アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
7にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
7
-
「はあ、テストいやだ……」
そう言って馨は机に突っ伏した。
木製のあの独特なにおい。学生時代、何度か嗅いだことのるにおいに何だか懐かしくなる。
帝はクスクスと笑い、教科書をそっと置いた。
「そう言ったってなくなりはしないんだから」
帝の一言で一気に現実に戻され、馨はガバッと顔を上げる。
「……っ、そんなの、わかってるよー」
すると、帝とばっちり目が合ってしまい、一瞬息が詰まる。
ずっと馨のほうをじっと見つめていたのだろうか。危うくも、その目に捕らわれてセリフが飛んでしまうところだった。
まだ大丈夫。まだやれる。
そう自分に喝を入れて、演技に集中する。
「俺はテストあるほうが嬉しいけど」
「ええー? そりゃあ、帝は頭えらいから」
「違うよ」
「え……?」
さっきまで笑っていた帝の顔が急に真剣そのものになり、馨の心臓がドクリと一際大きく脈打った。
せっかく喝を入れたはずなのに、これではまんまと帝のペースに乗せられているではないか。第一、馨が持っているペナルティが大きすぎるのだ。
すぐに心が揺れて、負けてしまう。
馨は、グッと静かに拳を作り耐えようとした。
「だってさ、馨とこんな風に勉強出来ないだろ」
「ぁ、……」
しかし、それも帝の罠に掛かったように。
拳のその上に覆い被さるように、帝の手が重なったのだ。
じん、と心臓に響く甘い痺れに、胸が苦しくなる。もう耐え難いほどなのに、こんなところで撮影を止めるわけにはいかなくて。
馨の心の中で葛藤が生じる。
「俺と勉強するの嫌?……教えるの上手くない?」
「えっと……そんなことは、ない……だって、帝の教え方好き、だし」
セリフが合ってるかなんて、もうわからなかった。それだけ頭はパニック状態で、ついていけてない。
「好き……?」
もうすぐ。もうすぐで、帝に告白されて──。
「ていうかさ! もう帰ろ? 暗いし……うあっ、帝?」
ガタン、と馨が席を立った途端、帝に重ねられた手を引っ張られ、そのまま帝の胸に飛び込む。
「馨」
「な、何?」
「俺さ、馨のことが好きだ」
「……ぁ、」
「好きなんだ」
帝のにおいが、ひどく甘い声が、馨の鼻や耳を擽る。これがまた甘美なもので、馨の身体がふるり、と震えた。
そして、さっきから高鳴っているこの速い鼓動は、触れた部分からきっと伝わっているはずだ。それが恥ずかしくて、馨は体温が急激に上昇していくのを感じた。
「……」
言葉が、出ない。喉がひくひく震えて、言葉にならない。
馨のセリフの番であるのに、しん、と静まり返るスタジオにスタッフが少し慌て始める。馨ちゃん、セリフ! と小さな声で馨に呼び掛けている。
「馨?」
帝に抱き締められた腕をほどかれる。顔を合わせた瞬間、再びドクリと大きく鼓動が音を立てて、なぜだか、泣きそうになった。
馨は、一回息を深く吸って吐いた。
「………………ぼくも、すき……」
消え入りそうな声。
「帝のことが、すき」
次は、はっきりと聞こえるように。
すると、スタジオが密かに感嘆の声に包まれた。どうやら、この告白シーンは一件落着のようだ。
馨は、内心ホッとしたが、ここから確実にハードルが高くなる。キスに、セックス。もうなるがままだ。
そう覚悟すると、帝が近づいてくる気配がしたので、いよいよだ、と思ったのだが──。
「……へえ」
「え?」
馨の瞳に入ってきたのは、帝のニヤリとした顔だった。
「ストップ!」
そして、聞こえてきたのは、撮影を止める帝の声。
何が起こったというのか。その理由はどうであれ、帝が馨に寄りかかったことで、一瞬にして騒がしくなるスタジオ。
「帝くん、大丈夫!?」
「ひとまず、休憩入ります!」
「帝、どこか痛むのか!? 救急箱を早く!」
そんな声が飛び交う中、馨はピタリと動きを止めていた。息も忘れるくらい、まるで時間が止まったかのように。
それは帝が身体を預けているからという単純な理由ではない。
──お前、俺のこと好きなんだろ。
そうはっきりと、帝の声が耳元で響いたからだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 37