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過程-17にしおりをはさみました!
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過程-17
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散々に嬲られた中心は、硬く張りつめて天井を向いていた。血管が浮き出て粘着質な液体で濡れた裏筋を、犬飼の指が関節で擦り上げていく。漏れそうになる声を堪えるために噛んだ唇は痛い。
他人に、こんな風に一方的に追い立てられたのは初めてだった。それ以前に、他人の前に屹立した下半身を露出させていること自体が大河にとって非常事態だ。最初は何とか理性を保っていた頭も、与えられる刺激によって朦朧として、混乱さえ引き起こしていた。手首を掴む拘束は既に離れていたが、大河はベッドのシーツを固く握り締めたままだった。
「ふ、……っ」
犬飼が片手で下肢を弄りながら、もう片方で大河のシャツを捲り上げる。暖房も何もつけていない、冬の室内の空気はひんやりとしていたが、熱くなった身体に鳥肌を立たせることは出来ず、熱冷ましの役目すら果たさない。
触り心地の良い掌が、腹の上を滑る。指先で震える下腹部や腹筋の割れ目をなぞられると、くすぐったいのか気持ちいいのか分からなくなる。筋肉の上を辿る指が最終的に行き着いたのは、大河の意思とは関係なく尖って硬くなった、小さな突起。表面を柔らかく撫でた後で、親指と人差し指で摘まれ、痛いような痒いような感覚が生まれる。そこを人に弄られたのは初めてだ。大河は声を抑えるのに必死だった。
「……仲宗根、我慢しなくていい」
「っく、そ……、ふ…!」
犬飼の生温かい舌が固く閉じた唇の境目をなぞる。その所作が酷く官能的で、同時に乳首と性器を強く刺激され、耐え切れず口を開いてしまった。そこから自分とは思えないような、甘く掠れた喘鳴が漏れ出るのを聞いて、脳味噌がすべて羞恥に支配される。更に猛った性器の尿道口に爪を立てて抉られ、内股がビクビクを痙攣する。抗いがたい衝動が背中を駆け抜けた瞬間、先端から熱い白濁が迸った。
「っ、あ、――ッ」
犬飼の手の中に、すべてを放った。
粘着質で濃厚な液体が、犬飼の掌を滑る。指先が白くなるほどにシーツを握り締めていた手を離すのを始めに、体中の緊張が一気に溶けて弛緩した。あとは荒い呼吸を繰り返した。喧嘩で、ここまで息を切らしたことはない。
「……っ、は…ぁ……」
ベッドに体重を沈めて呼吸を整え、徐々に冷静さが戻り始めると、一気に羞恥と遣る瀬無さが込み上げてきた。
また、犬飼の手で達した。
何故か、犬飼の手によって傷口を触られると、身体が言う事を聞かずに熱を帯び始める。抗いがたい衝動に突き動かされる。そんな時ではないと分かっているのに。
後悔も束の間だった。犬飼の顔を見ることが出来ず、黙って壁の染みを見つめていたが、一度射精したというのにまだ熱が燻っていることに気づいてしまった。
下腹部の甘い疼き。触って、また高まりたいと訴える本能。体内の熱を押し出すように薄く息を吐き出してみるが、収まらなかった。気のせいではない。欲を吐き出したばかりのそれが、更なる刺激を待ち望んで歓喜している。
意識の外に追いやった犬飼が、俄かに動いた。
「っな…!」
両脚の付け根に手を添えられ、ぐい、と左右に押し開かれる。精を放ったばかりにも関わらず再び硬度を持ち始めた雄が白濁で淫らに濡れそぼっている様が、薄闇に慣れた目で捉えられた。
顔が一瞬で熱くなった。その奥が、恥ずかしい箇所が、犬飼の眼前に晒されている。犬飼の視線が、不躾にそこへ向かっている。落ち着き始めた筈の鼓動が脈打つ速さを上げ始めた。性器が、ひくりと震えた。
「やめ…っ、見んな…!!」
犬飼がこちらを一瞥するが、何も言わない。膝裏を掴まれて、膝が腹につく直前まで押し上げられた。柔らかい会陰の奥が晒される。
「くそ…てめえ、マジでやめろ、離せ…っ!」
大河の目も、犬飼の目も、情欲で濡れている。意外というか、驚きだった。犬飼はこんなことをやってのける男なのかと。大河をいかせるとか、局部を凝視するとか、性的なことからは縁遠い性質だと思っていた。
やはり彼も男だった。少なくともこの瞬間は、欲に突き動かされていることは間違いない。大河もそれに従わざるを得ない……いや、そんなことあって堪るかと、犬飼を睥睨した。
「どけっ、ぶっ殺す……!」
「もう死んでる」
「…っ、ぅ、ひ!」
後孔に信じがたい違和感を覚えたのは、犬飼に向かって悪態を吐いた時だった。ぞわり、と背筋が泡立つ。固く目を閉じたが、ますますリアルに感触が伝わってくる――指。
犬飼の指が秘孔に突き刺さっているのだと分かった。思っていたような痛みが不思議とないのは、大河自身の精液のためか、それとも別にあるのか、つまり犬飼の何らかの力にあるのかは知らない。指が押し進められる度に大河を襲うのは、ただの圧迫感だけだ。
「ぅ、う……ぁ」
よく同じ男のケツに指突っ込めるな、と感心したり憤ったりする余裕はなかった。制止も聞かず犬飼の指が無理矢理に侵入してくる。強い嫌悪感や吐き気はなかった。そのことに大河は戸惑った。男にこんな場所を弄られるなんて考えられない。信じられない。なのに期待する程の嫌悪が生まれなかった。
第一関節まで何とか入り、指の付け根まで埋まった。犬飼がそれを出し入れさせると、出っ張った関節の形が身体の中からリアルに伝わる。数が二本、三本、と増えると圧迫感が更に増した。入口が存分に広げられ、後孔が今にもはち切れそうな風船になったような錯覚に、項が冷たくなる。
「……ぃっ、あ、あ!」
「……ここ」
切迫の中に、別の感覚が不意に生まれた。そこを刺激されると身体がビクンと魚のように跳ねる。痛みではなく、確かに快感だった。
「ひっ、…ッん、あ…! 嫌だ、嫌だって、そ…こ、は…っ」
「でも、勃起してる」
「知らね…!」
未開の部分を刺激されることによって与えられる未知の快感に、焦燥しか感じられなかった。自分でも触らない場所だ、そんな所で性感を得られるなんて有り得ない。知らない。自分が知らないのに犬飼は知っている。まだ把握していない自己を暴かれそうな予感がして、恐ろしくなった。
犬飼の指が内部で腹側を執拗に擦ると、腰骨が直接響くような甘い、溶けるような快感が押し寄せる。性器は痛いくらい怒張して屹立している。
有り得ない。自分の身体はどうなってしまうのだろう。こんなところで、感じるものなのか?
犬飼が、中で指を折り曲げて引っ掻きながら言った。
「苦しいか」
「何が…っ」
「三本」
「ったり前、だ、…んっ」
本来は排泄の器官である狭い後孔を、指が往復する。そうしている間にも、もはや圧迫感と快感との区別がつかなくなりそうで、怖い。もう何をされても感じてしまうのではないかと不安になるくらい、身体も意識も蕩ける。
指が完全に抜かれた。自然と詰めていた息を吐き出した途端、身体を俯せに転がされ、腰を持ち上げられた。
犬飼がこれから何をしようとしているのか。予測できないほど、そういう方面に暗い訳ではない。けれど、確信できるほど明るい訳でもないし、犬飼のことを知っている訳でもない。この男がそういう趣向の持ち主なのかどうかは、大河にとって重要とも些細ともつかない情報だった。
「おい、待て、犬飼、何で…っ」
「少し黙って」
双丘の狭間に熱くて硬い物体が押し付けられて、大河は息を呑んだ。火照った身体が急速に冷えていくような錯覚。飽くまで錯覚だ。心拍数が上がり、全身の筋肉が緊張する。くる、と思うと同時に、切っ先が侵入した。声を出す暇もなく、一番太い亀頭がめり込んでくるのが分かった。
「う、ぁあ……っは、はっ」
巨大な熱が狭い器官へと侵入してくる。予想以上の苦しさに刹那、呼吸を忘れた。
とにかく中が熱くて仕方なかった。それが性的な疼きからくるものなのか、犬飼の雄から伝わってくるものなのか、思考をするための酸素を奪われた脳で無意識に考える。凶器が孔を強引に押し進める痛みに、思考は途中で打ち切られた。
犬飼の動きがいったん止まり、背後で熱っぽい溜息が吐かれる。彼だって人間だった。人間には欲というものがある。けれどこの男が匂わせるような所作をすると酷く倒錯的に思えた。
「ひ……っ、は、あぁ…」
「全部入った」
「…っだ、まれ……!」
痛くて、苦しくて、熱い。漏れ出そうになる情けない声の代わりに大河は獣のように低く唸った。ふー、ふー、と威嚇のようだった。
これは現実なのだろうか。この男は今、本当にこんなことを? 何もかも疑いたくなる。実は夢なんじゃないか、自分が今、犬飼に後から貫かれていという状況は。ただの悪い夢なのではないか――犬飼を意識下で望むあまりに夢にまで見てしまっただけで。
「っく、ぅう…!」
犬飼がその性器で、大河の中を弄り始めた。
「あ、…は……っ、はぁっ」
腫れ物を扱うように優しい動きだが、苦しいことには変わりない。歯を食い縛っても意味はなく、気付けば荒い呼吸をしている。シーツを固く握り締めるが、そこで大河は気が付いた。人の手かという程に大きく腫れていた右手が、通常に戻っていることに。
「ぁあ……っ」
中を穿つ雄の形が鮮明に伝わってくる。大河の腰を掴んだ犬飼が前後に身体を揺らす度に、硬くて熱いそれの凹凸が、血管の出っ張りやエラの張った部分までが、肉壁に包まれて摩擦を起こす。
もはや痛みはなかった。圧迫感さえも、犬飼が丁寧に動かしているせいか、徐々に和らいでしまう。寧ろ溶けるくらい熱い肉壁が、退く熱塊を逃すまいと絡みついているようにも感じて、大河は泣きたくなった。臀部の筋肉が引き攣る。
犬飼が、腹側の壁を先端で擦った。
「ん、あぁ……!」
「……いいのか」
「ひ…ゃ、あ、ああ……んっ、い、嫌だ…っ」
指で刺激された箇所だった。先程感じた不本意の快感はまだ覚えている。そこを指よりも太い性器で穿たれているのだから、溜まったものではない。腰の奥がむず痒い快感に襲われて、声を抑えるどころではなかった。
「はぁぁっ、う……あ、あ!」
何だ、これは。ケツに突っ込まれて感じているなんて。有り得ない。おかしい。
一番感じるところを何度も何度も抉られると、自分の口から情けない声が上がる。口を塞ぐ前に犬飼が再び突くから休む暇もなかった。吐息と悲鳴が混じった喘鳴と、身体がシーツに擦れる微かな音に混じって、自分の下肢から卑猥な水音が聞こえてくる。中にある犬飼の先走りが、慣らしただけでは足りない内壁の滑りを良くしていた。
「ぅウ…あ…っ」
「……っ」
背中から覆い被さる男の、詰めた吐息。この行為で性感を得ているのは大河だけでないことが、何故か不思議だった。死んで人ではないものになっても、感覚は人間と変わらないのか。それとも自分の意思でどうこうできるのか。そんなことに興味はないが、犬飼が大河の後孔で確かに呻き声を上げているのは確かだった。
「ふ、ぅ……う、あぁっ、あ」
犬飼が揺さ振る度に、シーツに押し付けた頬が擦れ、半開きになった口から涎が零れる。今の恥も外聞もない姿を、過去の自分が見たら何と言うだろう。頭に血を上らせて罵倒するだろうか。それに対して今の大河が弁解する余地はない。大きな熱に浮かされて、今は快感を追うことしか出来ない。
燻って溜まりに溜まった熱を、早く解放したい。そう思った途端、犬飼の手が下肢に回り、反り返ってシーツに押し付けられている性器を握り込んだ。
「っん……!」
先端から溢れ出る液が、犬飼の手やシーツを濡らす。極限まで膨張しきったそれを扱くと、ぐちゅぐちゅと淫猥な音が聴覚までを犯していく。後孔の粘膜と犬飼の性器をがなす水音と混じり合って、頭がどうにかなりそうだった。
「く……ぅ、ん…っ」
「っ、……どうしたい」
「……は、ぁ…っい、きて……んっ」
中を穿つ角度が変わり、より深く届くようになった。ぎりぎりまで引き抜き、前立腺を圧迫しながら最奥まで太いものが貫く。それだけで、意識が飛んでしまいそうなくらい気持ち良かった。
手の動きが徐々に激しいものに変わり、大河に追い打ちをかける。親指の腹で先端をぐりぐりと弄られ、終いには爪で引っ掻かれた。尿道の内側の粘膜が悲鳴を上げた時、奥底から震えるほどの衝動が突き抜け、性器がびくびくと痙攣しながら精液を吐き出した。
「――ッ」
声もなく、大河はただ息を呑んだ。
同時に後を絞めつけてしまったようで、犬飼が低く呻いた。射精の間にも数度、奥まで貫かれ、身体がビクビクと跳ねる。中に埋まったものが震え、同じように絶頂に達したのだと分かった。
「は、…っはぁ、は……っ」
ぐったりと身体が弛緩して、荒い息を繰り返す。ぐぷ、と音を立てながら後孔に埋まっていたものが引き抜かれ、粘着質な液体が零れ落ち内股を伝うのが分かった。それさえも、唐突に訪れた強烈な睡魔によってじきにうやむやになってしまう。
「……大河」
心地よい低音が、するりと聴覚に入り込んでくる。反応する間もなく瞼がゆっくりと閉じ、大河は眠りへと引き摺りこまれていった。
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