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蜂の死骸と不死身の言葉。にしおりをはさみました!
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蜂の死骸と不死身の言葉。
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"都が喋った"
……それは普通じゃ冗談にもならないほどの到底ありえない事だった。
俺が聞いた限り、…こいつは小学生の時から一切口を開かなかった……つまりずっと自分の意思で喋れないフリをしてきたのだ。
俺が聞いたことのあるこいつの声だって、すべてはこいつの正確な判断の下るような状況でないときの場合、…つまり無意識の時に聞いたものが全てだし、…
本当は声を発する事が出来るのに喋らない、……それがどんなに大変な事なのかなんて、想像しなくても容易に理解できる。
………それを都が今、…自ら破ったのだ…。
ーーーー……でも、今のこの都の表情や行動の全てにいつもの面影が一切みえなく、それが理性的な判断の元下された結果ではないのだとすぐにわかった。
いつもじゃ考えられないような至近距離で都の顔を見る
……すっかり日が落ちて暑くもないはずなのに、額にはうっすらと汗が滲み、いつもはなんの感情も出さずただ伏せ目がちに下を向く睫毛が、くわっ…と開いてそのまんまるの大きな藍鉄色の瞳が、俺の方をただひたすら真っ直ぐに向く。
……その都の目力が半端なかった。
悪い言い方をすれば、都のその目はまるで昔アメリカでみたLSDを服用した時の人間の目に似ていた。
人にこんなに至近距離で見つめられた事はないとかそういうのを超越して、幻覚か幻想か、その目からシパシパとほとばしる、なにかビームや光る粉が飛び散っているようにさえ見えた。
まるで魔法をかけられたかのように爛々として、俺が視線を逸らさないようにグイッと俺の瞳までもを覚醒させる。
………でも、俺はこんな時でさえ、本能的にその都の目をカメラで撮りたいという衝動に駆られたのだ。
撮ってる場合じゃない、
都が喋った、。…都が目を見開いて、俺をアスファルトに押し倒すようなエネルギーを使って、……。
でも、俺はやっぱり正真正銘の餓鬼だったようだ。
こんな時に、写真を撮りたいという欲望と共に、……なぜか沸々と都に対しての"怒り"がこみ上げてきたのだ。
考えれば考えるほどその欲望たちは餓鬼だった。……怒りなんて感じる所どこにあったものか、
でもこういう予期しないような行動を起こされて、俺の中でも何か少し感情のパニックが起こったのかもしれない。
"死は悲しみでしかない"
都はさっき、幻聴ではなく確かにそういった。
それは都が喋らないという今までなにがあっても守ってきたそのルールを破らなきゃいけないほど伝えたかったことなのだろう。
それは、俺がさっき死骸や死体を美しいと表現した事に憤りを感じてのその発言だったのだろうか、
それとも、死体への感情を東雲や大樹や遺跡を見たときの表現と一緒にした事に反発してのものだったのだろうか、。
感じる感情は人それぞれだ。
その感情の翻訳例だって何億通りもある筈。
死骸や死体を見て、もちろんすべての人が美しいという言葉に置き換えなくてもいい。
それはむしろ特殊な表現である方だとわかっているから。
ある人は気持ち悪いと言って
ある人はグロいと言って
ある人は可愛いと言うかもしれないし、
ある人は美味しそうと言うかもしれない、。
別に俺はそれでいい
むしろ俺はその感情を言葉にしなくてもいいと思っているくらいで、
ダンスを踊れる人は感情を身体で伝えればいいし、
歌が歌える人は歌にして伝えて、
絵が描ける人は絵にして伝えればいい。
それができない人間が、ある意味の特権として一番身近な言葉を使って感情をつたえることが出来る。
人が自分の感情に一番近い方法でそれぞれを表現できるのなら、それに越した事はない筈だから。
………………なのにこいつ、……今、"死は悲しみでしかない"って、……そう、勝手に感情を決めつけたよな、?
………………俺にはそれがどうしても許せなかった。
さっきの自分の言葉を借りれば、作為的に決められた一つの感情の翻訳機を指定された気分だ。
感情には無限に可能性がある
……でもそれを一つに絞られる権利はお前になんて微塵もねぇ、…………!!!!
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