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031 年齢にしおりをはさみました!
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031 年齢
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「け……結婚!? 僕が!?」
開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。
不機嫌なハリルと一緒に応接室から出て行ったサディが戻ってきたと思ったら……とんでもないことを言い出したのだ。
「水神とリースリンドの国王が結婚することで、国が豊かになると言われている」そう、告げたのだ。
「王様と結婚って……」
急に言われ、頭を抱える。
「そもそも僕、水神なんかじゃないよ……?普通の高校生だもん……」
「コーコーセー?」
ギルトが僕の言葉に反応して、不思議そうに聞いてくる。
「学生って意味。僕のいた世界は、子供のうちは学校で勉強するの」
「イズミのいた世界?」
二人が首をかしげる。
「あ、そっか……」
そう言えば、彼らにはまだ肝心なことを言ってなかった。
「うーん、話すと長くなるから簡潔にね!」
そして僕は現代日本のことと、そしてここに来た経緯を簡単に説明することにした。
――――――――――
「つまり、俺たちのいるこの世界は、イズミの夢の世界だと?」
サディが難しい顔で聞いてくる。
「うん……」
自分たちの世界が夢だと言われて、彼らは不快にならないだろうか。
「でも今はもう、夢じゃないって思ってるから……」
サディの顔色が先程から優れない。やはり気分を害してしまったのだろうか。
「大丈夫?」
顔を下から覗き込むと、サディは辛そうに顔を歪めて頷く。
(ハリルも無表情で聞いてたけど、やっぱいきなりこんなこと言っても信じて貰えないよね……)
「……やはりイズミは、この国に来るべくして来たのだと思うよ……」
そう言うサディに、大袈裟に肩を竦めて答える。
「水神様、かぁ」
――確かに小さい時から、元の世界に違和感を覚えていたことは確かだった。
でも水が好きだったり、雨が好きだったりするのは偶然だと思う。
「でも多分……僕……」
僕は、そんな立派な存在ではない。水神ではないのだ。
それでも、サディとギルトは僕の言葉を否定すると思った。
二人は、何が何でも僕を水神だと思っているらしい。
(困ったなぁ……)
どうやら異世界から来たことも、そのことを裏付ける要因の一つになりかけている。
「それで、国王と結婚は形式上なの? それとも……あの……身体も?」
「え?」
聞きたくないことではあるが、一番大事なことだと思った。
聞いた途端、ギルトもサディも目を見開いて固まる。
――僕はそれを肯定と受け取った。
「身体も、かぁ……うーん……」
一人悶々と頭を抱えて考え込む。
ただ形式的な結婚ではなく、儀式的な営みも必要なのだろう。
「身体の関係」などと口では言っても、具体的にどんなことをするのかよくわからないのだけれども……。
「でも、王様も男でしょ? 子供もできないのに……それって無意味じゃない?」
僕の質問に、サディも困った顔で答える。
「水神が現れたのは数百年ぶりだから、詳しくは俺たちもわからないけど……」
「あーでも、後継ぎは従兄弟がいるから問題ないんじゃね?」
ギルトは軽い感じで答えるが、問題ないどころか逆に大問題である。
何とか王様に会う前に、僕が水神ではないと証明しなければならない。
異国から来たというだけで、実際は何もできないのだから、そのうち誤解は解けるだろうけれども……。
困惑して悩む僕に、ギルトが追い討ちをかける。
「因みに、リースリンドの国王はハリルだぞ。ハーバイル国王陛下だ」
「え! ハリルが王様?」
そう言えば、確かに『陛下』と呼ばれていたかもしれない。
「ああ……どうしよう……」
「あれ? これ言っちゃまずかったか?」
ヘラヘラ笑いながらギルトが言う。もう少し順序だてて言ってくれれば心の準備もできるのに……。
「いや、助かったよ」
(サディも酷い。何が助かっただよ……)
二人とも「結婚は当たり前」みたいな顔をして淡々と話しているが、いきなり知らされたこちらの身にもなって欲しい。
何としてでも誤解を解かなければならない。あのハリルと結婚するなど、想像もつかないのだ。
「言っとくけど、僕は本当に水神様なんかじゃないんだからね!」
何か助言を貰えないかと二人を見るが、「イズミは水神様だよ」とサディは確信があるようにそう呟く。
やはり、僕が水神だということは譲らないらしい。
ギルトも何も言わないから、彼もそう思っているのだろう。
むぅっと不貞腐れてみせると、サディの表情が少しだけ和らいだ。
「ねぇ、イズミ……」
今更言い淀むサディ。
「なぁに……?」
これ以上何があるのだろうか。
僕は頬杖をつき、溜息をつきながら聞き返す。
先程から無意識にしている数々の言動が、サディの目にどう映っているかなど、気にも留めていなかった。
「イズミは本当に……子供、なのか?」
サディの突拍子な質問に、一瞬固まる。
あまりにも真剣な眼差しで聞いてくるサディに、嫌な予感を覚えた。
「……なんで?」
この質問には、答えてはいけない。――なんとなく、そんな気がした。
この世界で、僕の身長はコンプレックスになっていた。
でも、結婚の話が出ている以上、年齢が関わってくる可能性だって充分にあり得る。
そしてそれは想像通り……。
「ハリルが、イズミが12歳になったら式を挙げると言ってるんだ」
僕は目を見開く。
咄嗟に言葉が出てこなかった。
「12? 早いなハリル! 成人まで待てなかったのかな?」
ハハハと笑うギルトとは裏腹に、僕はどんどんと血の気が失せてくる。
「せ……成人はいくつなの?」
そう聞いたはいいものの、声が震えてしまう。
「成人は15だよ」
そう笑いながら言うギルトに、今度は目眩がした。
――成るほど。これでは口が裂けても16歳とは言えない。
「それで、イズミはいくつになるの?」
サディの口調は優しいが、目は笑ってなかった。
「イズミ?」
笑顔で、もう一度聞かれる。
度々、小さい子供のように頭を撫でられていた。
誰も僕のこの容姿に違和感を抱いてはいないのだ。
だから、きっと嘘をついてもバレないはず。
嘘をつかなければ、否応無しに結婚させられてしまう。
「……じゅっ……さい……」
消え入るような声で、僕はそう告げた。
この嘘のせいで、後々凄く後悔することになるとは気づきもせずに。
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