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そん時は、よろしく。にしおりをはさみました!
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そん時は、よろしく。
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ボクはあからさまに不満を込めて溜息をつく。
そして、反撃とも呼べないような、嫌味にもなり切れていない言葉を長谷川にぶつけた。
「長谷川さん、いつまでりっちゃん家に居座ってるつもり?」
『ん~・・・。
とりあえず、新学期始まる前には帰るつもりだよ?』
「それって明後日じゃんっ!
全然帰る気配無いじゃんっ!」
『ほぼ身一つで来たんだから、帰りの準備とか無いしさ。
ギリギリまで居たいじゃん?』
“分かるでしょ?”みたいな顔をされ、ボクのイライラが倍増する。
だって、分かるんだもん。
りっちゃんと1秒でも長く一緒に居たいって気持ち、ボクに分からないわけない。
そして、出来ることなら2人きりが良いと思ってることも。
分かってる。
分かってるから、ムカつくっ!
「・・・ボク、早くりっちゃんと2人きりの生活に戻りたい。」
『すぐでしょ。
・・・奏チャン、なんか焦ってない??』
“焦ってなんかない”
そう言いかけて、ボクは口をつぐんだ。
ホントに、焦ってるわけじゃない。
ただ、よく分からなくなってきてる。
りっちゃんのことが。
この数か月で、ボクとりっちゃんとの距離は大分縮まった。
縮まったはず。
実際、りっちゃんはボクの“好き”に拒否反応を示さなくなった。
まぁ、軽く流されてるだけなのかもしれないけど。
でも、無いものとしないでいてくれている。
だから、気持ちに応えてもらえなくても、それはそれで“イイ感じ”だと思ってた。
思ってたんだけど・・・。
「りっちゃんのバーーーカ。」
『俺が何だって?』
ちょっと不本意を含んだ、大好きな声と共に、コツンと軽い痛みがボクの頭に伝わる。
待ちに待った、ボクの大好きな人。
本当はすぐにでも抱きついてすり寄りたかった。
でも。
「・・・遅かったね。」
ボクの口から出たのは、不満タラタラも甚だしい、可愛くない声だった。
ハッとして、急いで笑顔を作って“おかえり”と付け足した。
でも、りっちゃんは“ああ”とだけ言って、長谷川さんの側に寄った。
そして、またボクを蚊帳の外にして2人で話し出してしまう。
・・・何さ、それ。
りっちゃんと上手くいってるって思ってたの、ボクだけってこと?
りっちゃんはボクより、長谷川のが良いってことなの?
泣いちゃダメ
そう思えば思うほど、視界が涙で歪んでいく。
とっさにボクは下を向く。
堅く握りしめた手の甲が、ポタリポタリと雫で濡れる。
『奏?』
りっちゃんがボクを呼ぶ。不思議そうに。
ボクは答えない。
ううん。答えられない。
だって、今、口を開いたら何を言っちゃうか分かんないから。
りっちゃんが、もう一度ボクの名前を呼んだ。
答えないボクの背後で、りっちゃんの溜息が聴こえる。
いつの間に移動したんだろ?
そんなことをふと思ったら、頭に何かが降って来て、ポロリとテーブルに落ちた。
好奇心から、頭をゆっくりと上げる。
長方形っぽい独特の“それ”を、ボクは一瞬で把握した。
「お守り・・・?」
そう呟くと、やっぱりボクの後ろに廻っていたりっちゃんが“ああ”と短く答えた。
そして、ボクの顔を真っ直ぐ見つめた
『合格祈願と学業成就のお守り。
そういうの、持ってるだけでも安心だろ?』
「う、うん・・・。」
お礼を言うと、りっちゃんは少し照れたように“どーも”とそっぽを向いた。
そんなりっちゃんに、ボクは顔をほころばせる“べき”なんだろう。
でも、なぜだかそれが出来なかった。
りっちゃんが、ボクのためにお守りを買ってきてくれた。
こんな喜ばしい出来事を、なんでボクは素直に喜べないんだろう・・・?
ボクは一体、どうしちゃったんだろう・・・?
じっとりっちゃんを見つめてみる。
りっちゃんは、これも何故だか分からないけど、ボクから目線をそらし、さらに目を泳がせた。
“何かあったの?”
そうりっちゃんに訊こうとしたけど、お邪魔な長谷川がりっちゃんに焼きそばを勧め、タイミングを逃してしまう。
長谷川は自分が座っていたイスを、遠慮するりっちゃんに半ば強引に押し付け、“近くの別のテーブルからイスを拝借してくる!”と明るい声を上げた。
「そのまま帰って来なくていいよ。」
『帰って来るに決ってんじゃんっ!
奏チャン、酷いッ!』
“ガーン”と効果音が付きそうなオーバーリアクションを取り、長谷川がテーブルに手をついて項垂れる。
ボクの耳元に長谷川の口が丁度近付く。
微かに聴こえる、“律を責めないでやって”という言葉が。
“え?”と訊き返せば、バカはにっこり笑ってネタばらしを始めた。
『ココのお守り、結構利くって有名でさ、売り場、かなり混むんだよね。
dも、少しで奏チャンの役に立ちたいからって、律、単身で乗り込んだみたいだよ?』
あ・・・
そういうことだったんだ・・・
だからりっちゃん、ボクに内緒にしてたんだ・・・
言ったら、ボクもついて行くって言うと分かってたから・・・
分かってくれてたから・・・
「りっちゃん・・・」
『何だよ?』
「・・・ありがとう!
ボク、頑張るっ!」
りっちゃんは、“ああ”と短く答え、微笑んでくれる。
ボクも、涙目で微笑み返す。
幸せいっぱい。
りっちゃんが増々好きになる。
だから、やっぱりこのモヤモヤは、解決しなきゃ・・・。
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