振る二人に振り返して、帰路に着く。もう何度目になるだろう、馴れた洞窟は我が家のようで帰るのも億劫ではなくなった。
立ち止まる事なく中に入って、暇潰しに貰った書物を読む。寝る用意を済ませて布団に寝転がり、夢に入るかと言うときに白蛇様が横に現れる。
今でも緊張してしまうが、特にこれと言って何かをするわけでもなく横でおやすみになるだけ。
僕は一日でこの時間がとても好きだ。触ることは出来ないが、弱っている彼が元気になりますようにと、祈りを込めて瞼を閉じた。
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