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10月11日のside窪田くん勘違いをするにしおりをはさみました!
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10月11日のside窪田くん勘違いをする
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スマホのアラームが耳障りで、俺は目を閉じたままスマホを掴むと、適当にタップしてアラームを切った。
でも、すぐには起き上がれない。
眠い。
橘はシングルベッドの上でまだ寝息を立てている。
俺は床に敷いた布団の上でぼんやりとしていた。
この時間は嫌いじゃない。
橘の部屋に泊まるのも、いつも俺が借りる布団の寝心地にもだいぶ慣れた。
うっかりすると再び眠ってしまいそうだ。
ふと横を向けば、ベッドの下が丸見えだ。
薄っぺらい引き出しと、数冊積み上がった雑誌が見える。旅雑誌にファッション誌、ビジネス情報誌に…。
「………………」
住宅情報誌が3冊もあって、どれもこれもページの端がいくつも折られている。
最近は一緒に暮らそうという話はサッパリしなくなっていたのに、橘は毎月雑誌を手に入れているようだ。
橘は同棲を諦めていないのか?
なんだか、一気に目が覚めだ。
同棲なんてなんのメリットも無いだろう。
同じ会社で働き、同じ家に帰るなんて、考えただけで息がつまる。
折半することで多少家賃が安くなったとしても、1人の空間を失うのならまったく魅力を感じない。
まぁ、週末だけ2人で過ごすのは悪くないと、最近は思いはじめている。
橘の隣は居心地が……悪くない。
たとえば昨夜は、朝から空手の稽古があると言ったので、橘はセックスには誘わなかった。なんだかんだと最低限の分別はあるのだろう。
かわりに橘が会社で貰ってきたという日本酒を飲みながら、猫が主人公の洋画を観ていた。そして日付けが変わる頃に眠たくなって、2人で歯を磨いて「おやすみ」と言って眠った。
実に、悪くない。
ただ、毎日顔を合わせると神経がもたない。
「……」
俺は住宅情報誌にそっと手を伸ばした。
たくさん折り目のついた雑誌。
開いてみると、マーカでチェックしてあったり、ボールペンでいくつか走り書きがしてあった。
〝レンタルビデオ屋近い〟
ああ、これは俺が嬉しい条件だ。
そのほかにいろんな立地条件をメモしてある。橘は大雑把に見えて、実はしっかり吟味して決断するタイプだ。雑誌の書き込みから、あいつの本気度が垣間見えた。
しかし、だ。
そこには橘の字ではないものも混じっていた。
間取り図のウォークインクローゼットに〝橘さん〟と書いてある。ほかにも〝飲み会向き〟〝新婚向き〟という字も目についた。
誰の字だ?
頭の中がスッと冷えた気がした。
誰が橘と部屋探しをしているんだ。
新婚向きって何だ。
「…………」
橘は、俺と暮らしたいんじゃないのか?
俺は起き上がって、ベッドの上の橘を確認した。
橘が目を覚ます気配は無さそうだ。布団を抱えて憎らしいほど幸せそうに眠っている。
新婚向き?
橘は自分でゲイだと言っていたのに。
相手は誰だ。
どういうことだ。
頭の中でグルグルと考える前に、急に鼻の奥がツンとした。
「………………っ⁈」
自分でもわからない涙が溜まってくる。
なんで俺は泣きそうなんだ?
俺なりに、ショックを受けているということか?
橘が他のヤツと暮らそうとしているなら、それは、つまり…………どういうことだ?
俺は自分を落ち着かせようと、住宅情報誌を元に戻してバスルームに逃げ込んだ。
そもそも、俺が勝手に橘の雑誌をのぞき見たんだ。
マナー違反というやつだ。
こんなことをする俺なら、なおさら同棲なんて向いていない。
「……落ち着け」
俺は熱いシャワーをあたまからかぶった。
誰だ?
ちょっとクセのある柔らかい字体だった。あの文字では、相手が男か女かわからない。
いや、男とか女とか、どうでもいい。
問題はそこじゃない。多分。
「…………」
想像してみた。
橘の隣に誰かがいるところを。
………………。
「〜〜〜〜〜〜」
余計に頭がグチャグチャになった。
最悪だ。
俺はシャワーを終えると橘を起さず帰宅して、まっすぐ空手道場に向かった。
精神鍛錬が足りないせいだ。
冷静さを欠いては、何事も上手くいかない。
俺はこの日、無心になって稽古に励んで、何も考えないよう努めた。
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