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理科室にしおりをはさみました!
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理科室
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理科室にやってきた。授業で何回も訪れているが誰もいない理科室は初体験だ。
先生は僕に着替えを渡して「ジュース買ってきます」と言い置いて出て行った。
着替えをのぞかないということかな。先生にならのぞかれてもいいんだけど。というか僕たちは男同士だ。何を言ってるんだ僕。
空野先生が持ってきてくれたシャツやズボンはなぜか暖かく感じて頬を寄せる。数秒間硬直して我に戻り慌てて着替えを済ませた。
ネクタイを結び終わったのと同時に先生が帰ってきた。手には二つの缶コーヒー。
そっと実験台の上にコーヒーを置き、自分の分を手繰り寄せる。
缶コーヒーを一口煽ると、目の前でぼうっとしていた僕に視線をやり「どうぞ冷めないうちに」と促してくれたので、お言葉に甘えた。
あったかいコーヒーが美味しい。冷え切った体にじんわりぬくもりが浸透していく。
一息ついたころ、先生が深いため息をついた。
憂いに満ちたまなざしに体が硬くなる。和やかな雰囲気は徐々にシリアス調に移り変わった。
「どうすればいいんでしょうかね…」
僕なんかのことで悩まないでほしい。
先生は先生の人生があるのにその貴重な時間を僕が使ってしまっているのかと思えば申し訳なさ過ぎて土下座できる。だけど、ちょっぴり嬉しいと思う気持ちは否定できない。
「校長先生に言いましょうか?」
「やめてくださいっ!」
声を荒げた僕に先生は眉を垂らした。ごめんなさい困らせる気はなかったんです。でもだれにも言わないでほしい。
みじめな僕の現状を校長先生からやさしいやさしい親に伝わってしまったら。もう考えるだけで怖い。寒さとは別の震えが走る。
「…すみません、そんなことを望んでいませんよね貴方は」
先生はもう一度「すみません」と謝る。謝るのは僕なのに。
あれもやだこれもやだ、と駄々をこねる子供みたいだ。そんなんじゃ何も解決しないぞ。今のままで生きていくのか。
黙り込んだ僕の瞳を先生はのぞきこんだ。誠実な瞳が僕を緊張させる。すべてを見透かさないで。僕の心までのぞきこまれているようだ。
「でも、私は彼方君を救いたんです」
やめて。勘違いさせるようなこと言わないで。
彼方、これは君が思っている望んでいるような言葉の意味じゃないんだ。ただひどいことをされている僕への憐れみが動かせる同情心なんだ。
だからこれ以上を望むな。つらいだけだ。
伝えないほうが二人にとって幸せになる。僕だけが勝手に苦しめばいい。
好きだなんて、迷惑な感情だ。
ぎゅっとぬるい缶コーヒーを握りしめるとその手を取られて、先生の口元まで持っていかれる。先生の吐息が指先に吹きかけられ肩がはねた。
時折先生は僕を殺す気なんじゃないかと思う。
「やめて先生…僕、その…自惚れちゃうじゃん」
か細い声で唇を尖らせるとふんわり先生は笑った。この笑顔が大好きなんだ。守ってあげたい。クソガキな僕だけど、そう本気で思った。
惚れこんじゃってるみたいだ。
「自惚れてもかまいません。この思いはいじめられている君に対しての同情なんかじゃない」
ぎゅうっと手のひらを握りしめられる。心地よかった体温は急上昇していたいぐらいだ。くらくらしてきた。先生の香りを吸ってしまって息がとまりそうだ。
「私は貴方を守りたい。この思いは伝えないほうが双方幸せなのかもしれません。だけどこらえきれなかった。日を増すごとに強くなっていく恋慕。気が狂いそうでした。禁断以前に私は貴方に言葉を伝える資格などないというのに。すみません我慢の利かない大人で」
悲しそうに眉を垂らす先生。目じりのしわがきゅっと深くなる。僕はどうこたえるべきか。もう決まっていた。
幸せじゃなくても、僕たちは幸せになれるはずだから。
弱弱しい力を込める。先生は驚いたように顔をあげた。何年ぶりにこんなに晴れやかに微笑むことができただろうか。
「先生。僕は弱虫で屑で何よりも劣る人間ですが、愛してくれてますか」
意表を突かれて少し黙りこんだが、すぐにとろけた相貌を見せてくれた。
当然ですよ。その言葉が生きてきて今までで一番、心に染みた気がする。
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